信州大学教職支援センター 荒井英治郎研究室

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【論文】荒井英治郎・清水優菜「教師は,いかなる政策の実現を求めているのか-学校教員意識の規定要因分析」『教職研究』第14号,信州大学教職支援センター,2023年3月,53-69頁

【論文】荒井英治郎・清水優菜「教師は,いかなる政策の実現を求めているのか-学校教員意識の規定要因分析」『教職研究』第14号,信州大学教職支援センター,2023年3月,53-69頁

 

『教職研究』の第14号に「教師は,いかなる政策の実現を求めているのか-学校教員意識の規定要因分析」と題した共著論文を執筆いたしました。

 持続可能性を担保した学校の組織・運営体制の確立は急務であることは言うまでもありませんが、本研究では、日々子どもたちと向き合う当事者たる教員は、いかなる教育政策の実現を求めているのか、どのような教員がいかなる教育政策の実現を求めているのか、働き方改革関連の教育施策の必要性に対する教員意識の規定要因を明らかにすることを目的としました。

 特に、本研究では、①「学校の組織レベル」の規定要因として、勤務する学校の児童生徒数、教員数、特別支援学級数、学校種に焦点を当てること、②「教員の個人レベル」の規定要因として、年齢、業務に対する負担感に焦点を当てることとし、どのような学校・教員が、いかなる教育政策の実現を求めているのか、施策の必要性に対する教員意識の認識構造の一端を明らかにしました。これにより、政策的関与、学校組織や教員個人に対する支援のあり方を構想していくための基礎的情報を得ることができたのではないかと思います。

以下、論文の内容を概括したものです。
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●使用データ
 本研究では、JSPS 科研費「教育領域における専門業務のアウトソーシングと教育専門職の変容に関する実証研究」(17H02661)の一環として2018 年7〜8 月にかけて実施された小・中学校教員対象の質問紙調査のデータを用いた。調査は、大都市圏ではない地方のX 県の2 市とY 県の6 市にある小・中学校268 校を対象に行われた。質問紙の配布・回収に関して、X 県の1 市は郵送調査、それ以外の市町村では教員委員会や校長会等を通して実施された。
 調査対象者は、X 県の2 市とY 県の6 市の小・中学校268 校に「常勤で務める教員」で「子どもたちの教育に携わっている方」である教員7559 名であった。その中で、小学校150 校の教員2394 名、中学校75 校の教員1495 名の計3889 名から回答が得られた。

●使用変数
①属性変数
教員の属性変数として、教員の年齢、勤務する学校の児童生徒数、教員数、特別支援学級数、学校種を測定した。学校種は中学校に1、小学校に0 を割り当てるダミー変数とした。

②業務に対する負担感
「学校教員の業務に対する負担感」に関して、質問30 項目を使用した。この項目は、中央教育審議会(2015)、文部科学省(2015)、文部科学省初等中等教育局(2017)等で示された教員業務の記述を踏まえて、KJ 法を用いて作成されたものである(白旗・石井・荒井2021a)。30 項目それぞれについて、3 件法(「負担ではない(1)」、「どちらともいえない(2)」、「負担である(3)」)にて回答を求めた。

③施策の必要性に関する意識
「施策の必要性に関する意識」に関して、質問24 項目を使用した。この項目は、中央教育審議会(2015)、文部科学省(2015)、文部科学省初等中等教育局(2017)等における議論及びその後政策的に配置・拡充が検討・実現されている専門職を踏まえて、KJ 法を用いて作成したものである。24 項目それぞれについて、3 件法(「必要ではない(1)」、「どちらともいえない(2)」、「必要である(3)」)にて回答を求めた。

●分析方法
①業務に対する負担感尺度の因子構造を検討するために、カテゴリカル因子分析を行った。白旗・石井・荒井(2021a)は、業務に対する負担感尺度の探索的因子分析を行っているが、その方法は比例ないし間隔尺度でのみ適用可能なものであった。当該尺度は3 件法、すなわち順序尺度であることを踏まえると、その尺度構造はカテゴリカル因子分析(ミンレス法・オブリミン回転)により検討する必要がある。

②施策の必要性に関する意識尺度の因子構造を検討するために、カテゴリカル因子分析を行った。本研究におけるカテゴリカル因子分析は、以下に基づき実施した。因子数に関して、堀(2005)の推奨に基づき、MAP 基準による因子数を最小、対角SMC 平行分析による因子数を最大とした上で、最大の因子数から順次因子を減らし、解釈可能性が担保される因子数を採用した。項目の削除基準に関して、因子負荷量0.400 未満と共通性0.160 未満をカットオフ値とした。

③本研究の使用変数の基礎的情報として、使用変数の記述統計量を求めた。記述統計量に関しては、サンプルサイズ(n)、平均値(M)、標準偏差(SD)、級内相関係数ICC)を算出した。ICC に関しては、教員の個人レベルの変数である業務に対する負担感、施策の必要性に関する意識、年齢における値を算出した。
 
④学校教員の施策の必要性に関する意識の規定要因を明らかにするために、マルチレベル分析を行った。具体的には、勤務する学校の児童生徒数、教員数、特別支援学級数、学校種を学校の組織レベルの固定効果、年齢と業務に対する負担感を教員の個人レベルの固定効果、勤務する学校を変量効果、施策の必要性に関する意識を従属変数とした。そして、情報量規準AIC により、切片にのみ学校間変動を想定するランダム切片モデルと、切片と固定効果に学校間変動を想定するランダム傾きモデルの比較を行った。
 本研究では、West et al.(2012)の推奨に基づき、AIC が小さいモデルを採択し、パラメータを算出した。なお、分析には、ソフトウェアとして、R(ver. 4.2.0)およびRStudio(ver. 2022.12.0)、パッケージとして、emmeans(ver. 1.8.2)、GPArotation(ver. 2022.4-1)、lme4(ver. 1.1-31)、psych(ver. 2.2.5)を用いた。

●考察
 本研究では、どのような教員がいかなる教育政策の実現を求めているのか、働き方改革関連の教育施策の必要性に対する教員意識の構造を因子分析により検討した。
 得られた因子構造に基づき、どのような小・中学校教員がいかなる教育政策の実現が必要であると認識しているかを検討するために、学校の組織レベルの変数として、勤務する学校の児童生徒数、教員数、特別支援学級数、学校種に、教員の個人レベルの変数として、年齢、業務に対する負担感に焦点を当て、マルチレベル分析により関連を検討した。

 その結果、主たる知見として、次の4 点が得られた。

①小・中学校教員が実現を求めている教育施策には、「学級経営・教科指導の充実施策」、「インクルーシブ教育の推進施策」、「外部資源との連携・協働推進施策」があることが示された。そして、小・中学校教員は、いずれの施策も必要と認識しているが、特に「学級経営・教科指導の充実施策」を希求していることが示された。
 
②勤務する学校に特別支援学級が多い、所属教員の平均年齢が高い、周辺的業務(各会議のための事前準備・事後処理、児童生徒・保護者アンケートの実施・集計、PTA 活動に関する業務、児童生徒の在籍管理、指導要録の作成、地域の学校支援の取組みへの対応、保護者からの要望・苦情等への対応、進路に関するデータ収集、進学説明会等への参加など)に負担を感じている小・中学校教員ほど、「学級経営・教科指導の充実施策」と「インクルーシブ教育の推進施策」の必要性を強く感じていることが示された。
 
③学級経営に負担を感じている小・中学校教員ほど、「学級経営・教科指導の充実施策」の必要性を感じていないことが示された。
 
④小学校教員の方が中学校教員と比べて「学級経営・教科指導の充実施策」の必要性を感じていることが示された。

 以下、上記の知見がもたらすインプリケーションとして、政策的関与のレベル、学校組織に対する支援、教員個人に対する支援のあり方に分けて論じる。

①政策的関与のあり方として、「学級経営・教科指導の充実施策」、「インクルーシブ教育の推進施策」、「外部資源との連携・協働推進施策」全ての実現を図っていくこと、特に「学級経営・教科指導の充実施策」の実現を早急に図っていくことの必要性が示唆される。

②学校組織に対する支援のあり方として、特別支援学級が多い小・中学校に対して、「学級経営・教科指導」と「インクルーシブ教育」に対する支援の必要性が示唆される。また、小学校に対しては、特に「学級経営・教科指導」に対する支援の必要性が示唆される。

③教員個人に対する支援のあり方として、年齢が高い、周辺的業務や学級経営に負担を感じている小・中学校教員の個人に対して、「学級経営・教科指導」と「インクルーシブ教育」に対する支援の必要性が示唆される。

 以上、本研究を通じて、政策的関与のレベル、学校組織レベル、教員個人レベルごとにインプリケーションを提示したことは、学術的意義に留まらず、政策的・実践的意義を有するものといえよう。
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以下からダウンロード可能となっておりますので、ご関心のある方はアクセスください。
https://soar-ir.repo.nii.ac.jp/records/2001429