信州大学教職支援センター 荒井英治郎研究室

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【連載「コンパス」第25回】「学校情報発信に必要な言葉 「伝える」から「伝わる」へ)

【連載「コンパス」第25回】

「伝える」と「伝わる」とは、イコールではない。他者に「 伝える」ためには、「伝わる」 言葉を自覚的に創造していく必要がある。

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 2023年4月16日付の『信濃毎日新聞』の「教育面」( コンパス)に、第25回目の連載原稿を寄稿しました。


 今回のテーマは「学校の情報発信ののあり方」です。


コロナ禍の学校は今、何に向き合っているのか。 あきれるほど繰り返されてきた学校批判の典型的なパターンは、 令和になっても不変で、 これを放置していくことは学校に対する関心が薄らぎ( 教育の私事化の加速)、当事者性が放棄され、「認知的倹約家( コグニティブ・マイザー)」が蔓延することになります。


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①「なぜ、学校は、変わらないのか」という疑問
②「なぜ、学校は、変われないのか」という苦言
③「学校は、何を、考えているのか」という批判
④「学校は、変わりたくないのではないか」という非難
⑤「学校は、何も考えていないのではないか」との失望
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学校は「伝える」と「伝わる」の違いを真摯に受け止めた上で、
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①物事の道筋を論理的に示すために、 メッセージのインパクトを重視したフレーズと客観的なデータを駆 使していく「ロゴス」(論理性)
③心の琴線にアプローチするために、関心のツボを抑え、 感情に訴えかけていく「パトス」(感情訴求性)
③豊富な知見を誠実な気持ちと品位ある態度で示していく「 エートス」(信頼性)

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を意識したコミュニケーションを図っていく必要があると思ってい ます。


 関心・興味のある方がいらっしゃいましたら、ご一読ください。

 
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「学校情報発信に必要な言葉 「伝える」から「伝わる」へ」


 新型コロナウイルスの感染が拡大し、 当時の安倍晋三首相による突然の要請を受けて行われた2020年 2月27日の全国一斉休校。学校は最長約3ヶ月、止まった。 あれから3年。私たちの生活は一変したが、学校は今、 何に向き合っているのか。

 


 あきれるほど繰り返されてきた学校批判の典型的なパターンは、 令和になっても不変である。

 


 「なぜ学校は変わらないのか」─。 学校の情報が適切に発信されていない場合、 保護者や地域住民がよく発する疑問である。 学校が思っているほど、学校が伝えたい思いは、 保護者や地域住民には伝わっていない。

 


 この疑問は時間の経過とともに「なぜ学校は変われないのか」 という苦言を経て「学校は何を考えているのか」 という批判に変わり、「学校は変わりたくないのではないか」 という非難に変貌する。さらに「 学校は何も考えていないのではないか」 との失望に似た負の感情が積み重なると、 その物事の優先順位が下がる。 いつの間にか学校に対する自分の関心が薄らいでいることにさえ無 自覚となる。

 


 行き着く先は、当事者性の放棄だ。 そして時間や労力を費やして物事を論理的に考えること自体を嫌う 人間の習性をあらわす教育版「認知的倹約家(コグニティブ・ マイザー)」が蔓延することになる。

 


 では、学校はどうすれば対話の糸口を見いだせるか。

 


 「伝える」と「伝わる」は違う。 コミュニケーションの在り方を一方通行の「モノローグ」 から双方向の「ダイヤローグ」へと転換していくためには、 少なくとも次のポイントを踏まえる必要がある。

 


 第1は、物事の道筋を論理的に示すために、 メッセージのインパクトを重視したフレーズと客観的なデータを駆 使していく「ロゴス」(論理性)である。第2は、 心の琴線にアプローチするために、関心のツボを抑え、 感情に訴えかけていく「パトス」(感情訴求性)。第3は、 豊富な知見を誠実な気持ちと品位ある態度で示していく「 エートス」(信頼性)だ。

 


 「伝える」と「伝わる」の間には、雲泥の差がある。 この違いを真摯に受け止めることで、 私たちは異質な他者と心を通わせていくきっかけを手に入れること ができる。

 


 新年度の今こそ「伝える」言葉を「伝わる」 言葉へとチューニングし、 対話におけるボタンの掛け違いを正してみてはどうか。 言うは易く行うは難しかもしれない。だが学校は、いつまでも止まってはいられない。

(あらい・えいじろう 信州大教職支援センター准教授)
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