【連載「コンパス」第15回】
「18歳成人年齢時代 来月幕開け─大人側の心構え 自立に必要」
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「18歳成人年齢時代」が問うているのは、若者の心構えだけではない。問われているのは、大人の当事者意識と見識の水準、責任の果たし方である。「自立」は、「孤立無援」を意味しない。
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2022年3月24日付の『信濃毎日新聞』の「教育面」(コンパス)に、第15回目の連載原稿を寄稿しました。
今回のテーマは、「18歳成人年齢」です。明治の太政官布告、民法制定以来、約140年ぶりに「成年」の定義が見直され、2022年4月1日から200万人以上の18-20歳が一斉に「成人」となります。大人の「期待」と若者の「不安」が交錯する中で、気掛かりなのは、若者の活躍のために、大人が何をすべきで、何ができるのかという問いが後景に退いている点です。現状では「新参者」を新たな仲間として認め育て支え、大人社会の価値観をもアップデートしていく視点が極めて乏しく、18歳と20歳の間に張り巡らされていたセーフティネットが果たしてスムーズに移行できるのか、継続支援を要する若者に対するケアが「自立」の名の下にこぼれ落ちないか、社会的自立の支援者は気を揉んでいることと思います。
「自立」の対義語は辞書的には「依存」となりますが、「孤立」ではありません。「自立」は、「孤立無援」を意味せず、自己責任論の貫徹は、若者を「孤立」させ「無縁」な境遇に追いやり、分断社会の溝を広げる恐れもあります。若者世代の躍動を萎縮させることなく、新しい社会を創造していくための自由で主体的な若者のチャレンジを歓迎したいものです。
関心・興味のある方がいらっしゃいましたら、ご一読ください。
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なお、2022年4月1日の変更点等も簡単にまとめておきましたので、ご参照ください。
【18歳以上に変更となる点】
・携帯電話の購入
・クレジットカードの契約
・10年用旅券(パスポート)の発給申請
・一人暮らしの物件契約
・ローン契約
・医師・薬剤師免許、公認会計士・司法書士等の国家資格の取得
・古物業・自動車運転代行業・探偵業等の経営
・女性の結婚可能年齢の引き上げ
・裁判員制度の裁判員選出
「特定少年」(重大事件で起訴された18・19歳)としての実名・顔写真報道対象
【現行年齢のまま】
・飲酒
・喫煙
・公営競技(競馬・競輪・競艇・オートレースなど)の投票券購入
・国民年金の被保険者資格
・大型・中型自動車運転免許の取得
・猟銃所持
・養子縁組の容認
【関連サイト】
【主権者教育】
・「私たちが拓く日本の未来」
https://www.soumu.go.jp/.../senkyo/senkyo_nenrei/01.html
【消費者教育】
・「若年者への消費者教育の推進に関するアクションプログラム」 https://www.caa.go.jp/.../consumer.../basic_policy/...
【消費者庁】
・「社会への扉」(消費者教育教材) https://www.caa.go.jp/.../teaching_material/material_010/
・「18歳から大人」 https://www.caa.go.jp/.../con.../lower_the_age_of_adulthood/
【法務省】
・「18歳を迎える君へ」(法教育リーフレット) https://www.moj.go.jp/.../houkyouiku_koukouseimukeleaflet...
・「大人への道しるべ」(成年年齢引下げ特設ウェブサイト)
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00213.html
【金融庁】
・「基礎から学べる金融ガイド」( https://www.fsa.go.jp/news/r2/sonota/20210219/20210219.html )
・「18歳までに学ぶ契約の知恵」(https://www.shiruporuto.jp/public/document/container/seinen/)
・「金融経済教育(高校授業副教材)」( https://www.fsa.go.jp/teach/simulation/ )
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「18歳成人年齢時代 来月幕開け─大人側の心構え 自立に必要」
2016年の公選法改正に伴う「18歳選挙権」に続き、改正民法施行で成人年齢が引き下げられる。「18歳成人年齢時代」の幕開けである。明治の太政官布告、民法制定以来、約140年ぶりに「成年」の定義が見直しされ、4月1日から200万人以上の18〜20歳が一斉に「成人」となる。大人の「期待」と若者の「不安」が交錯する。
携帯電話の購入に始まり、クレジットカードや一人暮らしの物件の契約に至るまで、親の同意は不要となる。性同一性障害の性別変更の審判請求や女性の結婚可能年齢の引き上げ、裁判員制度の裁判員選出に加え、重大事件を起こした18、19歳の「特定少年」が起訴されれば、実名・顔写真報道の対象となることも大きな変化となろう。
一方、飲酒や喫煙は健康被害の観点から、競馬や競輪などの公営競技の投票券購入はギャンブル依存症の観点から、年齢制限が継続される。国民年金の被保険者資格、大型・中型自動車運転免許の取得、猟銃所持、養子縁組の容認年齢も現行のままである。
「保護されるべき存在」から「自立した存在」へ。法務省、消費者庁、金融庁などは、教育現場での教材などの作成、特設サイトの開設など「無防備な弱者」たる若者が消費者トラブルに巻き込まれることを未然に防ぐ取組に重点を置く。こうした啓発は若者の自己決定権を尊重し、社会参加を促そうという期待の裏返しでもある。
今後は「権利を得たからには義務を果たすべきであり、自己選択・決定できるだけの知識や能力を持つべきである」として、「自立すべき存在」に早期の自覚を迫るメッセージが世に溢れることが予想される。だが、過度に不安を煽ると、新しい社会を創造していくための自由で主体的な挑戦が制約され、若者世代の躍動を萎縮させる可能性があることも自覚しておきたい。
重ねて気掛かりなのは、若者の活躍のために、大人が何をすべきで、何ができるのかという問いが後景に退いている点である。「新参者」を新たな仲間として認め育て支え、大人社会の価値観をもアップデートしていく視点が乏しい。従って18歳と20歳の間に張り巡らされたセーフティーネットはスムーズに移行できるのか、継続支援を要する若者へのケアが「自立」の名の下にこぼれ落ちないか、支援者は気をもむ。
「自立」は「孤立無援」を意味しないのであり、自己責任論の貫徹は、若者を孤立させ無縁な境遇に追いやり、分断社会の溝を広げる恐れもある。
新時代が問うのは、若者の心構えだけはなく、大人の当事者意識と責任の果たし方である。大人の役割は、社会の創り手である若者を荒波へと投げ込むことではないはずだ。
(あらい・えいじろう 信州大教職支援センター准教授)
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