信州大学教職支援センター 荒井英治郎研究室

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【連載「コンパス」第11回】「「18歳成人年齢時代」を前に 社会参加の鍵 若者に渡そう」

【連載「コンパス」11回】

「「18歳成人年齢時代」を前に 社会参加の鍵 若者に渡そう」

 

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そろそろ、社会の歪みと希望の両方が詰まった「パンドラの箱」を開ける鍵を若者世代に渡してはどうか。

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 2021年10月20日付の『信濃毎日新聞』の「教育面」(コンパス)に、第11回目の連載原稿を寄稿しました。

 今回のテーマは、「社会の担い手論」です。古くはアメリカの教育者ラルフ・W・タイラーが「学習者は一般的に自分が行うことしか学ぶことはできない」と、またオランダの教育哲学者ガート・ビースタが、「子どもは教育を通じて市民になるのではなく、すでに、そして、つねに市民なのであり、彼らは来たるべき参加のために学習するのではなく、参加することの中で学習はなされる」と論じていますが、未来社会も担い手である若者は、投票権を有せずとも、政治・行政のステークホルダーの中核であることを私たちは改めて認識すべきであると考えています。関心・興味のある方がいらっしゃいましたら、ご一読ください。

 

 

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「「18歳成人年齢時代」を前に 社会参加の鍵 若者に渡そう」

 

 大人は、日本の政治課題に真摯に向き合ってきただろうか、向き合っているだろうか。
 日本財団が2019年に公表した第20回18歳意識調査の結果は、衆目を集めた。若者の46%が「自分の国に解決したい社会課題がある」としながらも、「自分で国や社会を変えられると思う」は18%に止まり、国際的に日本の若者の「効力感」の水準が際立ったのである。

 

 主権者教育には、歴史的産物である政治の原理やルールを学びながら政治の今を「社会の縮図」と捉え、来るべき未来を展望するといった形で、過去・現在・未来という時間軸の中で「自分」と「政治」の関係を問うことが期待されている。

 

 事実、副教材「私たちが拓く日本の未来」では、唯一の解がない問いに向き合う学びや他者との対話・議論を通じて思考を深める学びが例示されている。ここでは大人が与えた教材だけでなく、学習者が大人の前提を疑い問題の本質をつかみ取っていくような経験をシャワーのように浴びていくことが重要となる。

 

 こうしたことが求められているにもかかわらず「日本の若者は政治に関心がない」という俗説に踊らされ、短絡的に若者の投票率の低さを嘆き、「子ども」と「大人」の境界線を明確化していく議論は、不毛な世代間対立を生じさせ得る。「シルバー・デモクラシー」や「観客民主主義」の課題に対しては、大人こそが若者の等身大の声に寄り添い、大人こそが若者が取り組む社会参画の多様な方法に学び、大人こそがその声を公共的な場に設定していくことが求められているのである。

 

 例えば、学校内で社会参画の経験を重ねていく他に、審議会や協議会などの委員に「若者枠」や「子ども枠」を常設してはどうか。若者が大人の意思決定の過程に参画する多元的な仕組みが日本の文化として根付けば、自分たちの生活実感と地域社会が密接に関係していることを体感する機会となる。

 

 未来社会の担い手となる若者は政治・行政のステークホルダー(利害関係者)であることを忘れてはならない。「沈黙の有権者」と揶揄される若者の生活実感、政治的関心、社会参画の在り方を問う意義がここにある。

 

 来年4月には約140年ぶりに「成年」の定義が見直され「18歳成人年齢時代」に突入する。そろそろ、社会の歪みと希望の両方が詰まった「パンドラの箱」を開ける鍵を若者世代に渡してはどうか。世代間の懸け橋をかけるのは、誰か。
(あらい・えいじろう 信州大教職支援センター准教授)
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