信州大学教職支援センター 荒井英治郎研究室

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【連載「コンパス」第10回】「若者の投票率の低さ─ 大人の当事者意識こそ課題」

【連載「コンパス」第10回】

「若者の投票率の低さ─ 大人の当事者意識こそ課題」

 

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「不信」の構造は、 私たち大人の当事者意識や姿勢に起因している。

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 2021年9月15日付の『信濃毎日新聞』の「教育面」( コンパス)に、第10回目の連載原稿を寄稿しました。

 


 今回のテーマは、「若者と政治」です。 主権者教育の萌芽は日常生活に根ざしていること、 若者の当事者意識もさることながら、 私たち大人の当事者意識が問われていることを論じました。関心・ 興味のある方がいらっしゃいましたら、ご一読ください。

 

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「若者の投票率の低さ─大人の当事者意識こそ課題」

 

 選挙制度は代議制民主主義を駆動させるエンジンであるが、 選挙権年齢を引き下げた2015年の改正公職選挙法の成立は日本 憲政史上エポックメーキングな出来事であった。「 18歳選挙権時代」の到来である。

 


 しかし、世代別投票率が公表され、 若者の投票率の相対的低さに焦点が当てられると、 大人のため息が聞こえてくる。そして、 嘆きムードや無期待感を敏感にキャッチする若者の多くは「 大人不信」になり、「政治不信」 という日本的構造の再生産に拍車をかけ、結果、 自らの世代が不利となり得るアドバンテージを他の世代に与え続け てしまっている。

 


 だが、課題は「向こう側」の若者だけにあるのではなく、むしろ、 大人の当事者意識の感度の低さや新しい感性を持った若者との向き 合い方への躊躇など、「こちら側」 にもあることを自覚すべきである。「不信」の構造は、 私たち大人の当事者意識や姿勢に起因しているのである。


 第一に、選挙権の付与だけでは事足りない。若者は制度的に「 有権者」になったが、「主権者」 としての権利行使を十分に果たし得る条件はいまだ整っていない。 不在者投票期日前投票のさらなる改善など、 投票者に優しい制度の見直しを図らなければ、 形骸化は免れ得ない。大人は、この労力を割けるのか。


 第二に、投票の「量」だけでなく「質」 を高める取り組みこそ求められる。「急がば回れ」である。 次の選挙で若者の投票率が劇的に上がっても、 都合のいい大人の多くは、 投票先など投票の質に苦言を呈し始めるに違いない。「若者は、 何も考えずに投票だけしている」、と。


 来るべき有権者として模擬投票を通じて選挙の仕組みを理解するこ との意味は疑うべくもない。しかし、時間がかかり、 非効率的で非生産的かもしれないが、 政治的争点に対する政策案の政党間の違いはなぜ生じるのか、 対立する価値観を前にどのような合意の方法があり得るのかなど、 民主主義の本質に迫る物事の捉え方を多様なアプローチで学んでい くことの方が、普遍的で汎用的な視点・ 視野を主権者として習得し得る点で意義深い。「主権者教育」を「 有権者教育」に矮小化してはならないのである。大人に、 その覚悟はあるのか。

 


 日本社会を憂い「若者バッシング」に精を出す前に、 当事者意識を持って「政治と若者」 という社会課題に向き合う大人はいかほどか。 閉塞感の蔓延に加担しているのは、実は私たち大人なのである。
(あらい・えいじろう 信州大教職支援センター准教授)
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