信州大学教職支援センター 荒井英治郎研究室

信州大学教職支援センター 荒井英治郎研究室に関するブログです。

【連載「コンパス」第16回】「常に「危機」と隣り合わせの学校 意識疎通 課題から学ぶ組織へ」

【連載「コンパス」第16回】

「常に「危機」と隣り合わせの学校 意識疎通 課題から学ぶ組織へ」


--------------------------------------
「よい学校」とは、課題が全くない学校を意味しない。「よい学校」とは、課題が解決されていなくとも、学校・保護者・地域で問題の所在と進むべき方向性を共有しながら学び続ける「学習する組織」を指す。
--------------------------------------

 2022年4月27日付の『信濃毎日新聞』の「教育面」(コンパス)に、第16回目の連載原稿を寄稿しました。

 

 今回のテーマは、「危機管理」です。

周知の通り、学校は「危機の宝庫」ですが、初期対応を誤ると、ボタンの掛け違いと同じように、課題は長期化し、解決は遠のきます。では、危険にどう向き合っていくべきか。ここでは、「リスク・マネジメント」「クライシス・マネジメント」「ナレッジ・マネジメント」を紹介した上で、そこで重要となることは、不都合な真実や関わりたくない他者とのやりとりに蓋をするのではなく、意識的にコミュニケーションをとることで、危機それ自体のスリム化を図ることです。

 教育現場は、息つく暇もない分刻みスケジュールが続いていることと推察されますが、だからこそ、自分や他者とコミュニケーションをとり、何のために、誰のために、何に、向き合っているのかを忘れないようにしたいものです。

自分のココロとカラダ、他者とのコミュニケーションのメンテナンスは、今からでも遅くはありません。関心・興味のある方がいらっしゃいましたら、ご一読ください。

 

----------------------------------------------------------------------------
「常に「危機」と隣り合わせの学校 意識疎通 課題から学ぶ組織へ」

 

 

 学校事故、心のケア、保護者対応、非違行為防止、労務管理、そして、感染症対策。

 

 

 学校は常に「危機」と隣り合わせにあるが、初期対応を誤ると、ボタンの掛け違いと同じように、課題は長期化し、解決は遠のく。

 

 

 では、生じる可能性のある危険にどう備えるか、危機管理論の基本を確認しておきたい。

 

 

 第1は危機に陥らないために予防策を講じる「事前」の危機管理。これを「リスク・マネジメント」と呼ぶ。好ましくない現象が生じる確率的な危険度(リスク)と潜在的危険源(ハザード)は異なり、「リスク=ハザード×発生確率」との公式を頭に置かれたい。リスクは主観的か客観的かで確率は変わる。何が危機かを見渡す視野の広さと、比較衡量しながら優先対応すべき課題を特定する鑑識眼も重要となる。

 

 

 第2は生じた現象に適切・迅速に対応し、危機拡大を最小化する「事後」の危機管理である。これを「クライシス(危機)・マネジメント」と呼ぶ。例えば学校事故をゼロにすることは不可能に近い。であれば、事案発生後の対応フローの整備は、解決イメージの共有につながる。

 

 

 第3は過去の事例を通じ、認識の刷新と共有化を図る「ナレッジ(知識)・マネジメント」。失敗・成功事例の教訓や特徴を、校内体制に照らし合わせ組織改善を図ることは「自分は大丈夫」というバイアスの矯正や「自分達にもできる」という組織肯定感を高める「学び直し」の機会ともなる。過去と丁寧に向き合うことが、現在を理解し、未来を展望することにつながる。

 

 

 ここで重要なことが、積極的にリスク・クライシス・ナレッジと「コミュニケーション」を図ることである。不都合な真実や関わりたくない他者とのやりとりに蓋をするのではなく、意識的にコミュニケーションをとることで、危機それ自体のスリム化を図るのである。

 

 

 「よい学校」とは、課題が全くない学校を意味するのではなく(むしろ、そのような認識自体が危うい)、課題が解決されていなくとも、学校・保護者・地域で問題の所在と進むべき方向性を共有しながら学び続ける「学習する組織」を指す。

 

 

 新年度開始後一カ月弱、息つく暇もない分刻みスケジュールが続く。だからこそ、自分や他者とコミュニケーションをとり、何のために、誰のために、何に、向き合っているのかを忘れないようにしたい。自分のココロとカラダ、他者とのコミュニケーションのメンテナンスは、今からでも遅くはない。


(あらい・えいじろう 信州大教職支援センター准教授)
-------------------------