信州大学教職支援センター 荒井英治郎研究室

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【連載「コンパス」第4回】「子どもの7人に1人が貧困状態─「公助」の役割問い直す時」

【連載「コンパス」第4回】

「子どもの7人に1人が貧困状態─「公助」の役割問い直す時」

 

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 夢や希望が「ない」のではなく、 夢や希望という価値をまだ「知らない」

 

 子どもとしての尊厳とウェルビーイング(心身の充足感) が剝奪された状態の「子どもの貧困」。困難家庭の子どもが「 認知能力」(学力検査から測定される能力や学歴など) の習得機会だけでなく、やり抜く力、自制心、学習・労働意欲、 協調性といった、生きる基盤となる「非認知能力」 をも獲得する機会が日々刻々と失われていく中で、改めて「公助」 の対象や方法を問い直す必要がある。

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 2021年2月3日付の『信濃毎日新聞』の「教育面」( コンパス)に、第4回目の連載原稿を寄稿しました。関心・ 興味のある方がいらっしゃいましたら、ご一読ください。

 

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「子どもの7人に1人が貧困状態─「公助」の役割問い直す時」

 

 「一億総中流社会」は「死語」となり、「子どもの貧困」 という用語は市民権を得た。

 


 「子どもの貧困」とは、 子どもが経済的困難と日常生活を営む上で必要なものの剥奪状態に 置かれ、成長段階の多様な機会にアクセスできなくなり、 子ども期だけでなく後に続く人生全体に悪影響を与える不利益を被 ることを指す。言わば、子どもとしての尊厳とウェルビーイング( 主観的幸福感)が剥奪された状態である。

 


 子どもの相対的貧困率は13.5%、実に「7人に1人」 が貧困状態にあり、OECD加盟国中、最悪水準にある。 事の重大さは、困難家庭の子どもが「認知能力」( 学力検査から測定される能力や学歴など)の習得機会だけでなく、 やり抜く力、自制心、学習・労働意欲、協調性といった、 生きる基盤となる「非認知能力」 をも獲得する機会が日々刻々と失われていく点にある。
これまでの研究では、 母子世帯の貧困率は他と比べて高水準にあること、 子ども3人以上の多子世帯の貧困リスクが高いことだけでなく、 貧困状態が子どもの健康や学力、 学校における疎外感や幸福感のデータと強い関係があることが指摘 されてきた。「子どもの貧困」は、子どもの「現在」 の生活を危機に陥らせるだけでなく、 長期にわたり連鎖し次世代へと引き継がれる構造的な問題として、 「未来」の生活をも固定化する。これを「貧困の世代的再生産」 と呼ぶ。貧困の固定化ほど、人に絶望感を与えることはない。 彼らは、夢や希望が「ない」のではなく、 夢や希望という価値をまだ「知らない」可能性があるのである。

 


 私たちは自分の「生まれ」を選ぶことはできない。従って、 子ども自身に責任はないが、「自助」はすで限界に達している。 現在、NPO等が中心となって、 子ども食堂や子ども無料じゅくなど、 衣食住のベーシックニーズを満たすことが困難な家庭への支援や子 どもの学習支援、心のケアが行われている。信州の「共助」 ネットワークは全国から羨望の的にもなっている。

 


 ただ現状を問い直す必要もあろう。憲法上の要請である「生存権」 保障の名宛人はそもそも誰なのか、と。「共助」 というフレーズが醸し出す美名の罠に陥り、 地域の共助型セーフティネットだけに甘んじていては問題の本質を 掴み損ねる。経済的貧困から、身体的貧困を経て、 心理的貧困に至る絶望のスパイラルを断ち切り、 子どもの尊厳とウェル・ ビーイングの確保のために国や自治体が果たすべき「公助」 の役割は何か。コロナ禍の日本は、重大な局面にある。
(あらい・えいじろう 信州大教職支援センター准教授)
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