信州大学教職支援センター 荒井英治郎研究室

信州大学教職支援センター 荒井英治郎研究室に関するブログです。

【連載「コンパス」第3回】「激動した2020年の締めくくり 1年がんばったね伝えよう」

【連載「コンパス」第3回】

「激動した2020年の締めくくり 1年がんばったね伝えよう」

 

----------------------------------------------------------------------------

「隠れたカリキュラム」が果たす2つの機能をうまく捉えながら、 未だ子どもたちに沈黙のリーダーに代わって、今こそ私たちから、 子どもたちに、いたわりのメッセージを伝えよう。

----------------------------------------------------------------------------

 


 2020年12月23日付の『信濃毎日新聞』の「教育面」( コンパス)に、第3回目の連載原稿を寄稿しました。関心・ 興味のある方がいらっしゃいましたら、ご一読ください。

 

----------------------------------------------------------------------------

「激動した2020年の締めくくり 1年がんばったね伝えよう」

 

 Learning by Doingというフレーズが物語るように、 子どもは体験を自らの学習経験として内面化し、成長する。 成長は学習の結果であるとともに目的でもあり、実に尊い。 ところが、物事には機能と逆機能がある。では、子どもにとって、 学びの場である教室はユートピアか、ディストピアか。

 


 アメリカの教育学者フィリップ・ ジャクソンは1968年刊行の著書で「隠れたカリキュラム」 の概念を提起した。 知らず知らず教師から子どもに伝達され内面化される価値観の体系 を指す。例えば、協調性・社会性・勤勉性、 我慢強さや時間厳守の他、期待された通りに男・ 女らしく振る舞うこと、大人の指示に従順であることなどである。

 

 一連の研究は、「群れ」「賞賛」「権力」 という三つの特徴を持つ教室が、 学校的な価値観を無自覚に子どもに植え付け、 適応を強いる側面があることを示唆する。例えば、 教室での単独行動は自分勝手な振る舞いとされ、「群れ」 の中で与えられた課題に忠実に取り組むことが要請される。 また教室ではあらゆる活動が評価の対象となる。誰かの「賞賛」 の舞台裏では、教師や級友の眼差しを通じて自己像が投影され、 その評価によって自分らしさが形成されることに気づき、優越感・ 劣等感を感じさせる。さらに、教室や授業は「権力」 を握る大人が統制する場所・時間に過ぎないのではないかと、 ときに虚無感がよぎる。

 

 子どもは「読み」「書き」「計算」だけを学んでいるのではなく、 他人の眼差しや振る舞い、言葉かけから、 隠れたカリキュラムとしての「規制」「規則」「慣例」 を無意識に習得しているというのである。

 

 さて、コロナ禍の2020年、子どもたちは、 何を学んだのだろうか。新しい漢字や英文法、 マスクをしながらのコミュニケーションスキルか。 それとも不透明な未来に対する絶望感や人生の不条理か。 あるいは自分たちこそが社会を変えていけるのだという手応えか。 年の瀬にこの問いに想いをはせるのも無駄ではあるまい。想像は、 未来社会を創造するための必要条件となるのである。

 


 子どもたちにメッセージを伝えよう。「2020年、 大変だったけど、よくがんばったね、ありがとう」と。 これからの社会をつくる子どもたちを下支えする隠れたカリキュラムとして染み渡るはずである。
(あらい・えいじろう 信州大教職支援センター准教授)
------------------------------------