信州大学教職支援センター 荒井英治郎研究室

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【連載「コンパス」第18回】 「人口減少実感する小中学校の現場 学校の在り方探す旅支度を」

【連載「コンパス」第18回】
「人口減少実感する小中学校の現場 学校の在り方探す旅支度を」

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人は「法律」や「ルール」だけでは動かない。動かせない。人は「言葉」に突き動かされる。学校はその言葉に「意味」を待たせるべく「自問自答」の機会を作ってみてはどうか。
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 2022年7月13日付の『信濃毎日新聞』の「教育面」(コンパス)に、第18回目の連載原稿を寄稿しました。
 
 今回のテーマは、「学校の存在意義」です。
 
 子どもの発達の早期化の影響も手伝って、教育DX論やエコシステム論が盛り上がりも見せ、近代社会の「発明品」である公教育制度それ自体に「メス」を入れる議論が活発化しています。
 今回は、三つの鍵概念(①ミッション、②ビジョン、③ストラテジー)を「旅」に見立てて、学校の「在り方」を問い直す旅の「身支度」を整えるための土俵を設定してみました。関心・興味のある方がいらっしゃいましたら、ご一読ください。
 
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「人口減少実感する小中学校の現場 学校の在り方探す旅支度を」
 
 「人口減少」を体感しつつある課題先進国ニッポン。2030年には小中学校の平均学級規模が11~13人前後となるという試算もある。


 この水準になると、子どもの発達の早期化の影響も手伝って、物事を「わける」ことの意義をどこに見出すのか、近代社会の「発明品」である公教育制度それ自体に「メス」を入れることが不可避となる。「手術」が必要なのは、年齢で区分される学級や学年、学習指導要領に規定された教科や単元、就学前教育・小学校・中学校・高校といった学校段階、地域を分割する学区など、きりがない。ただし、手術の成功率の高低も当然のことながら未知である。


 ここで三つの鍵概念(①ミッション、②ビジョン、③ストラテジー)を「旅」に見立てて、学校の「在り方」を問い直す旅の「身支度」を整えたい。


 第1に「ミッション」とは、旅の「目的」を指す。何のために学校がその地域にあるのか、どのような資質や能力を育成するために教育活動を展開しているのか。この問いに対する答えは、独り善がりであってはならず、保護者や地域住民に加え、学びの主人公たる子どもたちに対する説明としても、耐え得るものでなければならない。ミッションは外部の関係者との「対話」が必要とされ、ひいては未来の関係者に向けたメッセージとしても機能する。この意味で使命や存在意義と連なる。


 第2に「ビジョン」とは、旅の「目的地」を指す。どのような学校づくりを展望しているのか、学校の将来像を関係者の心に映し出せているのか。「未完のプロジェクト」である学校づくりは「耐久レース」でもある。道に迷い、心が折れることも少なくない。そのようなとき、ビジョンは学校組織の行先を照らすサーチライトの役割も果たす。


 第3に「ストラテジー」とは、目的地までの「道のり」を指す。ミッションの実現のため、どのような方法があるのか。何を基準に優先順位をつけて、取捨選択していくのか。選び決める過程では組織にとって重要なバリュー(価値)が浮かび上がることになる。


 昨今の感染症対策が物語るように、人は「法律」や「ルール」だけでは動かない。動かせない。人は「言葉」に突き動かされる。学校はその言葉に「意味」を待たせるべく「自問自答」の機会を作ってみてはどうか。ときに厳しく、ときに険しい、しかし、人々に至高の感動を与える崇高な旅の支度を始めよう。

(あらい・えいじろう 信州大教職支援センター准教授)