信州大学教職支援センター 荒井英治郎研究室

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【書評】荒井英治郎「勅使川原真衣『「能力」の生きづらさをほぐす』」『教職研修』2023年9月号,114頁

【書評】荒井英治郎「勅使川原真衣『「能力」の生きづらさをほぐす』」『教職研修』2023年9月号,114頁

 教育開発研究所の『教職研修』からのご依頼で、勅使河原真衣さんの『「能力」の生きづらさをほぐす』の書評を執筆させていただきました。

 

 ドイツの言語学者ウヴェ・ペルクセンは、意味していることが曖昧であるにもかかわらず、あたかも新しい内容を伝えているような錯覚を引き起こす用語を「プラスティック・ワード」と呼んでいます。

 

 ところが、教育社会学の薫陶を受けた組織開発コンサルタントによる本書が、母と2人の子どもの「対話」で繰り広げられる物語で論じている「能力」概念は、それ以上に私たちの人生(言動、考え方、習慣、性格など)をコントロールしています。

 

 意識せずとも知らないうちに影響を受け、ひとたび意識したらゴールなき耐久マラソンに半ば強制参加させられることになり、心身ともに休まらない。
 手に入れたくて追い求めていたのに、気づけば、追いかけられて苦しめられる。学校時代のみならず、社会人となってからも、ずっとです。

 

 本来、他者との関係性や置かれた環境によって大きく左右される可変的概念であるにも関わらず、個人の所有物のような錯覚を引き起こし、思考形式までも覆い尽くす「能力」概念。

 

ただ、その問題性に首肯するだけでは、自己増殖する「能力」の片棒を担ぎ、自身がその再生産の歯車となるだけであるという本書の指摘は、重い。私たち一人一人が「共犯者」です。

ご興味がある方は、ぜひお手に取ってみてください。