信州大学教職支援センター 荒井英治郎研究室

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【連載「コンパス」第2回】「AIが出題診断『 GIGAスクール』 それでも自ら考える力は必要」

【連載「コンパス」第2回】

「AIが出題診断『 GIGAスクール』 それでも自ら考える力は必要」

 

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 「個別最適な学び」という言葉が一人歩きし、「プラスチック・ ワード」とならないために何ができるか。 AIから自動的に出題される前に「自分の頭で考えること」 から始めてみてはどうか。私たちはAI搭載型スマホではなく、 人間なのだから。


 日々の学びに、自分の「今」とじっくり向き合い、自分で考え、 共に決めていく意思決定の営みが組み込まれているかが問われていくことになる。

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 2020年11月18日付の『信濃毎日新聞』の「教育面」( コンパス)に、第2回目の連載原稿を掲載いただきました。関心・ 興味のある方がいらっしゃいましたら、ご一読ください。

 

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「AIが出題診断『 GIGAスクール』 それでも自ら考える力は必要」

 

 「GIGAスクール」旋風、巻き起こる。GIGAは、 Global and Innovation Gateway for Allの略で、文部科学省は「1人1台端末」を皮切りに、 クラウド活用や通信環境の整備を通じて個別最適化された創造性を 育む教育の実現を謳う。他方、AI搭載型ドリルを通じて、 問題を解けば解くほど、子どもの理解度・ 習熟度に応じた問題が出題され、 基礎学力だけでなく学習意欲も向上できるという一面的なストーリ ーが喧伝されている節もある。

 


 情報通信技術(ICT)環境の整備は手段であり目的ではない。 与えられた目的のために高速処理を行うAIに対し、人間には、 人生やよりよい社会のあり方を構想するため、 その目的自体を問い直し、 新しい価値を創造することが求められる。AIがその子ども( の学力)に「最適」と判断した問題だけを出題し、「 解けと指示されたから解く」という他律的な教育では、 創造性を育むという本来の目的の達成は夢物語に終わる。従って、 子どもの主体性を方向付ける「自己決定」や多様な他者との「 協働性」を重視した、自律的な学びの展開に期待がかかる。 日々の学びに、自分の「今」とじっくり向き合い、自分で考え、 共に決めていく意思決定の営みが組み込まれているかが問われてい くことになる。

 


 ドイツの言語学者ウヴェ・ペルクセンは、 意味が曖昧なのに新しい内容を伝えているかのような錯覚を起こさ せる用語を「プラスチック・ワード」と呼び、 政治やメディアだけでなく、 私たちの日常会話にまでそれが蔓延することに警鐘を鳴らした。 最近の例では「Society5・0」「DX」「 ニューノーマル」が挙げられよう。 これらは短期的には私たちに何らかのアクションを起こすことを強 い、長期的には私たちの思考そのものを支配し、 思考停止に陥らせる。そして、気づけば、 私たちはそのワードを定義する力を持たなくなってしまうという。

 


 子どもには個性溢れる創造的な人間に成長してほしいと皆願う。 ところがGIGAスクール構想には魅力と魔力があり、 バラ色の結論だけが約束されているわけではない。「 個別最適な学び」という言葉が一人歩きし、「プラスチック・ ワード」とならないために何ができるか。 AIから自動的に出題される前に「自分の頭で考えること」 から始めてみてはどうか。私たちはAI搭載型スマホではなく、 人間なのだから。
(あらい・えいじろう 信州大教職支援センター准教授)
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