信州大学教職支援センター 荒井英治郎研究室

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【書評】荒井英治郎「本多正人・川上泰彦編、小川正人・植竹丘・ 櫻井直輝著『地方教育行政とその空間─ 分権改革期における教育事務所と教育人事行政の再編』」『 教育学研究』第89巻第4号,2022年12月号,日本教育学会

【書評】荒井英治郎「本多正人・川上泰彦編、小川正人・植竹丘・ 櫻井直輝著『地方教育行政とその空間─ 分権改革期における教育事務所と教育人事行政の再編』」『 教育学研究』第89巻第4号,2022年12月号,日本教育学会
 
日本教育学会からご依頼いただき『教育学研究』 第89巻第4号に、『地方教育行政とその空間─ 分権改革期における教育事務所と教育人事行政の再編』 の書評を執筆させていただきました。

本書は、2000年代の地方分権改革・市町村合併・ 地方行財政改革の進展が「教育行政空間」に与えた影響を、 メゾレベルの教育行政単位である教育事務所の再編と教員人事行政 の運用実態に着目して分析したものです。
 ここでの「教育行政空間」とは、 事務処理体制の効率性等を踏まえて設置されてきた都道府県教育委 員会の出先機関である教育事務所の単位、 都道府県と市町村の中間に設定された空間としての県費負担教員の 人事異動範囲を指します。

これまで、フルセット主義の「総合的な行政主体」 論が小規模自治体の合併促進の根拠に据えられ、都道府県─ 市町村の一元系統化や垂直型階層構造の解消を目的とした「 適正規模論」が主張されてきましたが、 政策実施の文脈依存性を捨象した評価や形式・ 機械的な資源配分論議が展開されてきたきらいがありました。

これに対して、本書は、 教育行政の基礎概念を空間管理の局面にまで拡張し、 事例の文脈性や経路依存性に着目することで、 全国一律的な教育行政モデルの限界を指摘し、空間概念の普遍性・ 抽象性・公共性の再考を促すものとなっています。

ご関心のある方はぜひご覧ください。

https://www.gakuji.co.jp/ script/bkDtl.php?prodid=978-4- 7619-2827-8

 


以下、出版社HPから目次の転記となります。
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目次
はじめに
第I部 教員人事、適正規模論と教育行政の空間
序 教育行政の空間に関する先行研究の整理

第1節 再編前の教育事務所

第2節 教育行政単位

第3節 再編後の教育事務所

第1章 問題の所在

第1節 市町村の規模と教育行政能力

第2節 県費負担教職員制度のもとでの都道府県の機能

第3節 教育行政空間の分割手法―米国における教育行政の広域化

第2章 2000年代以降の教育行政空間を巡る変化の諸相

第1節 変化の文脈依存性

第2節 教育事務所再編の動向と都道府県行政を巡る諸改革の関連

第II部 教育行政空間のスケール―教育事務所再編の事例
序 課題設定と事例の位置付け

第3章 「移動教育事務所」創設による県・市町・学校関係の再構築― 山口県の教育事務所廃止

第1節 事例研究としての意義

第2節 県の行財政改革を契機とした教育事務所再編(廃止)

第3節 「分散」型指導主事配置への移行

第4節 分散・融合型広域指導行政体制の構築

第5節 事務所廃止後の教職員人事

第6節 小括

第4章 県・市町の新たなパートナーシップの模索― 長崎県における教育事務所廃止

第1節 長崎県における教育事務所の廃止

第2節 教育事務所廃止の指導行政に与えた影響

第3節 小括

第5章 新たな中間組織の模索― 和歌山県における教育事務所の廃止と教育支援事務所の試み

第1節 事例研究としての意義

第2節 教育事務所廃止の背景と経緯

第3節 教育支援事務所の創設、活動と市町村教委の評価

第4節 教育支援事務所の活動

第5節 まとめ

第6章 支援的関与の充実―佐賀県における教育事務所再編

第1節 研究事例としての意義

第2節 教育事務所再編統合前の状況

第3節 教育事務所再編に向けた動き

第4節 再編後の動向

第5節 小括

補論 教育事務所未設置県にみる教育行政空間

総括 近年の地方行政環境の変容と県―市町村関係の新たな課題

第III部 教員人事行政の空間
序 課題設定

第7章 教員人事異動「空間」の変動と定着―戦後日本の教員人事異動

第1節 法令上の「教員人事異動」

第2節 教員人事異動に関するこれまでの調査

第8章 教員人事異動空間の析出―定期人事異動データの分析

第1節 はじめに

第2節 人事異動率の分析―異動の実態の把握

第3節 人事異動率の分析―広域異動に寄与する要因の検討

第9章 「広い異動」の定着―鹿児島県

第1節 鹿児島県の概況

第2節 鹿児島県の学校教育の概況

第3節 県教委インタビューから示唆される鹿児島県の教員人事異動の背景

第10章 「狭い異動」の定着―富山県

第1節 富山県の概況

第2節 富山県の学校教育の概況

第3節 県教委インタビューから示唆される富山県の教員人事異動の背景

第11章 広域化による教員人事異動空間の変動―佐賀県

第1節 教員人事異動の「広域化」

第2節 インタビュー調査について

第3節 「広域化」以前の状況

第4節 異動広域化の推進

第5節 教職員組合との調整

第6節 広域異動が可能になったことでの変化

第7節 小括

第12章 教員人事行政空間の諸相―人事協議会と地域限定採用

第1節 教員人事の事務の共同処理―人事協議会

第2節 地域限定採用の概要と論点

第13章 地域限定採用による中核教員の育成―北海道

第1節 地域限定採用の選考検査、受験者数と採用者数

第2節 地域限定採用教員制度の導入の背景と運用の実際

第3節 日高管内における地域限定採用教員制度の運用

第4節 小括

第14章 地域限定採用による「地域に本拠地を持つ教員」の確保―島根県

第1節 地域限定採用の概要

第2節 県全体の概況と制度導入の経緯

第3節 採用後の異動や人材育成等

第4節 地域限定採用実施による変化

第5節 管理職選考との関係など

総括

おわりに
参考文献一覧

あとがき

巻末資料 2016年調査の概要と調査票

執筆者一覧

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