信州大学教職支援センター 荒井英治郎研究室

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【連載「コンパス」第23回】「時代を反映してきた夜間中学ー幸せのための学び 実現を」

【連載「コンパス」第23回】

ウェルビーイングの実現を謳う我が国において、「幸せに、生きるために学ぶ」ことは、ぜいたくか。

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 2023年2月4日付の『信濃毎日新聞』の「教育面」(コンパス)に、第23回目の連載原稿を寄稿しました。

 今回のテーマは「夜間中学」です。

人は、なぜ、学ぶのか。子どもは、学びの場に、何を求めているのか。私たち大人は、果たして、日々、何かを学んでいるのか。これらの問いに向き合わせてくれる存在に、夜間中学があります。令和時代となり、その存在が再び衆目を集めていますが、学びの本質をどう捉え、公教育の輪郭をどうなぞるかが問われています。

時代状況を反映してきた「写し鏡」としての夜間中学は、いかなる未来を照らすのか。「誰一人取り残すことのない令和の日本型学校教育」というフレーズを陳腐化させない覚悟が試されています。

「生きるために学ぶ」といった生存権・学習権の保障に留まらず、「よりよく、幸せに生きる」といった幸福追求権の実現に向けた制度設計・運用が求められています。

 関心・興味のある方がいらっしゃいましたら、ご一読ください。

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「時代を反映してきた夜間中学ー幸せのための学び 実現を」

 人は、なぜ、学ぶのか。本質的な問いを投げかける存在に、夜間中学がある。

 戦後学制改革により新制中学が制度化された。しかし、戦後混乱期には生活困窮等により就労や家事手伝いを余儀なくされた「不就学」の子どもが存在していた。そこで夜間中学は義務教育未修了者の教育機会を提供する場として昭和20年代に設けられた。時を経て令和の時代。学びの本質をどう捉え、公教育の輪郭をどうなぞるか、その存在が再び衆目を集めている。

 現在、15都府県34市区に40校の夜間中学が設置され、教育に関する多様な要求が合流・混在している。長野県では未設置。夜間中学で学ぶのは、例えば、以下に挙げるような人たちだ。

①戦後混乱期に学齢期を迎え学校に通えなかった学齢を超過した人、中国残留孤児、不登校で卒業しなかった人など義務教育の学齢を過ぎた義務教育未修了者
不登校などの事情から十分な教育を受けられなかったにもかかわらず、教育的配慮の名の下で卒業資格を有しながらも学び直しを希望する入学希望既卒
③母国で義務教育を修了していないか、日本語習得のために学び直しを希望する学齢超過の外国籍の人、親の仕事に合わせて来日し日本の学齢を経過した外国籍の人
④現在不登校の学齢生徒

 当事者にとって「学ぶこと」は「生きること」に直結している。学ぶことは不安と心配の日常から、人としての尊厳を取り戻す歩みと重なる部分が少なくない。

 公立夜間中学の授業は平日夕方の1日4時間程度。学級活動、清掃、運動会、文化祭、遠足、修学旅行の他、給食(補食)ありの学校もある。修業年限は原則週5日間の3年間、卒業時には中学校の卒業証書と卒業資格が与えられる。

 時代状況を反映してきた「映し鏡」としての夜間中学は、いかなる公教育の未来を照らすのか。「誰一人取り残すことのない令和の日本型学校教育」というフレーズを陳腐化させない覚悟が試されており、生存権や学習権の保障にとどまらず、幸福追求権の実現を射程に含めた人権概念を基軸とする制度設計・運用が求められている。

 2020年国勢調査では、長野県在住の未就学者は1336人、最終卒業学校が小学校の者は1万7150人に上る。ウェルビーイング(幸福)の実現をうたう日本において「幸せに生きるために、学ぶ」ことは、ぜいたくなことか。
(あらい・えいじろう 信州大教職支援センター准教授)
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