信州大学教職支援センター 荒井英治郎研究室

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【連載「コンパス」第13回】「対話を通じ「協働的組織」に成熟 教育現場 変化に対応する思考法」

【連載「コンパス」第13回】

「対話を通じ「協働的組織」に成熟 教育現場 変化に対応する思考法」

 

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違和感と正直に向き合わないと、人は「思考停止」に陥る。そして、その感覚は、いつしか「空気」となり、自分で問えなくなる。他者から問われなくなる。誰も問わなくなる。
理不尽さを強要されモノローグ(一方通行)に完結する学びから、試行錯誤を繰り返しダイアローグ(対話)に開かれた学びへ。そして、「不機嫌な学校」から、「ご機嫌な学校」へ。

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 2022年1月12日付の『信濃毎日新聞』の「教育面」(コンパス)に、第13回目の連載原稿を寄稿しました。

 今回のテーマは、「OODA」(ウーダ)です。ご存知の通り、「予測困難な時代」を象徴するキーワードにVUCA(ブーカ)という言葉があります。Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(不確実性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をつないだ造語ですが、感染症の拡大は、VUCA時代の到来を私たちに体感させるものとなっています。このような予測困難な時代において、教育現場でどのような思考法を活用すべきか、そのヒントとして、「PDCAサイクル」と「OODAループ」を並べて考えてみました。

 

理不尽さを強要されモノローグ(一方通行)に完結する学びから、試行錯誤を繰り返しダイアローグ(対話)に開かれた学びへ。そして、「不機嫌な学校」から、「ご機嫌な学校」へ。教師の生き方は、感染症より、強力に、そして、持続的に、子どもに伝わります。自分のためにも、子どものためにも、よりよい学びのために、日々学び、振り返り、フレキシブル(柔軟)に生きていきたいですね。関心・興味のある方がいらっしゃいましたら、ご一読ください。

 

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「対話を通じ「協働的組織」に成熟 教育現場 変化に対応する思考法」

 

 新たな目標を掲げた元旦。10日ほど経過した今、目標達成のための努力を続けているだろうか。


 2000年代に教育現場にも導入され、流布されている思考法に「PDCA」サイクルがある。明確な計画(Plan)を首尾よく実行(Do)し、評価(Check)と改善(Action)を繰り返すサイクル型思考の起点には、明確で緻密な「計画」の存在がある。


 しかし、学校は、適切な現状認識と分析を経たグランドデザインを策定しているだろうか。至高の価値を実現するためのスケジュールを同僚と共有し、評価のために妥当な定性的・定量的指標を設定しているだろうか。前提条件が流動化するウィズコロナ時代に、ボタンを掛け違えたまま誤った努力を続け、「計画」自体の妥当性を問う機会を逸し、自縄自縛になっていないだろうか。


 むろん、関係者の多くはPDCAサイクルの限界にもうすうす気づいている。しかし、違和感と正直に向き合わないと、人は思考停止に陥る。そして、その感覚は、いつしか「空気」となり、自分で問えなくなる。他者から問われなくなる。誰も問わなくなる。


 ここで、「OODA(ウーダ)」ループを紹介したい。観察(Observe)を起点とした迅速な状況判断(Orient)を踏まえて、本質的な意思決定(Decide)による行動(Act)を大胆に行い、すぐさま状況観察を再機動させる思考法である。


 OODAループでは、何のための行動か、その本質が常に問われる。教育現場の「日常」は、PDCAサイクルよりもOODAループの感覚に近いのではないだろうか。もちろん物事は二者択一ではなく、PDCAかOODAかは平時と有事の併用適用を追求すべきであり、決して「計画」や「評価」は不要ではない。しかし、視座を入れ替え、視野を広げ、視点を変えるだけで、物事に向き合う行動のあり方も変わってくるのである。


 当初の計画を金科玉条とし、最短距離で「正解」に到達するよりも、対話を通じて変化に向き合い、臨機応変に「納得解」を模索していくことは、悩み迷える教師を自ら学び考える人間として成長させ、結果として、学習する学校は「同調的組織」から「協働的組織」へと成熟していくことになる。


 理不尽さを強要されモノローグ(一方通行)に完結する学びから、試行錯誤を繰り返しダイアローグ(対話)に開かれた学びへ。よりよい学びのために日々学び、振り返り、フレキシブル(柔軟)に生きる。教師の生き方は、感染症より、強力に、そして、持続的に、子どもに伝わる。
(あらい・えいじろう 信州大教職支援センター准教授)
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