【論文】「教育法制再編時代における教育法学の課題(第16回教育法学の課題)」『季刊教育法』第223号,2024年12月,78-85頁
このたび、エイデル研究所の『季刊教育法』からご依頼いただき、「教育法制再編時代における教育法学の課題」と題した論文を寄稿いたしました。こちらは、「教育法学の課題」というシリーズの第16回に位置づくものです。
現代日本の教育改革の基調が、戦後形成された教育法制それ自体の再編を促すものとなっていますが、本稿では、戦後教育法学が果たしてきた役割の深化を展望すべく、教育法制再編 時代においていかなる分析視角を併用していくことが肝要であるかを論じました。
特に、本稿では、政策を法律等に変換する「立法行為」に焦点を当てながら、教育立法や教 育制度のあり方を具体的に構想することが要請されている教育法学の今日的課題を論じました。具体的には、「立法過程の法学的研究」や「立法学」の系譜を概括した上で、①あるべき立法システムの規範的構想の提示、②立法の正統性を担保する条件の探求、③統治システム全体の正統性問題に関わる法哲学的・憲法理論的研究との接合、④規範的研究の知見の摂取などの立法学からの提起を踏まえて、政治学における立法過程研究や利益団体・圧力団体研究の知見が示唆するように、議会における法案審議過程に留まることなく、その前段階において展開される議論や各種アクターの関与のあり方も分析の射程を含め、立法過程における動態的なダイナミズムを射程に含めるような実態分析を展開していくことの必要性を指摘しました。これは、実態分析の進展は、原理論への還元をもたらす可能性を有するためです。
特定の政策・制度環境下で展開される政策過程を経て構築される立法は、後継の政策過程のみならず、立法のあり方(正義・公正・公平・合目的的性・安定性・柔軟性など)をめぐる議論の方向性をも規範的に制約するものとなります。
教育法制の再編が企図される今日において、教育法学には、隣接諸科学における分析視角を積極的に摂取しながら、現行制度の法論理の解明に留まらず、よりよい教育制度の制度設計指針 を具体的に提示していくことが求められています。そのためには、政策の内容分析、政策の過程分析、そして、双方を前提とした上で為し得る「政策規範」に関する知見を提示するような制度設計の規範理論を展開し教育立法をめぐる正当性と正統性の確保のあり方を積極的に構想していくことが重要となります。
教育法学がいかなる課題設定と方法を通じて、今後の教育政策の方向性を規範的に制約(方向づけ)していくことができるか。「学際的な共同研究が必須な分野として成立し」、「たんなる単発的・個別的な共同ではなく、体系化された一つの学問領域として構築されることにその存在意義がある」という教育法学の自己規定から展開される今後の協働プロジェクトには大きな期待が寄せられています。時務論的研究を超えてトランス・ディシプリンを前提とする学問としてのアイデンティティの再構築が今まさに求められています。
今号で当該雑誌は休刊とのことですが、定期購読している身としては、大変残念ではありますが、貴重な機会をどうもありがとうございました。
同号には、たくさんの刺激的な論考が掲載されています。ご関心のある方は是非お手に取ってみてください。