信州大学教職支援センター 荒井英治郎研究室

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【連載「コンパス」第28回】「交錯する教育政策の目的─教師の仕事「魅力」と「魔力」」

【連載「コンパス」第28回】「交錯する教育政策の目的─教師の仕事「魅力」と「魔力」」

 

 教育政策には、時に(いや、常に)対立する多様な期待が込められ、学校も、事実として、人材選抜・配分機能、文化伝承機能、秩序維持機能、子どもの保護監督機能など、多様な機能を同時に発揮している。

 

 政策の目的と手段は混同されやすく、手段の目的化が生じやすい。

 

 問題を解決するための政策が、解決するはずの問題をより深刻化させてしまうことも近年散見される。
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 2023年8月5日付の『信濃毎日新聞』の「教育面」(コンパス)に、第28回目の連載原稿を寄稿しました。

 

 今回のテーマは「職業としての教職の魅力と魔力」です。

 

 教育と政治の関係は、遠いようで近く、むしろ密着しています。

 

今回は、英国の教育学者ケン・ロビンソンらの著書「CREATIVE SCHOOLS」で紹介されている国(政治家)が教育を重視する4つの理由(経済的理由、文化的理由、社会的理由、個人的理由)を頼りに、交錯する教育政策の目的を実現する第一義的な存在としての教師が担う「教職」の難しさや悩ましさについて論じました。

 

 自身の教育哲学を研ぎ澄まし、自己認識を省察する。外的要請に対するアンテナの感度を高め、社会認識を刷新する。

 

こうした営みを日々実践する教職の存在は、「教師の卵」にとって、魅力と魔力、どう映るでしょうか。
 関心・興味のある方がいらっしゃいましたら、ご一読ください。
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「交錯する教育政策の目的─教師の仕事「魅力」と「魔力」」

 

  教育と政治。その関係は、遠いようで近い。いや、むしろ密着している。
 英国の教育学者ケン・ロビンソンらは、「CREATIVE SCHOOLS(クリエイティブ スクール)の中で、国(政治家)が教育を重視する理由に、次の四つを挙げている。
 第一は経済的理由である。教育は国の経済成長と国際競争力に大きな影響を及ぼす。従って、経済に寄与する高学歴の労働人口を増やすために巨額の予算を投じるという考えである。子どもの「経済的」自立のために教育は行わなければならないと表現されることもある。
 第二は文化的理由である。地域社会の伝統・慣習・価値観は、教育を通じて次世代に継承されていく側面を持つ。従って、既存の伝統・文化を守る再生産の手段として、他方で、異文化への寛容性を涵養する機会として、異なる方向性を志向する教育が同じテーブルに乗せられることも少なくない。
 第三は社会的理由である。子は「生まれ」を選べない。従って、全ての子どもの教育を受ける権利を保障すべきであるとする考えである。民主主義社会は市民の社会参画によって支えられているため、市民としての資質・能力を育成するシチズンシップ教育を積極的に行うべきだとする考えも、ここにぶら下がる。
 第四は個人的理由である。全ての子どもが力を発揮し、充実した生活を送ることができるために教育を行うべきであるとする考え方である。
 こうして、教育政策には、時に(いや、常に)対立する多様な期待が込められ、学校も、事実として、人材選抜・配分機能、文化伝承機能、秩序維持機能、子どもの保護監督機能など、多様な機能を同時に発揮している。政策の目的と手段は混同されやすく、手段の目的化が生じやすい。問題を解決するための政策が、解決するはずの問題をより深刻化させてしまうことも近年散見される。
 そして、相互に矛盾しながら交錯する目的を実現する第一義的な存在が、教壇に立つ教師となる。「教職」の難しさや悩ましさは、このようなところにもある。その専門性は内側に閉じられたものではあり得ず、外的世界との対話の機会に常に開かれたものであるからこそ、創造的な教育の実現に向けた道が開かれていくことになる。
 自身の教育哲学を研ぎ澄まし、自己認識を省察する。外的要請に対するアンテナの感度を高め、社会認識を刷新する。こうした営みを日々実践する教職の存在は、「教師の卵」にとって、魅力と魔力、どう映るだろうか。
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