信州大学教職支援センター 荒井英治郎研究室

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【連載「コンパス」第27回】「子どもに向き合う教職の意味─捉え直す主語は「あなた」」

【連載「コンパス」第27回】「子どもに向き合う教職の意味─捉え直す主語は「あなた」」

 

「働きがい」と「働きやすさ」という2つの価値の両立を追求する「教師の卵」たちは、学校に対する風当たりの強さに敏感に反応し、職業選択のカードから「教師」を早々に捨て去るに至る。学校の業務量の多寡、学校不信の浅深、教師不足の現在は、見事に連動しているのである。

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 2023年7月1日付の『信濃毎日新聞』の「教育面」( コンパス)に、第27回目の連載原稿を寄稿しました。

 

 

 今回のテーマは「教職の捉え直し」です。

 


 「善人」集団たる学校は、国・地方、保護者や地域住民の期待を一身に背負い、業務という名の荷物を両手いっぱい抱え込んできたが、学校は、世論のストレスのはけ口として目の敵とされ、「悪者」扱いリストの常連ともされてきました。


 他方、教師は、昔取った杵柄や過去の成功体験をエビデンス(根拠)とする実践を多用したくなる衝動をぐっと抑え、今日も自らを律し、子どもの「今」に対時し、目の前の子どもの「事実」から教師としての自身の原点を振り返り、次の授業に想いを馳せます。「教える」と「学ぶ」の関係性に悩み苦しみながら、支えるべき対象である子どもが、実は自分の実践を支えてくれる存在であることを再認識し、明日も教室に子どもたちを迎え入れます。

 

 学びを強いられるのではなく、自ら学ぶ。誰かに追及されるのではなく、自ら追求する。「唯一の答え」を効率的に導き出すことに満足するのではなく、未完成でも「未来の問い」を創造していくことを面白がり、ワクワクを追究する。誰かによって問われるのではなく、自ら問うからこそ、新しい地平に立って、物事の本質を「捉え直す」ことができるはずです。

 

 関心・興味のある方がいらっしゃいましたら、ご一読ください。

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「子どもに向き合う教職の意味─捉え直す主語は「あなた」」

 

 戦後、「善人」集団たる学校は、国・地方、保護者や地域住民の期待を一身に背負い、業務という名の荷物を両手いっぱい抱え込んできた。他方、学校は、世論のストレスのはけ口として目の敵とされ、「悪者」扱いリストの常連ともされてきた。

 

 たとえ理論的裏付けのあるチャレンジであっても、周囲の理解が及ばないと、その実践は自分勝手で独りよがりの取り組みと捉えられ、その不審は積もり積もって教師批判、学校批判、教育不信へと加速度的に変異する。そして「働きがい」と「働きやすさ」という2つの価値の両立を追求する「教師の卵」たちは、学校に対する風当たりの強さに敏感に反応し、職業選択のカードから「教師」を早々に捨て去るに至る。学校の業務量の多寡、学校不信の浅深、教師不足の現在は、見事に連動しているのである。

 

 では、試行錯誤を繰り返し奮闘する教師の日常は、どうか。教師は、昔取った杵柄や過去の成功体験をエビデンス(根拠)とする実践を多用したくなる衝動をぐっと抑え、今日も自らを律し、子どもの「今」に対時している。そして、目の前の子どもの「事実」から教師としての自身の原点を振り返り、次の授業に想いを馳せる。「教える」と「学ぶ」の関係性に悩み苦しみながら、支えるべき対象である子どもが、実は自分の実践を支えてくれる存在であることを再認識し、明日も教室に子どもたちを迎え入れる。

日々問われているのは、与えられている「役割」以上の、教師としての「あり方」や人間としての「生き方」、子どもに向き合う自分、「あなた」だ。

 

 昨今、DX戦略と紐づけられた「リスキリング」論議が活発化しているが、教育界で切に求められているのは、新たなスキルや知識を獲得するための「学び直し」もさることながら、目の前の仕事の「意味」を問い、教職という営みそれ自体の「捉え直し」を行うことにある。


 学びを強いられるのではなく、自ら学ぶ。誰かに追及されるのではなく、自ら追求する。「唯一の答え」を効率的に導き出すことに満足するのではなく、未完成でも「未来の問い」を創造していくことを面白がり、ワクワクを追究する。

 

 誰かによって問われるのではなく、自ら問うからこそ、新しい地平に立って、物事の本質を「捉え直す」ことができる。これは子どもも大人も同じである。

 7月に入り、夏休みも見えてきた。子どもの主体性を育む教師は、何を、捉え直すか。主語は「あなた」だ。

(あらい・えいじろう 信州大教職支援センター准教授)
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