信州大学教職支援センター 荒井英治郎研究室

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「【連載「コンパス」第24回】「多忙な教員、増える『心の病』─行政の現状認識 甘すぎる」

【連載「コンパス」第24回】

「不機嫌」な教職員集団に、「ご機嫌」な学校づくりは実現できるだろうか。

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 2023年3月11日付の『信濃毎日新聞』の「教育面」(コンパス)に、第24回目の連載原稿を寄稿しました。

 今回のテーマは「教職員のメンタルヘルス」です。
 感染症の拡大と教育ニーズの多様化を前に、教育現場は翻弄されていますが、現状に拍車をかけているのが、業界全体に蔓延する「多忙感」の存在です。
 「子ども」と向き合う教育関係者の多くは、「心の病」と向き合わなければならないリスクに常に晒されていますが、教育行政関係者の現状認識は、甘すぎます。
 メンタルヘルスを「組織」のマネジメントの観点ではなく、属人的な「個人」の課題としてのみ捉えがちで、産業保健心理学の知見や民間企業のノウハウを活用する機運も乏しく、後手の対策に終始している。「前近代」的と揶揄されても無理もありません。
 メンタルヘルスを良好に保ちながら、仕事に誇りを持ち、活き活きと働くことができる環境が整備されていくことは、全ての教員の総意のはずです。子どもの「育ち」と「学び」に向き合う教職員が、自分の心(ココロ)と体(カラダ)に真摯に向き合える環境を作っていくこと、ココカラ始めていく必要があります。
 関心・興味のある方がいらっしゃいましたら、ご一読ください。

 

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「多忙な教員、増える『心の病』─行政の現状認識 甘すぎる」

 

 感染症の拡大と教育ニーズの多様化を前に、教育現場は翻弄されている。現状に拍車をかけているのが、業界全体に蔓延する「多忙感」の存在である。

 

 例えば、文科省の「公立学校教職員の人事行政状況調査」の結果によれば、「心の病」で1カ月以上休んだ公立学校教員は、前年度比15.2%増の1万944人と、初めて1万人を超えた。ちなみに、長野県の長期療養休暇者・休職者は、過去5年間で平均約280人である。

 

朝の会で子どもの健康チェックを行っていた教師が、いない。「その日」、は突然にやってくる。

 

 これに対して、教育行政関係者の現状認識は、甘すぎる。メンタルヘルスを「組織」のマネジメントの観点ではなく、属人的な「個人」の課題としてのみ捉えがちで、産業保健心理学の知見や民間企業のノウハウを活用する機運も乏しく、後手の対策に終始している。教員の善意で支えられてきたシステムのほころびは、認めざるをえまい。

 

 病気休暇・休職に至る理由はさまざまだが、メンタルヘルスを良好に保ちながら、仕事に誇りを持ち、いきいきと働くことができる環境整備は、全ての教員の総意であろう。

 

 働き盛りの教師である「わたし」にとって、苦悩する同僚の「あなた」のため息は、同じ組織で汗をかく者として「人ごと」ではない。「わたし」と「あなた」は、つながっている。

 

 保護者や地域住民である「わたしたち」にとって、学校の職員室の明かりが夜遅くまでついている状況は、同じ目線で子どもの成長発達に伴走する者として「人ごと」ではない。「わたしたち」と「がっこう」は、つながっている。

 

 満身創痍の教師が教壇に立つ教室に、子どもたちの笑顔はあふれるだろうか。未来に向けた一歩を踏み出すためにあえて「立ち止まる」ことができない教師が、「先生!」と廊下で子どもに話しかけられ「なあに?どうしたの?」と足を止め、目を見て心を通わせることができるだろうか。

 

 医療・福祉と並び、「感情労働」を担う教育関係者の「日常」の瓦解が刻々と迫りつつある。教職員のメンタルヘルス対策の推進は、教育行政に課された責務の「一丁目一番地」である。子どもの「育ち」と「学び」に向き合う教職員が、自分の心(ココロ)と体(カラダ)に真摯に向き合える環境をつくっていくこと、「ココカラ」始めなくてはならない。
(あらい・えいじろう 信州大教職支援センター准教授)
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