信州大学教職支援センター 荒井英治郎研究室

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【論文】清水優菜・荒井英治郎「総合的な探究の時間における高大連携の効果の検討」『日本教育工学会論文誌』第47巻第1号,2023年,47-61頁

【論文】清水優菜・荒井英治郎「総合的な探究の時間における高大連携の効果の検討」『日本教育工学会論文誌』第47巻第1号,2023年,47-61頁

 

日本教育工学会の論文誌に、レフリー付き論文が掲載されました。

 

 情報化やグルーバル化の進展により,これからの時代は複雑さや困難さを一層伴うことが想定されていますが、世界の教育はただ知識を覚えて適用することを目指す教育アプローチから,現実社会の問題を対象とする探究を重視した教育アプローチにシフトしつつあります。

日本でも探究を重視した教育アプローチへ舵が切られ,教育課程が大きく変わろうとしています.その最たる例が、高等学校における古典探究や地理探究,理数探究などの科目の新設,そして、2003年度より実施されてきた「総合的な学習の時間」から「総合的な探究の時間」への改訂です。

特に,探究の時間では特定の科目や教科を超えた「自己の在り方生き方を考えながら,よりよく課題を発見し解決していくための資質・能力」の育成が目指され,探究的な学びが教科・科目等横断的なカリキュラムマネジメントの軸となることが求められています。それゆえ,探究の時間の質をどのように向上・改善させていくことができるかは,今後の我が国の教育において重要な課題であるといえます。

 

以上を踏まえ,本研究では探究の時間における高大連携として,大学の研究者により学問的真理の追究や方法論的専門性の理解の機会を提供する実践を行っている高等学校A 校を対象として,次の2点をより高いエビデンスをもって明らかにすることを目的としました。

 

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①探究の時間における高大連携として,大学の研究者により学問的真理の追究や方法論的専門 性の理解の機会を提供することは,資質・能力の変容に効果を有するのか.また,その効果は,どのようなテーマであっても認められるか?

 

②大学の研究者により学問的真理の追究や方法論的専門性の理解の機会を提供する高大連携 を取り入れた探究の時間における生徒の取り組みは,資質・能力の変容にどのように機能す るのか?
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「教育行政学」を専門とする自身としては、これまで教育現場を主とした「探究的な学び」に関しては、ライフワークの一環としてお手伝いしてきましたが、「効果検証」の観点に関する課題意識を持ち続けていたこともありまして、このたび総合的な探究の時間における高大連携に関する研究論文を心理学者と協働して執筆し、このたび掲載される運びとなりました。


ご関心のある方は以下からダウンロード可能ですので、ご笑覧ください。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjet/47/1/47_46035/_article/-char/ja

以下、論文のアブストラクトです。

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本研究は,総合的な探究の時間における高大連携として,学問的真理の追究や方法論的専門性 の理解の機会を5回にわたる大学の研究者のゼミにより提供することが生徒の資質・能力に与える効果を検討した.

探究の時間に高大連携による「大学連携ゼミ」を取り入れている高等学校A校の1,2年生を対象としたWeb 調査の結果,①どのようなゼミのテーマ,運営方法,学問領域や方法論であっても,論理的思考への自覚と客観性,制度的利用価値が同程度に向上する,②ゼミを重ねるごとに積極的に関与するようになった生徒ほど論理的思考力への自覚が高まる,③探究の時間の目標では,特に「思考力,判断力,表現力等」と「学びに向かう力,人間性等」が高まることが示された.

よって,探究の時間における高大連携として,大学の研究者により学問的真理の追究や方法論的専門性の理解の機会を提供することは生徒の資質・能力の向上に一定の効果を有する可能性が示唆された.
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