信州大学教職支援センター 荒井英治郎研究室

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【書評】荒井英治郎「辻村哲夫・中西茂『もう一度考えたい「ゆとり教育」の意義』」『教職研修』2021年3月号

【書評】荒井英治郎「辻村哲夫・中西茂『もう一度考えたい「ゆとり教育」の意義』」『教職研修』2021年3月号

 

このたび、教育開発研究所さんの『教職研修』からの依頼を受けて、辻村哲夫・中西茂『もう一度考えたい「ゆとり教育」の意義』悠光堂,2020年の書評を執筆させていただきました。

 

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①横並び意識の強い社会、子どもの教育に関して過度に学校に依存する社会から脱却し、学校教育を通じて「生きる力」を育成し、生涯学習の基礎を培っていくこと。
②教師が教え、子どもが覚えるという受け身で「詰め込み教育」の基調を転換させ、事物・自称への興味・関心、知的好奇心、学習意欲を高めている学びを提供すること。
③教師の創意工夫の下で多様な方法を駆使し、丁寧でわかりやすい指導を行うことで、子どもたちに教育内容を十分に理解してもらうこと。
④基礎・基本から知識を確実に習得しながら、思考力・判断力・表現力等を育む教育を展開していくこと。
⑤自ら考え調べる学習、体験的な学習、問題解決的な学習を重視すること。
⑥学ぶことに対して積極的な気持ちを持ってもらうこと。
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このような教育の理念や方向性について、みなさんは、どう感じますか。

 

実のところ、これは20年前の学習指導要領が、世論のニーズを踏まえ、世論に後押しされながら描かれ、その後、世論の猛烈なバッシングにより挫折した、未完の「ゆとり教育」の姿です。

 

では、「ゆとり教育」が目指したものは何であり、なぜ、それは「挫折」したのでしょうか。

 

本書は、1990年代半ばから2000年代半ばにかけて、「ゆとり教育」推進の立場で教育業界とマスコミ業界を牽引した二人の著者による、「究極のゆとり教育」が構想された時代を対象とした、いわゆる「時代考証」の書です。

 

ゆとり教育」という言葉が指し示す意味内容の曖昧さも相まって、教育論議は誤解・曲解・正論・暴論のオンパレードとなりがちです。

 

今こそ、20年間にわたって絡まり硬く結ばれた糸を丁寧に解きほぐし、今一度ボタンホールの位置と、通すべき糸の素材や向きを確認しながら、教育論議の土台を整えていくことが求められていると思います。

 

10年後に同じ轍を踏まないためにも、ぜひ精読をお薦めします。