信州大学教職支援センター 荒井英治郎研究室

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【論考】荒井英治郎「9月入学論の特徴と課題」『教職研修』2020年7月号

【論考】荒井英治郎「9月入学論の特徴と課題」『教職研修』2020年7月号


このたび出版社からご依頼いただきまして『教職研修』2020年7月号に「9月入学論の特徴と課題」と題した論考を執筆させていただきました。

 

新型コロナウイルスの感染拡大に伴う学校休校の長期化や外出自粛は、子ども・若者の日常生活の送り方、心の保ち方、学びのあり方、特に、学習や入試・就職に対する向き合い方に大きな影響を与えています。

 

そこで急遽浮上したのが、「9月入学」論議です。

 

議論の発端は、一部の高校生や東京・大阪の知事らが「9月入学」に関する声を上げたことにありますが、その後、安倍首相は5月14日の記者会見の場で、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い入学時期を秋に移行する「9月入学」について「有力な選択肢の一つ」としながら「社会全体の影響を見極めつつ、さまざまな選択肢を前広に検討していきたい」と述べ、官邸は4月下旬から検討に着手していました。

 

その後、自民党の9月入学ワーキングチーム、公明党は現時点での導入には消極的である旨を明記した提言を取りまとめ、2021年度の導入は見送られることとなった。今後の9月入学論議は、首長直属の会議体で展開されることが予想されています。


本稿では、推進論を①「格差是正論」、②「教育改革・社会変革論」、③「教育のグローバル化論」、④「入試リスク論」に文節化し、その特徴を概観した上で、不可避的な課題(①財政負担、②「移行世代」への影響、③条件整備の課題、④他分野への影響)と調整を要する課題(①国レベル、②地方レベル、③学校レベル、④他の社会制度)について論じました。


9月入学の移行方式をめぐっては、半年入学待機方式、一斉移行方式(1.4倍繰り下げ方式、1.4倍繰り上げ方式)、段階的移行方式(新入生漸次入学方式)、「6.5年制(ゼロ年生)」案、プレスクール案等が検討されていたこともありまして、当初全ての検討を行おうと考えていましたが(最初は10000字くらい書いていました)、紙幅の関係で断念せざるを得なくなりました。従いまして、歴史的なアプローチも含め、近い将来に全体像を網羅した議論を展開できたらとも思っております。


今後の9月入学論議は首長直属の会議体で展開されることが報道で取り上げられていますが、9月入学の導入それ自体は教育の質保証を約束しません。何のための、誰のための9月入学論か。手段の目的化が生じていないか、今後の政策過程の展開を注視する必要があります。

 

教職研修 2020年7月号[雑誌]

教職研修 2020年7月号[雑誌]

  • 発売日: 2020/06/19
  • メディア: 雑誌