【論文】清水優菜・荒井英治郎 「「総合的な探究の時間」における高大連携の効果検証 -2年間の「大学連携ゼミ」の分析を通して」『教職研究』第14号,信州大学教職支援センター,2023年3月,70-86頁
『教職研究』の第14号に「「総合的な探究の時間」における高大連携の効果検証 -2年間の「大学連携ゼミ」の分析を通して」と題した共著論文を執筆いたしました。
本研究は,A校における2020 年度ならびに2021 年度の「大学連携ゼミ」が生徒の資質・能力に及ぼす効果を検証し,探究の時間に学問的な真理の追究や方法論的な専門性を重視した高大連携を取り入れることの効果の一端を明らかにすることを目的しました。 単年度に留まらず,複数年度にわたり大学連携ゼミの効果検証を行うことで,探究の時間に学問的な真理の追究や方法論的な専門性を重視した高大連携を取り入れることの効果に関するより強力なエビデンスを得ることが期待できます。
●分析方法
本研究では,以下の3 つの手順に基づき,分析を行った。
第1 に,批判的思考態度,課題価値,エンゲージメントの基礎的情報として,それぞれの記述統計量を求めた。本研究では,記述統計量として,サンプルサイズ(n),平均値(M),標準偏差(SD),ω係数を算出した。
第2 に,大学連携ゼミ実施前後における批判的思考態度と課題価値の変容を検証するために,マルチレベル分析を行った。分析にあたって,大学連携ゼミ実施後を基準とする「事後ダミー」,2021 年度を基準とする「2021 年度ダミー」,ならびにこれらの交互作用項「2021年度ダミー×事後ダミー」を固定効果,個人ID と参加したゼミを変量効果,批判的思考度と課題価値を従属変数とした。
第3 に,エンゲージメントの水準と大学連携ゼミの回を重ねるごとの変容,年度間の差異を検討するために,マルチレベル分析を行った。分析にあたって,2021 年度を基準とする「2021 年度ダミー」と大学連携ゼミの回数(2020 年度は1-5 回; 2021 年度は1-3 回)を固定効果,個人ID と参加したゼミを変量効果,エンゲージメントを従属変数とした。
●結果
本研究の目的は,A 校における2020 年度ならびに2021 年度の大学連携ゼミが生徒の資質・能力に及ぼす効果を検証し,探究の時間に学問的な真理の追究や方法論的な専門性を重視した高大連携を取り入れることの効果の一端を明らかにすることであった。大学連携ゼミ実施前後における批判的思考態度と課題価値の変容,ならびにエンゲージメントの水準と大学連携ゼミの回を重ねるごとの変容,年度間の差異をマルチレベル分析により検討した。
その結果,主たる知見として,次の4 点が得られた。
その1 に,ゼミのテーマや運営方法,さらには実施年度を問わず,大学連携ゼミ後に批判的思考態度の全下位尺度,ならびに課題価値については実践的利用価値と制度的利用価値,すなわち利用価値が高まることが示された。よって,探究の時間に学問的な真理の追究や方法論的な専門性を重視した高大連携を取り入れることは,批判的思考態度と課題価値の中でも利用価値の向上に寄与する可能性が示唆された。批判的思考態度の向上については,清水・荒井(2023)が指摘するように,大学連携ゼミを通して批判的思考を繰り返し遂行すること,ならびに大学の研究者や同級生(仲間)などの多様な他者と相互作用し,様々な知見や考え方に触れることの効果が顕在化したものと考えられる。また,利用価値の向上については,大学進学が多くの対象者の目下の将来において重きを占めるため,大学連携ゼミを通して大学進学への動機づけが高まったものと考えられる。
その2 に,大学連携ゼミ後の批判的思考態度と利用価値の向上において,証拠の重視以外の変数については年度間差が認められず,かつ証拠の重視については2021 年度の方が大きいことが示された。よって,2021 年度において,大学連携ゼミの実施回数は5 回から4 回に少なくなったものの,その効果は維持,ないし証拠の重視においてはより高まったことが示唆された。
その3 に,ゼミのテーマや運営方法,大学連携ゼミの回数,さらには実施年度を問わず,エンゲージメントは高い水準であった。さらに,行動的ならびに認知的エンゲージメントは,回を重ねるごとに高くなることが示された。よって,批判的思考態度や課題価値という資質・能力だけではなく,取り組みの質という観点においても,探究の時間に学問的な真理の追究や方法論的な専門性を重視した高大連携を取り入れることは,効果的な実践であることが示唆された。
その4 に,参加したゼミの違いによる批判的思考態度,課題価値,エンゲージメントの分散説明率は8%であった。よって,どのようなゼミのテーマや運営方法であろうと,批判的思考態度や課題価値という資質・能力,ならびに大学連携ゼミへの取り組みの質の水準に差異はほとんどないことが示唆された。
以上から,探究の時間に学問的な真理の追究や方法論的な専門性を重視した高大連携を取り入れることは,生徒の資質・能力の向上に一定の効果を有する可能性が示唆された。さらに,エンゲージメントの水準の高さという観点においても,探究の時間に学問的な真理の追究や方法論的な専門性を重視した高大連携を取り入れることは有益であることが示唆された。探究の時間が萌芽的な段階である今日において,これらのインプリケーションは,学術的意義のみならず教育実践的意義を有するものといえよう。
--------------------------------------
以下からダウンロード可能となっておりますので、ご関心のある方はアクセスください。
https://soar-ir.repo.nii.ac.jp/records/2001430