信州大学教職支援センター 荒井英治郎研究室

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【連載「コンパス」19回】「人生100年時代のひきこもり 求められる「プッシュ型支援」」

【連載「コンパス」19回】「人生100年時代のひきこもり 求められる「プッシュ型支援」」

 

見えないものを見ようとする、見えてきたものにきちんとピントを定める、見えたものに丁寧に手を差し伸べる。

人生100年時代」における子ども・若者を対象とした社会保障制度の再設計は待ったなしである。

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2022年8月31日付の『信濃毎日新聞』の「教育面」(コンパス)に、第19回目の連載原稿を寄稿しました。

今回のテーマは、「ひきこもり」です。

ひきこもりは表面化しにくく、当事者に支援が届かない場合が多いです。その状況を前提に、①義務教育期から高校生期をつなぐ情報共有や行動連携など、若年期の早期支援や18歳以降のセーフティネットの拡充、②当事者との距離の取り方など親に対する専門的なアドバイス、③相談支援の充実や支援者の資質能力の向上など、当事者とその家族の日常生活・社会生活・経済的自立を支える仕組みづくりの構築、④当事者の状況・ニーズに応じた支援メニューの提示や支援者間の情報連携の強化、⑤当事者の要望に応じた「プル型支援」ともに、声を上げにくい状況には要請を待たずして支援に踏み出す「プッシュ型支援」の重点化について指摘をしました。

関心・興味のある方がいらっしゃいましたら、ご一読ください。

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見えないものを見ようとする、見えてきたものにきちんとピントを定める、見えたものに丁寧に手を差し伸べる。
ひきこもりは表面化しにくく、思いとは裏腹に当事者に支援が届かない場合が多い。厚生労働省ガイドラインには、「様々な要因の結果として社会的参加(義務教育を含む就学、非常勤職を含む就労、家庭外での交遊など)を回避し、原則的には6ヵ月以上にわたって概ね家庭にとどまり続けている状態」とある。
内閣府が調査した2015年時点で、その数は全国54.1万人(15歳〜39歳)と推計されているが、対象そのものが潜在化しているため、氷山の一角とされる。
調査データから見えてくることもある。「不登校」「就職活動がうまくいかなかった」「職場になじめなかった」「人間関係がうまくいかなかった」などを契機に、ひきこもり状態に陥る割合が少なくない。24歳までが約8割というデータもある。当事者の困難さは多様であり、支援方法も一律ではあり得ない。ただ、義務教育期から高校生期をつなぐ情報共有や行動連携など、若年期の早期支援や18歳以降のセーフティネットの拡充は不可欠である。
当事者の約8割が3年以上ひきこもりを継続している状況にあり、多くは親などに経済的に依存している状態にあるという。親は当事者との距離の取り方など専門的なアドバイスを具体的に求めている。どのような言葉を交わし、どのように振る舞うべきか。同じ屋根の下で時を共にする家族の苦悩は続く。
しかし親の孤独感の放置は結果として、地域からその家族をも孤立させるリスクを増大させる。相談支援の充実や支援者の資質能力の向上など、当事者とその家族の日常生活・社会生活・経済的自立を支える仕組みづくりの構築が急務である。
支援機関同士の連携が十分でない事例も散見され、行政には当事者の状況・ニーズに応じた支援メニューの提示に留まらず、支援者間の情報連携の強化など、「つなぐ」役割が期待される。当事者の要望に応じた「プル型支援」も重要だが、声を上げにくい状況には要請を待たずして支援に踏み出す「プッシュ型支援」の重点化が図られるべきであろう。
行政は実態把握の努力を惜しんではならない。「人生100年時代」における子ども・若者を対象とした社会保障制度の再設計は待ったなしである。
(あらい・えいじろう 信州大教職支援センター准教授)
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