信州大学教職支援センター 荒井英治郎研究室

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【連載「コンパス」第17回】「学校と家庭の『信頼貯金』ー時間をかけて相互に紡ぐもの」

【連載「コンパス」第17回】
「信頼=信用×親近感÷不安感」
「学校と家庭の『信頼貯金』ー時間をかけて相互に紡ぐもの」
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「信頼=信用×親近感÷不安感」
「安全・安心な学校」の価値は疑いない。ただ「安全」は客観的であるのに対して「安心」は主観的な概念であることを忘れてはならない。安全性は高額投資で客観的に確認できるが、心の安心感はお金では買えない。「危険で不安な学校」に魅力は感じまい。
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 2022年6月9日付の『信濃毎日新聞』の「教育面」(コンパス)に、第17回目の連載原稿を寄稿しました。


 今回は、「信頼=信用×親近感÷不安感」という信頼の方程式を見立て、信頼貯金を貯めていくことについて論じてみました。


 保護者の多くは、心のざわつきが具体的な困り事に変わると、学校以外の場で本音を吐露するようになります。そうなると、学校は多様な保護者の心の紐帯を強め頼りにされる存在どころか、応答責任を果たしていない無反応な組織として保護者の目に映り、気づけば、「学校における問題」が「問題としての学校」にすり替わります。


 信頼貯金は、①専門能力の発揮を通じてもたらされる「信用」②適切なコミュニケーションによって得られる「親近感」③困り事に寄り添い「不安感」を低減させる姿勢によって貯まっていきます。信頼はあらかじめ、常に、そこに、あるものではありません。時間をかけて、共に紡ぎ、育てていくものです。
 関心・興味のある方がいらっしゃいましたら、ご一読ください。


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「学校と家庭の『信頼貯金』ー時間をかけて相互に紡ぐもの」


 夏のボーナスを将来に備えて貯金に回す家庭もあると思うが、学校は信頼の「貯金」をしているだろうか。今回は「信頼」に関する方程式(信頼=信用×親近感÷不安感)を紹介したい。
 第1に「信用」に値する素晴らしい専門能力を持っていても、相手から「信頼」されるとは限らない。稀有(けう)な専門性を持つ相手の能力を「信用」することと、相手を「信頼」することは別物である。では、人の「信頼」は何によって左右されるのか。

 


 例えば「フィジカル・ディスタンス」(身体的・物理的距離)の確保を徹底した場合、協働的な学びが期待されている学校の存在意義は大きく揺らぐ。コロナ禍の学校が二転三転する感染症対策に翻弄(ほんろう)されながらも「ソーシャル・ディスタンス」(社会的距離)や「サイコロジカル・ディスタンス」(心理的距離)に配慮した教育活動への努力を惜しまない理由もここにある。

 


 第2に信頼を得るには、相手との距離感が重要となる。心理的距離感が近ければ近いほど、コミュニケーションは活発となり、「親近感」を覚えるようになる。そして「親近感」は、信頼へのプラス要因となる。

 


 第3に学校の意思決定の目的が不明確であったり、一貫性が感じられなかったりする場合、保護者は心配になり、その「不安感」は信頼に対するマイナス要因として作用する。心のざわつきが具体的な困り事に変わると、保護者の多くは学校以外の場で本音を吐露するようになる。学校は多様な保護者の心の紐帯(ちゅうたい)を強め頼りにされる存在どころか、応答責任を果たしていない無反応な組織として保護者の目に映る。気づけば「学校における問題」が「問題としての学校」にすり替わる。「安全・安心な学校」の価値は疑いない。ただ「安全」は客観的であるのに対して「安心」は主観的な概念であることを忘れてはならない。安全性は高額投資で客観的に確認できるが、心の安心感はお金では買えない。「危険で不安な学校」に魅力は感じまい。

 


 保護者は何を期待し、何を感じているのか。学校本位の情報発信となっていないか。方法と頻度は必要にして十分か。問いは尽きない。

 

 信頼貯金は①専門能力の発揮を通じてもたらされる「信用」②適切なコミュニケーションによって得られる「親近感」③困り事に寄り添い「不安感」を低減させる姿勢―によってたまっていく。信頼はあらかじめ、常に、そこに、あるものではない。時間をかけて、共に紡ぎ、育てていくものなのである。
(あらい・えいじろう 信州大教職支援センター准教授)
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