信州大学教職支援センター 荒井英治郎研究室

信州大学教職支援センター 荒井英治郎研究室に関するブログです。

【論文】清水優菜・荒井英治郎「学校教員のワーク・エンゲイジメントと仕事資源・アウトカムの関係―仕事要求による関連の差異に着目して―」『教職研究』第12号,信州大学教職支援センター,2021年3月,29-45頁

【論文】清水優菜・荒井英治郎「学校教員のワーク・エンゲイジメントと仕事資源・アウトカムの関係―仕事要求による関連の差異に着目して―」『教職研究』第12号,信州大学教職支援センター,2021年3月,29-45頁

 

このたび、『教職研究』第12号(信州大学教職支援センター)に、「学校教員のワーク・エンゲイジメントと仕事資源・アウトカムの関係―仕事要求による関連の差異に着目して―」という共著論文が掲載されました。

 

 

働き方改革の要請を前に、学校教員はどのように自身の職務に向き合っていくべきか。本研究では、学校教員がメンタルヘルスを良好に保ちながら、自身の仕事に誇りを持ち、活き活きと働くことができる環境を整備していくことが喫緊課題であるという問題意識を前提としながら、近年産業保健心理学の領域で脚光を浴びている「ワーク・エンゲイジメント(Work Engagement)」の概念に着目した分析を行いました。

 

 

ワーク・エンゲイジメントは、特定の対象、出来事、個人、行動などに向けられた一時的な状態ではなく、仕事に向けられた持続的かつ全般的な感情と認知によって特徴づけられ、「仕事中における高水準のエネルギー」を指す①「活力(Vigor)」、②「仕事に対する強い関与」を指す「熱意(Dedication)」、④「仕事への集中と没頭」を指す「没頭(Absorption)」という下位概念から構成されます。従って、ワーク・エンゲイジメントが高い人間は、仕事中に高い水準のエネルギーを感じ、仕事に熱意を持って、集中、没頭している状態にあります。

 

 

そこで本研究では、教員のワーク・エンゲイジメントと仕事資源、アウトカムの関連、並びに、この関連に仕事要求が及ぼす影響を定量的に明らかにすることを目的としました。研究の結果、次のようなことが明らかになりました。

 

 

第1に、教員のワーク・エンゲイジメントと仕事資源、アウトカムの関連に関しては、①ワーク・エンゲイジメントと仕事資源の関連について、仕事の負担高・低群を問わず、作業レベル資源が大きいほど、ワーク・エンゲイジメントが高いこと、②職場の一体感への影響については、仕事の負担高・低群を問わず、部署レベル資源、事業場レベル資源が大きいほど、職場の一体感が高いこと、③心身の健康への影響について、仕事の負担高・低群を問わず、事業場レベル資源、ワーク・エンゲイジメントが大きいほど、心身の健康は高いこと、④満足度への影響について、仕事の負担高・低群を問わず、部署レベル資源、ワーク・エンゲイジメントが大きいほど、満足度は高いことが示されました。

 

 

第2に、仕事要求が教員のワーク・エンゲイジメントと仕事資源、アウトカムの関連に及ぼす影響に関しては、①仕事の負担高・低群によって、仕事資源とワーク・エンゲイジメントの関連に有意差が認められなかったこと、②仕事の負担高群の方が事業場レベル資源と心身の健康、満足度の関連が強いこと、仕事の負担低群の方が作業レベル資源と満足度の関連が強いことが示されました。

 

 

第3に、教員と全業種での仕事資源、仕事要求、アウトカムの差異に関しては、①効果量d が中程度以上の変数に焦点を当てると、本研究が対象とした教員は、全業種の平均と比較して仕事資源を豊富に有しているが、仕事に負担感を抱いていること、②心身の健康や満足度、職場の一体感について、効果量d が中程度以上の下位尺度はなかったため、本研究の対象者と全業種の平均の間に有意差が認められたとしても、その差は小さいことなどが示され、本研究での仕事要求が「妨害的な仕事要求」である可能性を踏まえると、教員は仕事資源は豊富であるものの、妨害的な仕事要求が高いことがわかりました。

 

 

日本の教員を対象としたワーク・エンゲイジメント研究において仕事資源を取り上げたものが見当たらない中で、ワーク・エンゲイジメントと仕事資源、アウトカムの関連、並びに、この関連に仕事要求が及ぼす影響を初めて定量的に明らかにしたものとなっています。

 

 

 ご関心のある方は、以下からダウンロードも可能ですので、ご一読いただけたら幸いです。

 

https://soar-ir.repo.nii.ac. jp/records/2000113#.YJUumC_ 3K0s