信州大学教職支援センター 荒井英治郎研究室

信州大学教職支援センター 荒井英治郎研究室に関するブログです。

【分担執筆】若井彌一監修(河野和清・高見茂・結城忠編)『必携教職六法(2018年度版)』協同出版,2017年2月。

【分担執筆】若井彌一監修(河野和清・高見茂・結城忠編)『必携教職六法(2017年度版)』協同出版,2017年2月。

 

 

昨年度に引き続き、「私立学校編 事項別解説」に「私学行政」、「学校法人」、「私学振興」に関するキーワードを執筆させていただきました。

 

当該六法は、教員採用試験に臨む方に好評のようです。ご関心のある方は、ぜひ手に取ってみてください。

 

 

 

【書評】荒井英治郎「山内太地・本間正人『高大接続改革』」『月刊高校教育』2017年3月号,学事出版,94頁。

【書評】荒井英治郎「山内太地・本間正人『高大接続改革』」『月刊高校教育』2017年3月号,学事出版,94頁。

 

『月刊高校教育』の2017年3月号に、『高大接続改革』の書評を書かせていただきました。

 

「その政策を打ち出したところで、大学入試システムが変わらなければ、日本の教育は変わらないだろう」。

 

こうした改革に対する「嘆き」にも似た言葉を教育関係者の方は何度も耳にしていることと思います。

 

ところが、いよいよ2020年度、「高等学校基礎学力テスト(仮称)」や「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」等の導入により、大学入試の改革が断行される運びとなっています。

 

高大接続改革の背景には、1993年以降の若年人口の急減や高校新卒就職者数の激減、2004年以降の労働生産性の低下があり、産業構造・雇用構造の転換に対応できていないという産業界の課題認識があります。そして、今次の学習指導要領の改訂が示すように、教育界では、十分な「知識・技能」を基盤としながら、「思考力・判断力・表現力」を発揮し、主体的に多様な人々と協働する力を習得できる教育のあり方を模索しつつあります。

 

 これに対して、本書は、「高大接続システム改革会議」の最終報告の解説の他、主要大学の就職データを素材に、中学卒業時の学力(偏差値)で後の人生が方向づけられてしまうという現代日本の「身も蓋もない学歴論」を紹介しています。

 

また、子どもの幸せを願う親の立場を想定し、①AL(アクティブラーニング)とは何か、②黙って聴く講義はダメなのか、先生は成功事例をマネすればいいのか、③ALを行う塾・予備校に行くべきか、④ALに不向きな子はどうするか、AL型人材は企業から嫌われないのかなど、素朴な質問に丁寧に答えることで、初学者に対して「学びの転換」への理解を深める工夫が随所に盛り込まれています。

 

 今後は、

①「高校教育改革」として、高校調査書の改革や学習指導要領改訂を踏まえた教員の資質能力の向上策の検討

②「大学教育改革」として、個別大学における多角的評価に基づく入学者選抜方法の改革、面接・集団討論方法の改善、受験者の活動経歴や小論文等の評価方法の改善、大学の多様性に対応した3ポリシー(ディプロマ・ポリシー:卒業時の能力、カリキュラム・ポリシー:教育内容、アドミッション・ポリシー:入学条件)の一体的実施、大学認証・評価制度の改革が同時並行的に検討される見通しです。

 

ところが、高大接続改革の後には、職業教育改革や企業等の採用・処遇等の仕組みの転換といった、古くて新しい課題が待ち受けています。「高校」と「大学」の接続は制度改革だけをもって完結するのではなく、今後は「社会」との接続のあり方を構想していく必要があるというわけです。

 

本書の副題には、「変わる入試と教育システム」とありますが、当該改革が断行されれば、まさに「変わる教育と社会システム」という状況が到来します。

 

知識・技能の量を問う暗記・適用型、得点重視型の受験を意識した「受動的学習」から、正解のない課題に向き合い、思考力・判断力・表現力を培う「能動的学習」へ。

 

「教育システム」と「社会システム」の接続を展望するためにも、本書が提供する現在進行中の改革論議の見取り図と多様な実践例にまずもっと注視する必要があるように思います。

 

 

高大接続改革: 変わる入試と教育システム (ちくま新書1212)

高大接続改革: 変わる入試と教育システム (ちくま新書1212)

 

 

【講演】市民教育講座 第2回「『若者』の現在~18歳選挙権時代 若者は何を考えているのか~」

全3回にわたる「市民講座」の第2回(2月23日)が、松本市中央公民館(Mウイング)にて行われました。


全体を貫くテーマは、『現代の子ども・若者事情〜未来を託す彼らに、大人は、社会はどうあるべきか〜 』です。

第2回では、「『若者』の現在~18選挙権時代 若者は何を考えているのか~」と題して、
①日本における選挙制度のイロハを改めて確認し、②「18歳選挙権」時代における教育実践のあり方と課題を論じた上で、③若者の意識ということで、「信大荒井英治郎×信濃毎日新聞共同調査」、「信州大学松本キャンパス大学生活アンケート2017」の2つの調査データをご紹介いたしました。

「無意識」(当たり前)の感覚は、人間が「終わりなき日常」を生きていく過程で忘れてしまいがちであること、「無意識に」とは、ことばを通して伝達され、刷り込まれ、蓄積され、習慣化され、生活化された知識や情報の記憶の上に成立することから、「無意識」の「意識」化からアプローチさせていただきました。
第1回よりも参加者の方からの質問も増え、私自身貴重な時間となりました。


次回は2週間後。
最終回の第3回では、改めて、「学校・家庭・地域の連携」のあり方をテーマとします。

【ご報告】「信大生×松本市議会プロジェクト」(信州大学学生・松本市議会 意見交換会)

昨年10月に松本市議会から依頼を受け、「信大生×松本市議会プロジェクト」と称して学生と取り組んできた「信大生と松本市議会議員との意見交換会」が、2月17日松本市議会議員協議会にて行われました。

 

信大生側は、2017年1月16日~18日の3日間にかけて506名に実施した「信州大学松本キャンパス大学生活アンケート2017」(実施主体:信州大学教職支援センター 荒井英治郎研究室)のアンケート結果を軸に、「信大生の実態からみえる松本市に対する想い─「信州大学松本キャンパス大学生活アンケート2017」の結果を踏まえて─」と題したプレゼンテーションを行い、その後松本市議会議員と活発な意見交換をさせていただきました。

 

また、私からは「『18歳選挙権時代』の若者と地域連携」と題した総括をさせていただき、①「日本の若者は政治に関心がない」という俗説に踊らされ、短絡的に若者の投票率の「低さ」を嘆き、「子ども」と「大人」の境界線や距離感を明確化していく議論にはあまり意義がないこと、②「政治参加」と声高に叫ぶのではなく、「大人」の方から若者の「地域参加」や「社会参加」の多種多様な方法に向き合い、等身大の若者の「現在」に寄り添い、その声を公共的な場に再設定していくことが、「緊急」で、かつ「重要」な公共政策上の課題となること、等の内容をお話させていただきました。

 

当該アンケートの内容に関しては、いずれ何らかの形で公表したいと思っておりますが、関心のある方は資料等を提供させていただきますので個別にご連絡ください。

 (2月23日の「市民教育講座』第2回でも関連する話題を提供させていただきます)

 

なお、アンケート調査に関しては、2017年2月11日の『信濃毎日新聞』(29面)、当日の様子は、2月18日の『信濃毎日新聞』(29面)で取り上げて頂いておりますので、関心のある方はご確認ください。

 

【講演】市民教育講座 第1回「『子ども』の現在~何が社会で起こっているのか~ 」

全3回にわたる「市民講座」の第1回(2月9日)が、松本市中央公民館(Mウイング)にて行われました。

 

全体を貫くテーマは、『現代の子ども・若者事情〜未来を託す彼らに、大人は、社会はどうあるべきか〜 』です。

 

雪の影響で足元が悪い中、現役高校生から80歳代の方まで幅広い世代の方に参加いただき、本当にありがとうございました。

 

第1回では、「『子ども』の現在~何が社会で起こっているのか~ 」と題して、不登校、引きこもり、子ども貧困、児童虐待、外国由来の子ども支援等について、子どもを取り巻く現在を浮き彫りにし、今後の対応方法のあり方を議論しました。

 

次回、第2回(2月23日)では、
「『若者』の現在~18歳選挙権時代 若者は何を考えているか~」
と題して、大学生を対象とした信濃毎日新聞との共同調査や「信州大学松本キャンパス大学生活アンケート2017」の結果を踏まえて、主権者教育や若者の社会参画について考えます。

 

現時点でも第2回及び第3回の参加受付をしているようですので、ご関心のある方は、ご連絡ください。引き続きよろしくお願いします。

 

【講演】「これからの学校と家庭・地域の連携のあり方を考える」@松本市小中学校事務研究会冬期研修会

本日は、今年1本目の講演の仕事。

 

松本市小中学校事務研究会の冬季研修会@あずさ会館にお招きいただき、

「これからの学校と家庭・地域連携のあり方」に関する講演をさせていただきました。

 

「学校事務職員」を対象者とした講演は初めてでしたが、

講演準備のプロセスだけでも改めてこれまでの学校事務職員を対象とした先行研究や職務をめぐる議論を参照させていただいたこともあり、大変勉強になりました。

 

「学校事務職員」を対象とした研究は、教育行政学の主要な研究対象の一つでもありますので、引き続きその動向をキャッチアップしていくともに、職務のあり方をめぐる規範論も構想していきたいと思っています。

 

改めて貴重な機会を与えていただきどうもありがとうございました。

 

【書評】荒井英治郎「鈴木大裕『崩壊するアメリカの公教育』」『月刊高校教育』2016年12月号,学事出版,94頁。

【書評】荒井英治郎「鈴木大裕『崩壊するアメリカの公教育』」『月刊高校教育』2016年12月号,学事出版,94頁。

 

『月刊高校教育』の2016年12月号に、『崩壊するアメリカの公教育』の書評を書かせていただきました。

 

 公共政策学では、新たな政策課題に直面した時に、政策決定者は他国の政策決定者の意思決定の根拠や、その政策内容に関する情報を収集し、意思決定の判断材料を揃えることが、将来的な政策革新(policy innovation)の前提となるという考え方があります。他方で、他事例の経験は当該政策の効果に関する予測可能性を高めることになるため、政策決定者はその予測に基づいて政策案の修正や不採用を決定することもあり得えます。この意味で、他事例の経験は、先行して採用されているという意味で「先進」的な事例ではあるが、そこから学ぶべきことは「失敗教訓」であることも少なくありません。

 

 では、諸外国の教育政策、とりわけ今次の大統領選の話題で持ちきりの「自由と平等」の国、アメリカの状況はどうでしょうか。多くの方の関心事かと思います。

 

 本書では、80年代以降、アメリカが意図的に採用した新自由主義に基づく市場型教育改革の代表例として、テストの点数に基づく画一的評価の下で行われる学校選択制、バウチャー制度、チャータースクール制度、ゼロ・トレランス政策、アカウンタビリティ政策等が挙げられています。

 

そして、公教育の民営化を軸に小さな政府が主導した「社会実験」は、本来、出自や身分の別なく教育の機会均等を保障することを重視する公教育の場を、全ての学校が生存競争への参加を迫られ排他的に生徒を奪い合う一兆円規模の教育ビジネス市場へと変貌させ、人間の教育を簡素化・抽象化・数値化・標準化・商品化し、経済格差を再生産する社会装置としての側面が顕著であると指摘されています。

 また、発展途上国からの「教員輸入」(ティーチャー・トラッフィキング)が行われる状況下の教師像は「使い捨て労働者」と化し、教職の超合理化と非・脱専門職化へ邁進しているようです。

 さらに、「データ主導型教育改革」は、一部の「納税者」や「教育消費者」にはある程度のチョイス(選択肢)を与えたものの(とはいえ、それは単なる「チャンス」(運)であり、現実にはそれも平等に保障されていないという)、学校は教員の「温もり」が感じられない空間となり、「公教育」や「民主主義」という社会の鍵概念それ自体が危機に瀕しているとの警鐘が鳴らされています。

 

そして、筆者は、断言しています。

 

そこにあるのは、

民主主義(デモクラシー)ではなく、

企業の企業による企業のための国家統治(コーポラトクラシー)であると。

 

 教育政策においてもグローバル市場が形成されて久しいですが、グローバリゼーションの荒波を前に、共通する政策課題に対する解決策を唯一無二と考える認識枠組みこそ問われるべきであると言えます。

 他国の経験からの教訓を糧に、現在地の把握に努めるだけでなく、目的地それ自体を再考すること。

 このことはPISAのフロントランナーに位置づく日本だからこそなし得ることであり、そこで下される英断と新たな教育ビジョンの提言は、オルタナティブな「スタンダード」を構築し、将来的には世界的規模での政策波及(policy diffusion)に寄与することにもなる可能性もあるはずです。

 

「改革幻想」に浸る前に、まずもって本書の「警告」に耳を傾ける必要があると思います。ぜひご一読ください。

 

 

 

 

崩壊するアメリカの公教育――日本への警告

崩壊するアメリカの公教育――日本への警告