信州大学教職支援センター 荒井英治郎研究室

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【解説】荒井英治郎「47都道府県 注目の教育課題(長野県)」『教職研修』2016年11月号,127頁

【解説】荒井英治郎「47都道府県 注目の教育課題(長野県)」『教職研修』2016年11月号,127頁

 

雑誌『教職研修』の2016年11月号におきまして、「47都道府県 注目の教育課題」の一環として、「長野県」の状況を解説しました。

 

とりわけ、「一人ひとりの学びが生きる教育立県“信州”の創造」を理念とし、20年後を見据えて策定された「第2次長野県教育振興基本計画」のうち、平成28年度の基本方針を中心に重点施策を概観し、(1)学力の向上、(2)全ての子どもの学びの保障、(3)体力向上とスポーツの振興、を軸に個別施策の解説をしました。

 

(1)学力の向上としては、

・30人規模学級編制等の維持

・学習習慣・生活習慣の確立と基礎学力の定着

・「21世紀型教育」の推進

・英語コミュニケーション能力の育成

・ICTを活用した教育の充実

・「信州学」の推進

・長野県キャリア教育支援センターを核としたキャリア教育の推進

・科学技術人材の育成

 

(2)全ての子どもの学びの保障としては、

 ①困難や悩みを抱える児童生徒の支援策として、家庭の経済状況等に左右されない学習機会の保障、SSWの配置拡充と福祉・医療機関との連携支援体制の充実、学校生活相談センターでの電話相談、原則無料の学習支援(地域未来塾)の推進

 

②いじめを許さない学校づくりとして、教職員研修や相談体制の充実、学校・保護者間の連携協力の促進、子どもの自己肯定感の育成

 

特別支援教育の充実として、自立活動担当教員の増員と支援の充実、特別支援教育コーディネーターを核とする専門機関との連携や校内体制の充実、就労コーディネーターの配置と就労支援体制の強化等が推進されている。

 

(3)体力向上とスポーツの振興としては、

・長野県版運動プログラム(幼児期〜中学生期対象)の活用促進

・「長野県中学生期のスポーツ活動指針」に基づくスポーツ活動の発展

食育・体験学習の推進、スポーツ振興

 

 この他、長野県が提案する「信州教育スタンダード」や、知事部局との連携施策「長野県人口定着・確かな暮らし実現総合戦略〜信州創生戦略〜」に基づく「学びの郷 信州の創造」も、「信州教育」の今後の展開を左右するものとなりますので、ご注目ください。

 

 

教職研修 2016年 11月号[雑誌]

教職研修 2016年 11月号[雑誌]

 

 

【共著論文】中島宏・荒井英治郎「『大学の危機』時代に考える学問の自由・大学の自治─東大ポポロ事件」山本龍彦・清水唯一朗・出口雄一編『憲法判例からみる日本─法×政治×歴史×文化』日本評論社,2016年,187-211頁。

【共著論文】中島宏・荒井英治郎「『大学の危機』時代に考える学問の自由・大学の自治─東大ポポロ事件」山本龍彦・清水唯一朗・出口雄一編『憲法判例からみる日本─法×政治×歴史×文化』日本評論社,2016年,187-211頁。

 


ご紹介が遅れましたが、山本龍彦・清水唯一朗・出口雄一編『憲法判例からみる日本─法×政治×歴史×文化』日本評論社,2016年に、山形大学の中島先生と共著で「東大ポポロ事件」に関する論考を執筆いたしました。

 

同書の「帯」に表記されてある

「【朗報】憲法判例が想像以上におもしろい件について」

がちょっとした話題(?)になっていますが、中島先生の憲法学的アプローチに対して、私の方は「教育学」のこれまでの蓄積から当該判例を再検討を行いました。

 

「学問の自由」は、広く国民一般に対して、「学問研究の自由」と「研究発表の自由」を保障しているのに対して、「教授の自由」については必ずしも保障するものではありません。「教授の自由」は、歴史的経緯とその本質(学術の中心として真理を追究すること)に鑑みて、大学に対して特権的に保障されていると理解されてきたわけです。これに対して、教育学分野(特に教育法学)においては、普通教育機関の「教授の自由」、換言すれば、学校教師、とりわけ初等中等教育段階の教員に「教育の自由」が憲法上保障され得るか、その根拠と範囲が長きにわたり理論的・実践的課題として提起・検討されきましたので、その研究的知見を紹介しました。

 

また、学問的活動の自由を意味する「学問の自由」は、3つの構成要素(学問研究の自由、研究発表の自由、教授の自由)から成り立ち、とりわけ学問研究の自由は「思想・良心の自由」(憲法第19条)から、研究発表の自由は「表現の自由」(憲法第21条)からも一部根拠づけられます。そして、こうした憲法原理は、「聖域」(サンクチュアリ)としての意義を有し、戦後以降の国家権力の対抗原理足りえたわけですが、現代教育改革の特徴は、戦後形成された教育制度のみならず、その制度を支える原理それ自体の再編を企図している点にあります。憲法原理でさえも、もはや例外ではありません。「他律的」に「自律的」な改革が促されていることは言わずもがなです。

 

「大学の自治」を揺るがす今日の状況下において、東大ポポロ事件判決は、「学問の自由」の制度的保障としての性格を有する「大学の自治」の原則の重要性を通時的に喚起させるという意味で現在もなおその重要さは失われていないと考えています。他方で、本判決は、結節点としての大学が高等教育・学術研究・社会貢献という要請に向き合いながら政府・(地域)社会・市場といかなる関係を取り結んでいくことができるのか、新たな政策環境に置かれた相互関係のあり方を問い直し、組み替え、改めて構想していく必要性も逆説的に喚起するものだと思います。

 

同書は目次からも明らかなように、憲法訴訟の解説と共にその背景から判例を眺めることができます。

 

ぜひご一読ください。

 

以下、目次を出版社のHPから転載しておきます(https://www.nippyo.co.jp/shop/book/7227.html


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第1章 小説はプライバシーを侵害するのか
「宴のあと」事件  …………山田哲史・日比嘉高

第2章 社会や家族の変化に民法は応えるべきか
非嫡出子相続分最高裁違憲決定  …………白水 隆・宇野文重

第3章 「投票価値の平等」を阻むものは何か
「一票の較差」判決  …………徳永貴志・砂原庸介

第4章 憲法「土着化」プロセスにみえる「公務員」秩序とは
猿払事件  …………水谷瑛嗣郎・清水唯一朗

第5章 思想・良心に反する行為を拒めるか?
君が代起立斉唱事件  …………堀口悟郎・奥中康人

第6章 「神社は宗教ではない?」が示唆すること
地鎮祭事件  ……石塚壮太郎・藤本頼生

第7章 「お行儀のよいデモ行進」を目指して?
東京都公安条例事件  …………岩切大地・中澤俊輔

第8章 自分の好きなところに店を開くことができない?
薬局開設距離制限事件(薬事法事件)  …………山本真敬・小石川裕介

第9章 「大学の危機」時代に考える学問の自由・大学の自治
東大ポポロ事件  …………中島 宏・荒井英治郎

第10章 「最低限度の生活」を求めて
朝日訴訟  …………武田芳樹・山下慎一

第11章 私のものは「私だけのもの」か?
森林法事件  …………山本龍彦・出口雄一

第12章 日本の解散権は自由すぎる!?
苫米地事件  …………植松健一・小堀眞裕

第13章 「統治行為論」とは何か?
砂川事件  …………奥村公輔・中島信吾・吉田真吾
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憲法判例からみる日本 法×政治×歴史×文化

憲法判例からみる日本 法×政治×歴史×文化

 

 

【キーワード解説】荒井英治郎「教育委員会制度改革」日本学校教育学会編『これからの学校教育を担う教師を目指す─思考力・実践力アップのための基本的な考え方とキーワード』学事出版,2016年

【キーワード解説】荒井英治郎「教育委員会制度改革」日本学校教育学会編『これからの学校教育を担う教師を目指す─思考力・実践力アップのための基本的な考え方とキーワード』学事出版,2016年

 

 

毎回のことながら遅れての報告となりますが、日本学校教育学会が編集した当該書籍に「教育委員会制度改革」に関するキーワード解説を行いました。

 

教育委員会に対する制度改革論議はこれまでも行われてきましたが、平成26年に約60年ぶりに地方教育行政の組織及び運営に関する法律が改正されました。改革論議の引き金となったいじめ自殺への教委の姿勢に対する批判は、当該自治体の行政運営だけでなく、教育委員会制度にも向けられ、改革論議が国レベルで本格化したわけですが、当初、①公選首長と教育委員会の関係、②教育長と教育委員(長)の関係、③教育委員会事務局の改革(前例踏襲主義・指導主事依存体質への批判)等の課題が設定されたのに対して、②③は後景に退かれ、①に関わる教育行政の「責任の明確化」と「政治的中立性の確保」へと論点が収斂したことが、今次の政策過程の特徴でした。

 

法改正の趣旨は、①教育の政治的中立性の確保、②教育の継続性・安定性の確保、③地方教育行政における責任体制の明確化、④迅速な危機管理体制の構築、⑤公選首長との連携強化、⑥地方に対する国の関与の見直しと大別できますが、キーワード解説では、①従前の教育長(常勤)と教育委員長(非常勤)を一本化した新たな「教育長」(常勤)の設置、②教委による教育長・教委事務局へのチェック機能の強化と会議の透明化・活性化、③執行機関(首長と教委)同士の協議・調整の場としての「総合教育会議」の設置、④首長に対する教育・学術・文化の振興に関する目標・方針を記載した「大綱」の策定権限の付与、⑤国の地方への関与の見直し等について概括しました。

 

今次の改革で、は戦後改革で重視された制度原理(政治的中立性、継続性・安定性、専門性と民主性の確保)が再編対象となったわけですが、とはいっても今次の法改正をもって改革が完了したと解するのは早計です。改革論議の途中では、教育行政責任を首長に移し教委を首長の附属機関とする案も検討されたことが示唆するように、執行機関としての教育委員会の存在は自明でなくなっています。

 

当面の運用課題として、教委における教育長の専断防止の方法、総合教育会議における執行機関同士の意思決定の方法等の在り方が挙げられますが、首長・教委の意思疎通の円滑化や相互連携、民意を反映した教育行政の推進に寄与し、教育行政の質(子どもの最善の利益の尊重と教育現場への支援体制の強化)を保証することになるか、教委の一挙手一投足が問われていることは間違いありません。

 

私自身もいくつかの自治体における制度設計に関わらせて頂いておりますが、上記のことを踏まえながら、緊張感をもって注視しているところです。

 

この他にも同書は多様なテーマに関するキーワード解説が行われておりますので、ご関心のある方はご一読ください。

 

これからの学校教育を担う教師を目指す―思考力・実践力アップのための基本的な考え方とキーワード

これからの学校教育を担う教師を目指す―思考力・実践力アップのための基本的な考え方とキーワード

 

 

【書評】荒井英治郎「相澤真一・土屋敦・小山裕・開田奈穂美・元森絵里子『子どもと貧困の戦後史』」『月刊高校教育』2016年9月号,学事出版

 

ご紹介が遅れましたが、『月刊高校教育』(学事出版)の2016年9月号に、書評を執筆させていただきました。

 

 私たちにとって、「戦後」とは何だったのでしょうか。戦後という歴史の1ページに、何を教訓として刻み、何を(無)意識的に忘却してきたのでしょうか。

 家庭の社会経済背景が教育格差に大きな影響を与えていることが「暗黙知」化されつつある今日、貧困の世代間連鎖の解消は喫緊の当為問題です。しかし、解消方法には、多様な選択肢(就学保障を通じて未来の子どもの貧困の再生産を防ぐ、早期の就労保障を通じて家計負担の圧迫を軽減するなど)がありえます。では、「子ども」と「貧困」を結びつけ社会問題と捉える視座は、いつから、どのように用いられてきたのでしょうか。こうした「子どもの中の貧困」と「貧困の中の子ども」が織り成す戦後史を描いたのが、本書です。

 本書で用いられた各種データは、50・60年代の社会調査を約2年かけて復元したものです。私自身少しばかりではありますが、戦後教育史資料のアーカイブの仕事をさせてもらっていますが、調査用紙を1枚ずつカメラ撮影し、1票ずつ入力する作業は、途方に暮れる作業であることは想像に難くありません。

 

しかし、こうした地道な作業から紡がれた「歴史像」に真摯に向き合うことではじめて、等身大の日本を直視した課題解決の方向性を見定めることができると思っています。

 

 「子ども」は、家族・社会にとって、希望なのか、足枷・重荷なのか。そして、現代日本の教育制度は、「貧困からの脱出」に貢献しているのか、はたまた「貧困への転落」を促し、貧困という世帯状況を固定化させることに加担しているのか。

 

教育制度を社会制度の中にどのように位置付け、生活保障と教育保障を公共政策としてどのように講じていくか、今まさに問われています。

 

ぜひみなさまお手にとって『子どもと貧困の戦後史』をご一読ください。

 

 

月刊高校教育 2016年 09 月号 [雑誌]

月刊高校教育 2016年 09 月号 [雑誌]

 

 

 

【書評】荒井英治郎「国立教育政策研究所編『資質・能力【理論編】」『月刊高校教育』2016年6月号,学事出版

【書評】荒井英治郎「国立教育政策研究所編『資質・能力【理論編】」『月刊高校教育』2016年6月号,学事出版

編集

 

ご紹介が遅れましたが、『月刊高校教育』(学事出版)の2016年6月号に、書評を執筆させていただきました。

 

 中教審は、学習指導要領の改訂を目的とした「初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について」の審議を継続させていますが、主体的・能動的な学習方法を重視する観点から、ICTや「アクティブ・ラーニング」の活用が検討されています。

 

「何を教えるか」から「どのように学ぶか」という学習観のパラダイムシフトに伴い、今後は「何を知っているか」に留まらず「何ができるか」が問われることになります。

 

しかし、上記の学習観の転換の背景にある「21世紀に求められる資質・能力」や、学習者が自身の思考を広げ深める「学びの構造」が教育関係者にどの程度理解・共有されているかというと、疑問なしとしません。

 

これに対して、本書は、国立教育政策研究所のプロジェクト研究の成果として整理された「21世紀に求められる資質・能力」をわかりやすく解説したものです。

 

与えられた「問い」に対して唯一の解を導き出す時代から、「問い」の問われ方に熟慮しながら対話や協働を通じた最適解を創造していく時代へ。「目的(ends)」だけでなく「手段(means)」としての資質・能力に注目が集まる中、資質・能力を育成するための道筋の一つに光を当てたのが、本書です。「キー・コンピテンシー」と「21世紀型スキル」の概念、資質・能力を育成することの意義、国内外の研究事例を紹介していますので、ぜひご参照下さい。

 

【ゲスト】子どもの支援・相談スペース「はぐルッポ」

昨日に引き続き、本日の授業でもゲストにお越しいただきました。

 

本日のゲストティーチャーは、松本市で子どもの支援・相談スペース「はぐルッポ」の方です。

 

信大松本キャンパスから徒歩数分のところのある「はぐルッポ」は、様々な背景で学校に通うことができない子ども、悩みを抱えている子どもの居場所を提供すると同時に、子どもに応じた生活支援や学習支援を行っています。さらには、保護者を主とした相談も行っています。

 

www.hug-matsu.jp

 

【ゲスト】養護教諭のまなざし

本日の授業では、現在、あがたの森文化会館の2階「青少年の居場所」で、まちかど保健室を開設されている元養護教諭をゲストティーチャーとしてお招きいたしました。

 

養護教諭としてのキャリア、苦悩や模索、そして、現在のまちかど保健室の取り組みについて、お話いただきました。

 

授業では、いわゆる特定の教科を主とした「教諭」に関するテーマを中心としてきたこともあり、今回の授業を通じて、新たな教育観や学校観、子ども観を提起していただきました。どうもありがとうございました。