信州大学教職支援センター 荒井英治郎研究室

信州大学教職支援センター 荒井英治郎研究室に関するブログです。

【書評】荒井英治郎「ポール・タフ『私たちは子どもに何ができるのか』」『月刊高校教育』2018年3月号,学事出版,98頁。

【書評】荒井英治郎「ポール・タフ『私たちは子どもに何ができるのか』」『月刊高校教育』2018年3月号,学事出版,98頁。

 

気づけば、 年度末となりましたが、『月刊高校教育』2018年3月号に、
ポール・タフ『私たちは子どもに何ができるのか』(HELPING CHILDREN SUCCEED)の書評を書かせていただきました。

 

「子どもの貧困」の本質的課題は、貧困家庭の子どもは「認知能力」を獲得する機会を剥奪されるだけでなく、生きる上での基礎的財産となる「非認知能力」をも獲得する機会が失われてしまう点にあります。


ここでいう、認知能力とは、IQテストや学力検査等から測定される3R'sや学歴など、ハードな能力を指し、非認知能力とは、社会的・情動的・行動的特性(性格・気質)であるソフトな能力を指します。例えば、やり抜く力、忍耐力、誠実さ、自制心、楽観主義、責任感、好奇心、学習・労働意欲、自信、努力、協調性、計画力などです。


 では、この非認知能力は、どのように教えたらよいのだろうか。この問いに対して、本書は非認知能力を読み書き計算のように教えることのできるスキルと捉える発想自体を棄却し、非認知能力を「環境」の産物と捉え、応答していきます。


子どものみならず、人は「自律性」「有能感」「関係性」を実感できる環境が安定的に確保されているときに充実した生活を送ることができ、そのことが日々を生きるモチベーションへとつながります。万国共通の「真理」を、われわれの「当たり前」や「常識」として、再び取り戻さなくてはなりません。ご一読ください。

 

 

 

私たちは子どもに何ができるのか――非認知能力を育み、格差に挑む

私たちは子どもに何ができるのか――非認知能力を育み、格差に挑む

 

 

【講演】「子どもの成長のために、必要とされる地域力」『平成29年度寿地区地域福祉を語る会』


3月7日に、長野県松本市寿公民館におきまして、「子どもの成長のために、必要とされる地域力」と題した講演をさせていただく機会を得ました。

 

「地域包括ケアシステム」の構築が謳われ、政府の再分配政策(社会保障や生活支援システム)が「地域包括ケアシステム」へと転換が図られようとしています。

 

これは、「ピラミッド型医療圏」から「地域圏をベースとした多職種連携による提供体制」への転換とも言い換えることができ、住まい・生活支援・医療・介護・予防の一体的・効率的な提供を実現しようとするものです。ここでは、「生活上の安全・安心・健康を確保するために、日常生活圏域(概ね30分以内に駆けつけられる中学校区程度の範囲)でニーズに応じた様々な医療・介護・福祉サービスを提供する体制」を構築していくことが想定されているわけですが、既存の地域づくりの基盤なしにはこうした大きな転換点を乗り越えることは困難であることは明白です。

 

これに対して、今回の講演では、医療・介護・福祉サービスを核とした「地域包括ケアシステム」の構築において、「教育」分野の議論はどのように貢献しうるのかという観点でお話をさせていただきました。

 

中教審答申(2017)「新しい時代の教育や地方創生の実現に向けた学校と地域の連携・協働の在り方と今後の推進方策について」で指摘されているように、

現在、
①地域とともにある学校への転換
②子供も大人も学び合い育ち合う教育体制の構築
③学校を核とした地域づくりの推進

が謳われています。

 

講演では、「地域学校協働活動」の全国的なケースの紹介と、
「いつ、どこで、何をすべきか」という問いをどのように地域単位で考えていくことができるかを考えていくための視点をを提示させていただきました。

 

教職支援センターにて地域連携部門長を拝命している私自身もアクションリサーチを通じて考えて行きたいと思っています。

【講演】「なぜ、いま、スクール・コンプライアンスか?」(工業系高校教員スキルアップ講座)

1月23日に、工業系高校教員スキルアップ講座の場で「なぜ、いま、スクール・コンプライアンスか?」と題した講演を松本工業高校の松工会館にてさせていただきました。

 

限られた時間ではありますが、
①現代日本の教育課題
②「スクール・コンプライアンス」の理解
③「ケース・メソッド」を通じたディスカッション
の3本柱でプログラムを組んで進めさせていただいたほか、
各学校が抱える個別具体的な課題に対して、私の専門からの視点としてコメントさせていただきました。

 

工業高校の先生方を前にお話をさせていただくのは今回が初めてでしたが、
非常に有意義な時間となりました。

 

先方から参加していただいた22名の先生方に感謝申し上げます。

【講演】「18歳選挙権時代における選挙啓発のこれまでとこれから」@佐久地域市町村選挙管理委員会合同講演会

1月22日に、長野県佐久地域振興局からの依頼で、佐久地域市町村選挙管理委員会合同講演会の場で、講演をさせていただきました。

 

テーマは、「18歳選挙権時代における選挙啓発のこれまでとこれから」です。

 

約80名の選挙管理委員会委員・選挙管理委員会職員の方の参加があり、「18歳選挙権時代」において、大学・高校が管轄内にない選挙管理委員会は、何をなしうるかという観点から、①18歳選挙権の「現在」、②主権者教育の課題、③主権者教育の展望、④「18歳選挙権時代」から「18歳成人時代」へ、に関してお話しさせていただきました。

 

以下は、講演の中で触れさせていただいた取り組みの振り返りに関するリストです。

------------------------------------------
●期日前・当日投票所の運用の改善
●投票時間の弾力化(延長)
●大学・商業施設等への投票所の設置
●投票弱者のための移動支援
●選挙事務(投票所運営、投票啓発)の委託・連携
●若者(グループ)との連携
選挙管理委員会でのインターンシップの受入
●教育機関(小学校・中学校・高校・大学・社会教育施設)との連携
●自治体内部(他部局)/自治体間(県内外)での連携
●市町村議会(地方議員や職員)、税務署、弁護士等、マスコミとの連携
●新成人・新有権者等へのPR活動
●小学生・中学生・高校生・大学生・成人のための主権者教育
●住民票異動の理解促進
不在者投票制度の認知度向上
公職選挙法違反を意識した啓発事業の展開
●主権者教育の窓口の一元化・地域拠点(場)の設置
●組織的・体系的な事業展開のための拠点の設置
------------------------------------------

貴重な機会をありがとうございました。

 

県外出身者が8割弱である信州大学に身を置く者として、「不在者投票」「期日前投票」に関して、ボーターフレンドリーにするためのささやかな取り組みを進めて参りたいと思います。

【書評】荒井英治郎「井深雄二『戦後日本の教育学ー史的唯物論と教育科学』」日本教育制度学会『教育制度学研究』第24号,東信堂,202-208頁。

【書評】荒井英治郎「井深雄二『戦後日本の教育学ー史的唯物論と教育科学』」日本教育制度学会『教育制度学研究』第24号,東信堂,202-208頁。


日本教育制度学会の学会誌『教育制度学研究』第24号に、

 

井深雄二『戦後日本の教育学ー史的唯物論と教育科学』勁草書房,2016年

 

の書評を書かせていただきました。

 


教育現象の法則的把握(生成・発展・消滅過程の合理的把握)に注力してきた最も代表的理論として、史的唯物論を挙げることに異論はないかと思いますが、本書は、戦後日本の教育学における諸学説の展開をカール・マルクス史的唯物論を参照軸としながら分析したものです。本書の前半では、概念装置たる史的唯物論のエッセンスを概括した上で1950年以降の教育科学論争(史的唯物論と教育学をめぐる方法論争)が検討され、後半では現代教育政策のイデオロギー分析が行われています。


序章 史的唯物論と教育科学
第Ⅰ部 戦後日本の教育科学論争
 第1章 戦後初期の教育科学論
 第2章 教育科学論争の諸前提
 第3章 「教育構造論争」の分析
第Ⅱ部 教育科学論の展開
 第4章 人間形成の物質的基礎
 第5章 阿部重孝の学校制度論
 第6章 教育改革と教育科学
 第7章 現代日本における教育政策分析の課題と方法
あとがき

 

書評では、「読後感」を大切にしつつ、筆者に率直に問いたい点として、
①「土台—上部構造」論の現代的意義に関して、②教育学研究、とりわけ「現代教育政策」に対する史的唯物論の方法論的意義に関して、③「教育史学」を代表とする近年の日本の教育史研究の動向に関して、コメントさせていただきました。

 

ぜひご一読ください。

 

 

戦後日本の教育学: 史的唯物論と教育科学

戦後日本の教育学: 史的唯物論と教育科学

 

 

 

教育制度学研究〈24〉

教育制度学研究〈24〉

 

 

 

【書評】荒井英治郎「Creat Media編『日本一醜い親への手紙 そんな親なら捨てちゃえば?』『月刊高校教育』2017年12月号,学事出版,98頁。

【書評】荒井英治郎「Creat Media編『日本一醜い親への手紙 そんな親なら捨てちゃえば?』『月刊高校教育』2017年12月号,学事出版,98頁。

 


ご報告が遅れましたが、『月刊高校教育』2017年12月号に、『日本一醜い親への手紙 そんな親なら捨てちゃえば?』の書評を書かせていただきました。

 

全国の児童相談所(210箇所)が2016年度に対応した児童虐待の件数(速報値)は12万2578件(前年度比18.7%増)で過去最多を更新していること。これは、調査開始の1990年(1101件)と比較すると実に100倍以上の増加となっていること。
そして、5日に1人の割合で、親による虐待を理由として尊い子どもの命が失われているという事実。

 

これに対して、本書は、親による虐待を生き延びた「サバイバー」が親に向けて書いた100通の訣別・希望・勇気の手紙(メッセージ)を編んだものとなっています。

 

ぜひご一読ください。

 

 

 

日本一醜い親への手紙 そんな親なら捨てちゃえば?

日本一醜い親への手紙 そんな親なら捨てちゃえば?

 

 

月刊高校教育 2017年 12 月号 [雑誌]

月刊高校教育 2017年 12 月号 [雑誌]

 

 

【研修】「長野県の教育課題と学校マネジメントー学校組織における「中堅教員」の役割(キャリアアップ研修)」@長野市教育センター

【研修】「長野県の教育課題と学校マネジメントー学校組織における「中堅教員」の役割(キャリアアップ研修)」@長野市教育センター

 

10月30日に「キャリアアップ研修」として、長野市教育センターにて「長野県の教育課題と学校マネジメントー学校組織における「中堅教員」の役割」というタイトルで登壇させていただきました。

 

キャリアアップ研修は、長野県の40代の教員が、現在の教育課題を確認しながら自己実践を振り返ることにより、教員としての在り方について考えるとともに、学校組織マネジメントの基礎知識や学校危機管理、自己の感情と向き合うことの必要性を学ぶことを通して、充実期の資質能力を高め、今後のキャリアアップを考えることを目的とするものとして設計されています。

 

第1回目の研修では、「教職キャリアのリフレクションと展望」では、ストレスマネジメントの観点から教員の職業特性を紹介するとともに、ご自身のセルフコントロールの技法をグループで確認してもらいましたが、

 

本日の第2回目の研修では、①日々の実践を「教科目」や「校務分掌」からの視点、「学級組織」や「学年組織」からの視点ではなく、「学校組織」という視点で 課題解決の方法を考え、選択肢の幅を広げていくために、ケースメソッドで研修を進めていき、「学校組織マネジメント=(教育)法的思考+(教育)実践的思考」のモチーフを理解していただきました。

 

また、② 勤務校の「状況把握」を前提としながら、現在、勤務校で期待されている役割は何か?、今後、勤務校で果たすべき役割は何か?を考えていただく機会になればと考え設計をいたしました。

 

参加してくださった先生方、2日間もお付き合いいただき、どうもありがとうございました。