信州大学教職支援センター 荒井英治郎研究室

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「9月入学」論議に関する情報提供③:秋季入学研究会(代表:広島大学長 沖原豊)「秋季入学に関する研究調査」昭和61年12月。

「9月入学」論議に関する情報提供③:秋季入学研究会(代表:広島大学長 沖原豊)「秋季入学に関する研究調査」昭和61年12月。

 

入学時期の移行パターンとしても、
当時は、以下の6つが検討され、移行経費の算出もされていました。

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1 学年進行による移行方式
〔1〕1.5倍入学(半年繰り下げ入学)方式
〔2〕1.5倍入学(半年繰り上げ入学)方式
〔3〕新入生漸次受入方式
〔4〕半年入学待機方式
2 一斉移行による移行方式
〔1〕教育期間短縮方式(西ドイツ・ヘッセン州など)
〔2〕半年入学待機、卒業・修了延期方式
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代表者:沖原豊(広島大学長)、研究分担者14人


[目次]
第1章 入学時期の変遷状況
第2章 国民の学校暦観・季節観
第3章 児童・生徒の心身への影響
第4章 学校の年間教育計画との関係
第5章 夏休みの位置づけ
第6章 入試との関係
第7章 会計年度と学年度
第8章 国際交流上の利点と問題点
第9章 学生の就職、教員の人事異動・研修
第10章 移行方法
第11章 移行経費
第12章 諸外国の学年始期の現状
第13章 諸外国の学年始期の設定理由
第14章 諸外国の学年始期変更の実際

 


[概要]
第1章 入学時期の変遷状況
・「日本の伝統的な学校教育においては、学習者主体の思想が支配していて、学習(稽古・修業)をしたいと思う者がみずから求めて師匠の門をたたき、弟子入りをした。これにこたえて、師匠は弟子一人一人の個性と能力に応じたマン・ツー・マンの個別教授をした。この場合、学年や学期を定め、入学時期を固定する必要はなく、学習者は、入りたい時に入り、出たい時に出るという、いわば随意入学と随意退学の伝統が成立することになる。」(2)
・「明治19年の学校令のころになると、学齢期の児童を尋常小学校(4年)に就学させる義務規定が強化されるとともに、学事行事を一般行事に従属させる措置が講じられた。同年、会計年度を4月1日に改正したこともあって、地方において小学校の4月入学を奨励する傾向が現れた」(5-6)
・「その1は、9月始期の場合には、盛夏に学年末試験を行うため生徒の健康面に問題があること、その2は、会計年度に合わせることが、生徒の給与品などの取り扱いや精算に都合がよいこと、その3は、管内小学校の学年始期を4月に改めつつあり、それに合わせることが望ましいこと、その4は、明治19年の徴兵制の改正によって、それまでの壮丁者の届出期日が9月から4月に変えられたため、優秀な青年を師範学校に招致するには4月入学が有利であること、の4点である。」(6-7)
・「上記4つの理由の、その3に挙げられた小学校の学年始期の4月統一は、明治23(1890)年のいわゆる第二次小学校令で等級制に代わって学年制の規定が設けられたことから軌道に乗り出した。この小学校令は明治25(1892)年から全面的に施行され、4月始期の学年生が全国的に実施されるようになった。しかし、これが法規の上で明文化されるのは、明治33(1900)年の小学校令施行規則においてであって、そこではじめて「小学校ノ学年ハ四月一日ニ始リ翌年三月三十一日ニ終ル」と規定された。」(7)
・「日本の近代教育は、人材養成のための専門教育と人民教育のための普通教育という二元的な系譜で出発し、前者は西洋をモデルにして9月入学を、後者は日本の政治的条件から4月入学を採用していた。大正期に至って、学年始期という側面から、ようやくこの2つの制度が統一されることになる。この学年始期統一の原則は、第二次大戦後の6・3・3・4という単線型学校制度の中に生かされ、今日に至っている。」(9)


第2章 国民の学校暦観・季節観
(1)沖縄タイムスの調査(時期:昭和60年4月)
・「約8割が「いまのまま4月入学がよい」と答え、反対論が圧倒的多数を占めている。「大学だけを9月入学に」を含めても賛成は15%にすぎず、81%の人が4月入学制度の存続を支持している。」(14-15)

(2)時事通信社の調査(時期:昭和61年6月、対象:成人2000人)
・「「すべての学校の9月入学」に賛成する者は10.5%、「大学だけの9月入学」に賛成する者は16.1%に過ぎない。それに対し、反対の者はそれぞれ53.8%、44.0%となっている。なお、この調査では、不明と答えた者がかなり多い(35.8%、39.9%ー荒井追記)。」(15)

(3)秋季入学研究会の調査[秋季入学に関する調査](時期:昭和61年10月、対象全国の小学校・中学校・高等学校の校長の809名)
・「新入生を迎えるのに最もふさわしい季節は、「春が望ましい」と答えた者が約70%(425人、69.3%ー荒井追記)であり、これまた多数を占めている(「秋が望ましい」は、47人、7.7%ー荒井追記)。なお、校長のなかには、「学校への入学は桜の花が咲く4月に行うのが日本の伝統である」という考えを持っている者が多かった。」(15)
・「上述の三つの調査が示しているように、現行の「桜の花が咲く4月に入学するのが好ましい」という日本の伝統的な考えかたが国民の間に依然として根強いことを物語っている。」(16)
・「高等学校卒業後大学入学までの間に半年程度のズレが生じるとすれば、その間をいかに有効に利用するかについて慎重な検討が必要である。」(16)


第3章 児童・生徒の心身への影響
・「現在における我が国の子どもの場合には、発育の季節変動は著しく少ないと考えてよいであろう。」(18)
・「現在の子どもの生活に最も大きな影響を与える疾患はインフルエンザ様感冒であるといえる。」(29)
・「児童・生徒の精神活動、身体活動の季節差を中心として述べた。成長、疾病、死亡率等の季節変動は、最近著しく少なく、子どもの体は四季を通じて安定しているといえる。学校の欠席数も年間を通じて少なく、インフルエンザ用感冒ですら4%以下で、この時期を除けば1%前後であり、年間の変動も少ない。子どもの健康、勉強意欲等についての母親の観察結果は、非常に興味深い。春秋は勉強意欲の高い季節であり、夏は勉強意欲は低いが身体活動力の高い季節である。夏期における、このような子どもの状態特性を十分考慮した教育計画が期待される。」(43)


第4章 学校の年間教育計画との関係

2 秋季入学に伴う年間教育計画への影響

(1)学習指導への影響
①飼育栽培
・「学校では、教材の配列や題材が季節の変化に応じて取り上げられている。」(74)
・「このように秋季入学になれば、そうした教材や学習指導の変更を余儀なくされたり、実施が不可能になったりすることがある。」(74)
②勤労体験学習
・「また、勤労体験学習においては、一般に田植、除草、収穫といった稲作についての体験学習が展開されているが、秋季入学になると、2学年にまたがって一連の体験学習を行うことになるであろう。全体行事として行う場合には、収穫の時には卒業してしまう者がでてくる。その意味で稲作等についての勤労体験学習には困難が伴うと考えられる。」(75)

(2)学校行事への影響
①学期と学校行事
・「秋季入学になると、新2学期(1月〜3月)が年明けの寒い時期になり、屋外で催される全校的行事の実施は困難になる。このぶん、現2学期で行われている行事の大半が新1学期(9月〜12月)と新3学期(4月〜8月)に分散して行われることになろう。」(76)
②秋季入学研究会の調査
・「体育的行事、学芸的行事、旅行・遠足的行事、勤労生産的行事、その他の行事の5つについては、小学校、中学校、高等学校とも、秋季入学になれば「支障がでてくる」と答えた校長は半数以下である。」(78)
・「しかし、体育的行事については他の行事に比べて「支障が出てくる」と答えている校長が多かった。」(78)
③中体連、高校総体等の競技大会
・「秋季入学になると、これらの大会は新3学期(4月〜8月)に集中することになるが、進学や就職を目前に控えた3年生は、これらの大会に参加したり、出場できたりできるかどうか、微妙である。」(79)
・「このことは、全国的な文化的活動についてもほぼ同様である。」(79)
・「以上のように、秋季入学に移行する場合に想定される年間教育計画への影響については、基本的には大きな支障はないと考えられる。しかし、飼育栽培、勤労体験学習などの学習指導あるいは体育的行事などについてはかなりの支障が出るものと思われる。」(79)


第5章 夏休みの位置づけ
・「秋季入学になると、夏休みの期間は学校から子どもを解放し、親の責任の下で家庭教育を行うことができ、また社会教育施設を有効利用することにより、過度の学校教育依存から脱却し、本来の教育の姿を実現する機会が増大する、という意見もある。この意見については生涯教育の観点から傾聴すべき点が少なくない。」(84)
・「秋季入学になれば、・・・児童・生徒に対する家庭や社会の受け皿が果たして十分であるか、ということが問題となってくる。」(90)
・「家庭にそれほどの期待ができないとすれば、現在よりも塾や予備校への依存が高まる可能性がある」(90)
・「校長の多くは、夏休み期間中に塾に通う児童・生徒が増えると予想している。」(91)
・「現在、家庭の教育力が低下し、社会教育の受け皿も不十分な状態では、児童・生徒の非行が増大するのではないか、という意見もある。」(91)
・この点について秋季入学研究会の調査(表7)によると、「非行が増大すると思う」校長は、小学校で69.1%、中学校で75.7%、高等学校で61.7%であり、多くの校長は非常の増加を心配している。」(91)
・「わが国では家庭の教育力が低下しており、社会教育も学校に変わる受け皿とはなり得ない状態であり、夏休み中の学校の指導がなくなるとすれば、塾や予備校に通う者が増加し、非行も増大すると予想する者が多い。」(92)
・「なお、夏休みには子どもを学校から解放し、親の責任の下に指導すべきであるという考え方については、夏休み自体のあり方の問題であって、現行制度でもそうした考え方の実現は可能である。「したがって、こうした考え方が秋季入学を導入する根拠とは必ずしもならないと思われる。」(92)


第6章 入試との関係
1 秋季入学の利点
(1)丁寧な入試
・「夏休みを利用して入試を行えば、丁寧な入試を行うことができ、中・高校の第3学年の授業を確保しやすくなるとともに、上級学校に進学する場合、合格発表後に長期の休みがあり、ゆとりをもって上級学校進学の準備がしやすくなる。」(94)
(2)冬期の弊害の解消
・「冬期の入試に伴う天候上・健康上の問題(たとえば雪や風、インフルエンザの流行など)を解消できる。」(94)

2 秋季入学の問題点
(1)緊張感の希薄化
・「合格後に長い休みがあると、緊張感が薄れるため、高校、大学等に入学した後の学校生活への適応に問題を抱える生徒が多くなる。」(94)
(2)健康上の問題
・「また、夏季の入試になるため。酷暑による健康上の問題などが出てくることが考えられる。」(94)
(3)夏休み中の他の行事との関連
・「入試を丁寧に行うためには、夏休み中に行われている各種体育、文化的行事、研修、教員の人事異動の時期との関連などについて検討する必要がある。」(94)

3 諸外国の大学入試の時期
(1)フランス
(2)西ドイツ
(3)イギリス

4 夏休みにおける入試の可能性
・「秋季入学については、入試との関係において上述のような利点と問題点がある。しかし、夏休みに入試を行うことについては、フランス、西ドイツ、イギリスなどの諸国でも行われておらず、わが国でも、夏休みに入試を行うことについて大学や高校の同意が得られるかどうかは、疑問である。」(96)


第7章 会計年度と学年度
1 学年度と会計年度が異なる場合の利点
(1)予算成立の遅れへの対応
(2)日本人学校への教員派遣

2 学年度と会計年度が異なる場合の問題点
(1)教育・研究の不安定化
・「学年度が二会計年度にまたがるため、学年を通じての教育・研究の実施に安定性を欠く。」(97)
(2)児童・生徒の転校
・「児童・生徒の転校は、親の転任に伴って会計年度の境目で行われる場合が多いとすれば、学年途中の転入となる。その場合、履修状況(科目、進度、単位習得等)の違いが問題となる。」(97)
(3)会計処理上の対応
・「秋季入学になれば、会計年度と学年度の間にずれがあるため、現行の年間日程に沿って、学年度で学校施設整備事業を行おうとすると、9月以降(9月入学とすれば)の見込み学級数に基づいて事業を行うことになり、実際の標準学級数と異なる可能性が大きい。また9月以降の学級数を持って着工すると、学年度での整備が困難であるので、債務負担行為等、会計処理上の対応を要する。」(98)

3 諸外国の状況

4 慎重な対策の必要性
・「秋季入学に移行する場合、会計年度と学年度が異なることによって生じると予想されるいくつかの問題については、一般会計年度と別に「学校会計年度」を設けるなど、対策を慎重に検討しなければならない。しかし、諸外国の状況からみると、そうした問題は必ずしも重大かつ致命的な支障になるとは思われない。」(99)


第8章 国際交流上の利点と問題点
1 秋季入学の利点
(1)外国人留学生受け入れ
・「世界201カ国のうち99カ国(49.3%)が9月学年始期となっており、8・9・10月始期国が135カ国(67.2%)となっている。また、昭和60年5月現在わが国に在留する外国人留学生の出身国の学年始期についてみると、表9のとおり、9月始期国からの留学生が全体の23.5%を占め、8・9・10月始期国からの留学生は、全体の54.8%を占めている。その点では、秋季入学によって、外国人留学生の受け入れが円滑になるという利点がある。」(101)
(2)日本人留学生の派遣
・「日本人留学生は、表10のとおり、その89.9%が、8・9・10月学年始期国へ留学しており、秋季入学への移行は、派遣の円滑化に大きく貢献すると思われる。」(102)
(3)高校生交流
(4)海外子女教育
(5)帰国子女の受け入れ

2 秋季入学の問題点
(1)学生交流
・「留学のための語学予備教育を行うためには、学年式が半年程度ズレている方がよいとする意見がある。」(106)
(2)高校生の海外派遣、海外子女、帰国子女
・「海外派遣高校生、海外子女、帰国子女ともに全体に占める割合がきわめて小さく、そのために入学時期を変える必要はないという意見もある。」(107)

3 弾力的な受け入れ
・「秋季入学には国際交流上きわめて大きなメリットがある。しかし、現行の制度でも、留学生や帰国子女などを弾力的に受け入れることが可能であり、秋季入学に変更する必要がないという考え方もある。また、大学での帰国子女の受け入れについても、9月あるいは10月入学の道が開かれており(昭和51年・学校教育法施行規則改正)、昭和58年現在、8大学で実施されている。


第9章 学生の就職、教員の人事異動・研修
1 学生の就職
・「民間企業人の意見によれば、学校が秋季入学になれば企業もそれに合わせて学生を採用することになり、特に問題はないと考えられる。」(108)
2 教員の人事異動
・「秋季入学になると人事異動が8月に行われるか、9月に行われるかはまだ明らかではないが、8月に人事異動を行うとすれば、夏休みを利用して新しい学校での新学年への準備あるいは研修のための時間を確保することが容易になる、という意見もある。」(108)
3 夏休み中の教員研修
「しかし、夏休み中に行われる教員研修の主なる狙いは、多くの場合、各教員が直接担当する学級や教科に関連する多様な実践的問題や課題の解決を図ることにある。秋季入学になると、夏休みが学年度末となり、新年度からの学校も学級も決まらない状況の中での研修となり、上記の意味での夏休み中の教員研修の意義が失われてくることも考えられる。」(108)


第10章 移行方法
「新学年度に移行する基本的な方法としては、まず、小学校から大学まですべての学校・学年を一斉に新学年制に移行させる「一斉移行」と、小学校第一学年から順次新学年制に切り替えていく「学年進行」に大別することができる。しかし、その具体的な方法を考えるためには、小学校の新入生をどのように受け入れていくのか、さらに在校生をどのように進級・卒業させていくのかという観点から詳細に検討されなければならない。このような検討を行った結果、考えられうるいくつかの移行方法としては、次のものがある。」(109)

1 学年進行による移行方式
〔1〕1.5倍入学(半年繰り下げ入学)方式
〈概要〉
移行年の9月に、4月から3月生まれの児童に加えて、旧制度による次年度入学予定者のうち4月から8月生まれの児童を一緒に入学させ、翌年の9月から当該年の9月から次年8月生まれの児童を入学させる。
〈問題点〉
①移行年の9月に約1.5倍の児童を受け入れることになり、その状態は卒業まで続き、財政負担増の問題がある。
②旧学年制と新学年制の併存に伴い、学校行事等指導に若干問題が生じる。
③新学年制への切り替えに、長時間かかる。


〔2〕1.5倍入学(半年繰り上げ入学)方式
〈概要〉
 移行年の前年の4月に、4月から3月生まれの児童に加えて、旧制度による次年度入学予定者のうち4月から8月生まれの児童を一緒に入学させ、移行年の9月に、当該年の9月から次年8月生まれの児童を入学させる。
〈問題点〉
 前述の〔1〕1.5倍入学(半年繰り下げ入学)方式と同じ問題がある。


〔3〕新入生漸次受入方式
〈概要〉
 小学校の新入生を漸次受け入れていく方式である。たとえば、移行年の9月に、4月から3月生まれの児童に加えて、旧制度による次年度入学予定者のうち5月1日までに生まれたもの(計13ヶ月分の児童)を一緒に入学させ、2年目から、入学該当児童の生まれ月を1月ずつ遅らせて実施し、小学校では6年目から通常の9月入学とする方式。
〈問題点〉
 新入生の急増から生ずる財政上の負担等の問題は前述の〔1〕あるいは〔2〕の方式に較べて若干は軽減されるが、なお相当の負担増となる。その他の問題は前述の〔1〕の方式と同様。


〔4〕半年入学待機方式
〈概要〉
新入生を半年遅らせ、9月に入学させる。
〈問題点〉
 財政負担の問題は大きくはないが、一部7歳就学になるため、イギリスの5歳就学、ソ連の7歳就学から6歳就学への切り替えなど、世界の義務教育開始年限の引き下げの傾向からみて、問題がある。その他の問題は前述の〔1〕の方式と同様。


2 一斉移行による移行方式
〔1〕教育期間短縮方式(西ドイツ・ヘッセン州など)
〈概要〉
1966年から1967年にかけて、4月始期を8月始期に移行した西ドイツ(ヘッセン州など)の方法を参考として、9月入学への移行方式を考えたものである。すなわち、移行期間中にそれぞれ9ヶ月と8ヶ月の短縮制度を設ける方法である。
〈問題点〉
短期間に新学年制に移行でき、新入生の急増による財政負担増の問題は生じない。しかし、義務教育年限や教育課程を短縮するという法令上および教育指導上の問題が生じる。また、7月、8月の夏季休業にも授業を行わないと授業日数が確保できないという問題も生じる。

〔2〕半年入学待機、卒業・修了延期方式
〈概要〉
すべての学年を一斉移行させるため、在校生の卒業・修了を現行制度の3月末に行わないで8月末まで延期させる方式である。
〈問題点〉
一部7歳児就学になるという問題や、すべての学校において5ヶ月間卒業・修了を延期することに伴う財政負担増がある。さらに、学年の延長によって、義務教育年限が9ヵ年を超過し、修了時に満16歳を超える者もいるなど、教育法制上の問題がある。


第11章 移行経費
・「児童・生徒・学生数の推移等可変的要素が極めて多く、かつ学校の運営経費等試算の難しい経費等があるため、正確な数値を示すことは極めて困難である。したがって、本資産に当たっては、秋季入学へ移行した場合、児童・生徒・学生数の増減が教員数、教室数、授業料等といった基本的要素にどの程度の増減をもたらすかを概数的に把握し、トータルとして秋季入学への移行に要する経費についておよその目処をつけることを目標として作業を行うこととした。」(116)

・「試算の方法には、大別すると二つの方式が考えられる。」(117)
①児童・生徒数の変動に伴う学級数の増を基礎として、教員人件費および施設費といった基幹的経費を積み上げて、移行経費として算出する方式
→公立の初等中等教育のように教員数や施設面積が学級数を基礎に算出されており、児童・生徒数の増減に伴うこれらの増減がほぼ正確に算出できる場合に有効な方式と考えられるため、初等中等教育における移行経費の算出はこの方式で。
②学生数の増を基礎として教員人件費、施設費を含む運営経費の総額を、原則として学生数の増分に比例させることによって移行経費を算出する方式
→高等教育のように教員数や施設面積が学部別の大枠的な入学(収容)定員を基礎に算出されており、学生数の部分的な増減にはそれらの増減が必ずしも一律に算出できない場合に有効な方式。したがって、高等教育や公立高校の方式によることが必ずしも適当でない私立高校における移行経費の算出にあたっては、この方式で。


[初等中等教育(公立関係)]
・試算の対象経費は、児童・生徒の増によりもっとも影響を受けると思われる教員の増に伴う人件費および教室の増に伴う施設整備費とし、事務職員等の人件費、学校管理費等については、対象外とする。従って、実際に秋季入学へ移行させた場合には、本試算額以上の経費がかかることになる。
・45人学級編制
・教室の増の算出に当たっては、予想される学級増の1/2についてのみ施設整備することとする。
・幼稚園、国立小・中・高校、私立小・中学校は本試算の対象外

[高等教育関係]
・試算の対象経費は、学生数の増減に伴って変化すると思われる教員人件費、施設整備費、教育研究費、教育研究用設備備品費、入学金、入学検定料、授業料、施設設備資金、実験実習料とし、事務職員等の人件費、学校管理費等については、対象外とする。従って、初等中等教育におけるのと同様秋季入学へ移行させた場合には、本試算額以上の経費がかかることになる。

〔1〕1.5倍入学(半年繰り下げ入学)方式〔2〕1.5倍入学(半年繰り上げ入学)方式
=移行年の9月に通常年の1.5倍の児童を繰り下げまたは繰り上げ入学させる。以後当該学年の学年進行。
→初等中等教育=1兆5151億円(国庫負担分6161億円)、高等教育2898億円(国庫負担分2629億円)、合計1兆8049億円(国庫負担分8790億円)
→完成まで小学校で6年間。

〔3〕新入生漸次受入方式
=移行年から5年間にわたり9月に13月分の児童を入学させ、5年後に小学校での移行を完了させる。
→初等中等教育=1兆3541億円(国庫負担分5451億円)、高等教育2898億円(国庫負担分2629億円)、合計1兆6439億円(国庫負担分8080億円)
→完成まで小学校で5年間。

〔4〕半年入学待機方式
=4月入学予定児童を半年待機させて9月に入学させる(一部分7歳児入学の恒久化)。
→初等中等教育=0円(国庫負担分667億円)、高等教育2819億円(国庫負担分2775億円)、合計3486億円(国庫負担分3442億円)


第12章 諸外国の学年始期の現状


第13章 諸外国の学年始期の設定理由
1 ヨーロッパにおける学年始期(秋季)の設定理由
(1)大学の慣習
(2)農家の収穫の手助け
(3)国内統一および国際交流上の理由

2 その他の諸国の学年式の設定理由
(1)気候
(2)旧宗主国との関係
(3)教育交流

第14章 諸外国の学年始期変更の実際
1 西ドイツにおける学年始期の変遷
2 韓国における学年始期の変遷
3 中華人民共和国における学年始期の変遷
4 スイスにおける学年始期変更の計画

 

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