信州大学教職支援センター 荒井英治郎研究室

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「9月入学」論議に関する情報提供⑤:「9月入学」に関する時事通信社の世論調査(昭和61年6月)

 

編集

以下、当時の世論を理解するための基礎情報です。

 

 教育政策研究会『臨教審総覧〈上巻〉』(第一法規出版,1987年11月20日)では、当該調査の結果に関して、①すべての学校の9月入学よりは大学だけ9月入学に賛成する者が多い、②すべての学校9月入学賛成は事務職・自由業・管理職の人、男性、40歳代、高学歴の人に多い、③大学だけの9月入学賛成についても同様な傾向がみられるが、年齢別に見ると、20歳代が最も多くなっているとの記述がなされています。 

 

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・調査対象:全国市町村の成人2000人
・回収率:1492人(74.6%)
・調査実施時期:昭和61年6月7日-10日

 

「すべての学校9月入学」
賛成:10.5%
反対:53.8%
不明:35.8%

 

「大学だけ9月入学」
賛成:16.1%
反対:44.0%
不明:39.9%

 

「9月入学」論議に関する情報提供④:「9月入学」に関する『読売新聞』の全国世論調査(昭和62年2月)

以下、当時の世論を理解するための基礎情報です。

 

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●読売新聞の全国世論調査

・調査対象:全国有権者3000人
・回収率:2201人(73%)
・調査実施時期:昭和62年2月21日、22日
・昭和62年3月9日『読売新聞』掲載

 

 

○「9月入学」への賛否
・「早く改めるべきだ」:2.2%
・「検討してもよい」;16.6.%
・「やはり4月がよい」:68.5%
・「答えない」:12.7%


○「9月入学」への関心
・「大いに関心がある」:10.6%
・「少しは関心がある」:26.8%
・「あまり関心がない」:40.7%
・「全く関心がない」:18.4%
・「答えない」:3.5%

 

○「9月入学」の利点・問題点に対する是非

・「教育の国際化に役立つ」

(「そう思う」33.4%、「そうは思わない」25.9%、「どちらともいえない」30,0%、「答えない」10.6%)

 

・「家庭教育の充実に役立つ」

(「そう思う」14.2%、「そうは思わない」49.4%、「どちらともいえない」28.1%、「答えない」8.2%)

 

・「受験競争の是正に役立つ」

(「そう思う」12.8%、「そうは思わない」44.4%、「どちらともいえない」31.7%、「答えない」11.0%)

 

・「スポーツ活動に専念できなくなる」

(「そう思う」40.3%、「そうは思わない」25.2%、「どちらともいえない」24.7%、「答えない」9.9%)

 

・「社会的な混乱が大きくなる」

(「そう思う」50.6%、「そうは思わない」20.4%、「どちらともいえない」20.0%、「答えない」9.0%)

 

・「入学は桜の咲くころがよい」

(「そう思う」66.0%、「そうは思わない」14.4%、「どちらともいえない」15.7%、「答えない」3.9%)

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「9月入学」論議に関する情報提供③:秋季入学研究会(代表:広島大学長 沖原豊)「秋季入学に関する研究調査」昭和61年12月。

「9月入学」論議に関する情報提供③:秋季入学研究会(代表:広島大学長 沖原豊)「秋季入学に関する研究調査」昭和61年12月。

 

入学時期の移行パターンとしても、
当時は、以下の6つが検討され、移行経費の算出もされていました。

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1 学年進行による移行方式
〔1〕1.5倍入学(半年繰り下げ入学)方式
〔2〕1.5倍入学(半年繰り上げ入学)方式
〔3〕新入生漸次受入方式
〔4〕半年入学待機方式
2 一斉移行による移行方式
〔1〕教育期間短縮方式(西ドイツ・ヘッセン州など)
〔2〕半年入学待機、卒業・修了延期方式
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代表者:沖原豊(広島大学長)、研究分担者14人


[目次]
第1章 入学時期の変遷状況
第2章 国民の学校暦観・季節観
第3章 児童・生徒の心身への影響
第4章 学校の年間教育計画との関係
第5章 夏休みの位置づけ
第6章 入試との関係
第7章 会計年度と学年度
第8章 国際交流上の利点と問題点
第9章 学生の就職、教員の人事異動・研修
第10章 移行方法
第11章 移行経費
第12章 諸外国の学年始期の現状
第13章 諸外国の学年始期の設定理由
第14章 諸外国の学年始期変更の実際

 


[概要]
第1章 入学時期の変遷状況
・「日本の伝統的な学校教育においては、学習者主体の思想が支配していて、学習(稽古・修業)をしたいと思う者がみずから求めて師匠の門をたたき、弟子入りをした。これにこたえて、師匠は弟子一人一人の個性と能力に応じたマン・ツー・マンの個別教授をした。この場合、学年や学期を定め、入学時期を固定する必要はなく、学習者は、入りたい時に入り、出たい時に出るという、いわば随意入学と随意退学の伝統が成立することになる。」(2)
・「明治19年の学校令のころになると、学齢期の児童を尋常小学校(4年)に就学させる義務規定が強化されるとともに、学事行事を一般行事に従属させる措置が講じられた。同年、会計年度を4月1日に改正したこともあって、地方において小学校の4月入学を奨励する傾向が現れた」(5-6)
・「その1は、9月始期の場合には、盛夏に学年末試験を行うため生徒の健康面に問題があること、その2は、会計年度に合わせることが、生徒の給与品などの取り扱いや精算に都合がよいこと、その3は、管内小学校の学年始期を4月に改めつつあり、それに合わせることが望ましいこと、その4は、明治19年の徴兵制の改正によって、それまでの壮丁者の届出期日が9月から4月に変えられたため、優秀な青年を師範学校に招致するには4月入学が有利であること、の4点である。」(6-7)
・「上記4つの理由の、その3に挙げられた小学校の学年始期の4月統一は、明治23(1890)年のいわゆる第二次小学校令で等級制に代わって学年制の規定が設けられたことから軌道に乗り出した。この小学校令は明治25(1892)年から全面的に施行され、4月始期の学年生が全国的に実施されるようになった。しかし、これが法規の上で明文化されるのは、明治33(1900)年の小学校令施行規則においてであって、そこではじめて「小学校ノ学年ハ四月一日ニ始リ翌年三月三十一日ニ終ル」と規定された。」(7)
・「日本の近代教育は、人材養成のための専門教育と人民教育のための普通教育という二元的な系譜で出発し、前者は西洋をモデルにして9月入学を、後者は日本の政治的条件から4月入学を採用していた。大正期に至って、学年始期という側面から、ようやくこの2つの制度が統一されることになる。この学年始期統一の原則は、第二次大戦後の6・3・3・4という単線型学校制度の中に生かされ、今日に至っている。」(9)


第2章 国民の学校暦観・季節観
(1)沖縄タイムスの調査(時期:昭和60年4月)
・「約8割が「いまのまま4月入学がよい」と答え、反対論が圧倒的多数を占めている。「大学だけを9月入学に」を含めても賛成は15%にすぎず、81%の人が4月入学制度の存続を支持している。」(14-15)

(2)時事通信社の調査(時期:昭和61年6月、対象:成人2000人)
・「「すべての学校の9月入学」に賛成する者は10.5%、「大学だけの9月入学」に賛成する者は16.1%に過ぎない。それに対し、反対の者はそれぞれ53.8%、44.0%となっている。なお、この調査では、不明と答えた者がかなり多い(35.8%、39.9%ー荒井追記)。」(15)

(3)秋季入学研究会の調査[秋季入学に関する調査](時期:昭和61年10月、対象全国の小学校・中学校・高等学校の校長の809名)
・「新入生を迎えるのに最もふさわしい季節は、「春が望ましい」と答えた者が約70%(425人、69.3%ー荒井追記)であり、これまた多数を占めている(「秋が望ましい」は、47人、7.7%ー荒井追記)。なお、校長のなかには、「学校への入学は桜の花が咲く4月に行うのが日本の伝統である」という考えを持っている者が多かった。」(15)
・「上述の三つの調査が示しているように、現行の「桜の花が咲く4月に入学するのが好ましい」という日本の伝統的な考えかたが国民の間に依然として根強いことを物語っている。」(16)
・「高等学校卒業後大学入学までの間に半年程度のズレが生じるとすれば、その間をいかに有効に利用するかについて慎重な検討が必要である。」(16)


第3章 児童・生徒の心身への影響
・「現在における我が国の子どもの場合には、発育の季節変動は著しく少ないと考えてよいであろう。」(18)
・「現在の子どもの生活に最も大きな影響を与える疾患はインフルエンザ様感冒であるといえる。」(29)
・「児童・生徒の精神活動、身体活動の季節差を中心として述べた。成長、疾病、死亡率等の季節変動は、最近著しく少なく、子どもの体は四季を通じて安定しているといえる。学校の欠席数も年間を通じて少なく、インフルエンザ用感冒ですら4%以下で、この時期を除けば1%前後であり、年間の変動も少ない。子どもの健康、勉強意欲等についての母親の観察結果は、非常に興味深い。春秋は勉強意欲の高い季節であり、夏は勉強意欲は低いが身体活動力の高い季節である。夏期における、このような子どもの状態特性を十分考慮した教育計画が期待される。」(43)


第4章 学校の年間教育計画との関係

2 秋季入学に伴う年間教育計画への影響

(1)学習指導への影響
①飼育栽培
・「学校では、教材の配列や題材が季節の変化に応じて取り上げられている。」(74)
・「このように秋季入学になれば、そうした教材や学習指導の変更を余儀なくされたり、実施が不可能になったりすることがある。」(74)
②勤労体験学習
・「また、勤労体験学習においては、一般に田植、除草、収穫といった稲作についての体験学習が展開されているが、秋季入学になると、2学年にまたがって一連の体験学習を行うことになるであろう。全体行事として行う場合には、収穫の時には卒業してしまう者がでてくる。その意味で稲作等についての勤労体験学習には困難が伴うと考えられる。」(75)

(2)学校行事への影響
①学期と学校行事
・「秋季入学になると、新2学期(1月〜3月)が年明けの寒い時期になり、屋外で催される全校的行事の実施は困難になる。このぶん、現2学期で行われている行事の大半が新1学期(9月〜12月)と新3学期(4月〜8月)に分散して行われることになろう。」(76)
②秋季入学研究会の調査
・「体育的行事、学芸的行事、旅行・遠足的行事、勤労生産的行事、その他の行事の5つについては、小学校、中学校、高等学校とも、秋季入学になれば「支障がでてくる」と答えた校長は半数以下である。」(78)
・「しかし、体育的行事については他の行事に比べて「支障が出てくる」と答えている校長が多かった。」(78)
③中体連、高校総体等の競技大会
・「秋季入学になると、これらの大会は新3学期(4月〜8月)に集中することになるが、進学や就職を目前に控えた3年生は、これらの大会に参加したり、出場できたりできるかどうか、微妙である。」(79)
・「このことは、全国的な文化的活動についてもほぼ同様である。」(79)
・「以上のように、秋季入学に移行する場合に想定される年間教育計画への影響については、基本的には大きな支障はないと考えられる。しかし、飼育栽培、勤労体験学習などの学習指導あるいは体育的行事などについてはかなりの支障が出るものと思われる。」(79)


第5章 夏休みの位置づけ
・「秋季入学になると、夏休みの期間は学校から子どもを解放し、親の責任の下で家庭教育を行うことができ、また社会教育施設を有効利用することにより、過度の学校教育依存から脱却し、本来の教育の姿を実現する機会が増大する、という意見もある。この意見については生涯教育の観点から傾聴すべき点が少なくない。」(84)
・「秋季入学になれば、・・・児童・生徒に対する家庭や社会の受け皿が果たして十分であるか、ということが問題となってくる。」(90)
・「家庭にそれほどの期待ができないとすれば、現在よりも塾や予備校への依存が高まる可能性がある」(90)
・「校長の多くは、夏休み期間中に塾に通う児童・生徒が増えると予想している。」(91)
・「現在、家庭の教育力が低下し、社会教育の受け皿も不十分な状態では、児童・生徒の非行が増大するのではないか、という意見もある。」(91)
・この点について秋季入学研究会の調査(表7)によると、「非行が増大すると思う」校長は、小学校で69.1%、中学校で75.7%、高等学校で61.7%であり、多くの校長は非常の増加を心配している。」(91)
・「わが国では家庭の教育力が低下しており、社会教育も学校に変わる受け皿とはなり得ない状態であり、夏休み中の学校の指導がなくなるとすれば、塾や予備校に通う者が増加し、非行も増大すると予想する者が多い。」(92)
・「なお、夏休みには子どもを学校から解放し、親の責任の下に指導すべきであるという考え方については、夏休み自体のあり方の問題であって、現行制度でもそうした考え方の実現は可能である。「したがって、こうした考え方が秋季入学を導入する根拠とは必ずしもならないと思われる。」(92)


第6章 入試との関係
1 秋季入学の利点
(1)丁寧な入試
・「夏休みを利用して入試を行えば、丁寧な入試を行うことができ、中・高校の第3学年の授業を確保しやすくなるとともに、上級学校に進学する場合、合格発表後に長期の休みがあり、ゆとりをもって上級学校進学の準備がしやすくなる。」(94)
(2)冬期の弊害の解消
・「冬期の入試に伴う天候上・健康上の問題(たとえば雪や風、インフルエンザの流行など)を解消できる。」(94)

2 秋季入学の問題点
(1)緊張感の希薄化
・「合格後に長い休みがあると、緊張感が薄れるため、高校、大学等に入学した後の学校生活への適応に問題を抱える生徒が多くなる。」(94)
(2)健康上の問題
・「また、夏季の入試になるため。酷暑による健康上の問題などが出てくることが考えられる。」(94)
(3)夏休み中の他の行事との関連
・「入試を丁寧に行うためには、夏休み中に行われている各種体育、文化的行事、研修、教員の人事異動の時期との関連などについて検討する必要がある。」(94)

3 諸外国の大学入試の時期
(1)フランス
(2)西ドイツ
(3)イギリス

4 夏休みにおける入試の可能性
・「秋季入学については、入試との関係において上述のような利点と問題点がある。しかし、夏休みに入試を行うことについては、フランス、西ドイツ、イギリスなどの諸国でも行われておらず、わが国でも、夏休みに入試を行うことについて大学や高校の同意が得られるかどうかは、疑問である。」(96)


第7章 会計年度と学年度
1 学年度と会計年度が異なる場合の利点
(1)予算成立の遅れへの対応
(2)日本人学校への教員派遣

2 学年度と会計年度が異なる場合の問題点
(1)教育・研究の不安定化
・「学年度が二会計年度にまたがるため、学年を通じての教育・研究の実施に安定性を欠く。」(97)
(2)児童・生徒の転校
・「児童・生徒の転校は、親の転任に伴って会計年度の境目で行われる場合が多いとすれば、学年途中の転入となる。その場合、履修状況(科目、進度、単位習得等)の違いが問題となる。」(97)
(3)会計処理上の対応
・「秋季入学になれば、会計年度と学年度の間にずれがあるため、現行の年間日程に沿って、学年度で学校施設整備事業を行おうとすると、9月以降(9月入学とすれば)の見込み学級数に基づいて事業を行うことになり、実際の標準学級数と異なる可能性が大きい。また9月以降の学級数を持って着工すると、学年度での整備が困難であるので、債務負担行為等、会計処理上の対応を要する。」(98)

3 諸外国の状況

4 慎重な対策の必要性
・「秋季入学に移行する場合、会計年度と学年度が異なることによって生じると予想されるいくつかの問題については、一般会計年度と別に「学校会計年度」を設けるなど、対策を慎重に検討しなければならない。しかし、諸外国の状況からみると、そうした問題は必ずしも重大かつ致命的な支障になるとは思われない。」(99)


第8章 国際交流上の利点と問題点
1 秋季入学の利点
(1)外国人留学生受け入れ
・「世界201カ国のうち99カ国(49.3%)が9月学年始期となっており、8・9・10月始期国が135カ国(67.2%)となっている。また、昭和60年5月現在わが国に在留する外国人留学生の出身国の学年始期についてみると、表9のとおり、9月始期国からの留学生が全体の23.5%を占め、8・9・10月始期国からの留学生は、全体の54.8%を占めている。その点では、秋季入学によって、外国人留学生の受け入れが円滑になるという利点がある。」(101)
(2)日本人留学生の派遣
・「日本人留学生は、表10のとおり、その89.9%が、8・9・10月学年始期国へ留学しており、秋季入学への移行は、派遣の円滑化に大きく貢献すると思われる。」(102)
(3)高校生交流
(4)海外子女教育
(5)帰国子女の受け入れ

2 秋季入学の問題点
(1)学生交流
・「留学のための語学予備教育を行うためには、学年式が半年程度ズレている方がよいとする意見がある。」(106)
(2)高校生の海外派遣、海外子女、帰国子女
・「海外派遣高校生、海外子女、帰国子女ともに全体に占める割合がきわめて小さく、そのために入学時期を変える必要はないという意見もある。」(107)

3 弾力的な受け入れ
・「秋季入学には国際交流上きわめて大きなメリットがある。しかし、現行の制度でも、留学生や帰国子女などを弾力的に受け入れることが可能であり、秋季入学に変更する必要がないという考え方もある。また、大学での帰国子女の受け入れについても、9月あるいは10月入学の道が開かれており(昭和51年・学校教育法施行規則改正)、昭和58年現在、8大学で実施されている。


第9章 学生の就職、教員の人事異動・研修
1 学生の就職
・「民間企業人の意見によれば、学校が秋季入学になれば企業もそれに合わせて学生を採用することになり、特に問題はないと考えられる。」(108)
2 教員の人事異動
・「秋季入学になると人事異動が8月に行われるか、9月に行われるかはまだ明らかではないが、8月に人事異動を行うとすれば、夏休みを利用して新しい学校での新学年への準備あるいは研修のための時間を確保することが容易になる、という意見もある。」(108)
3 夏休み中の教員研修
「しかし、夏休み中に行われる教員研修の主なる狙いは、多くの場合、各教員が直接担当する学級や教科に関連する多様な実践的問題や課題の解決を図ることにある。秋季入学になると、夏休みが学年度末となり、新年度からの学校も学級も決まらない状況の中での研修となり、上記の意味での夏休み中の教員研修の意義が失われてくることも考えられる。」(108)


第10章 移行方法
「新学年度に移行する基本的な方法としては、まず、小学校から大学まですべての学校・学年を一斉に新学年制に移行させる「一斉移行」と、小学校第一学年から順次新学年制に切り替えていく「学年進行」に大別することができる。しかし、その具体的な方法を考えるためには、小学校の新入生をどのように受け入れていくのか、さらに在校生をどのように進級・卒業させていくのかという観点から詳細に検討されなければならない。このような検討を行った結果、考えられうるいくつかの移行方法としては、次のものがある。」(109)

1 学年進行による移行方式
〔1〕1.5倍入学(半年繰り下げ入学)方式
〈概要〉
移行年の9月に、4月から3月生まれの児童に加えて、旧制度による次年度入学予定者のうち4月から8月生まれの児童を一緒に入学させ、翌年の9月から当該年の9月から次年8月生まれの児童を入学させる。
〈問題点〉
①移行年の9月に約1.5倍の児童を受け入れることになり、その状態は卒業まで続き、財政負担増の問題がある。
②旧学年制と新学年制の併存に伴い、学校行事等指導に若干問題が生じる。
③新学年制への切り替えに、長時間かかる。


〔2〕1.5倍入学(半年繰り上げ入学)方式
〈概要〉
 移行年の前年の4月に、4月から3月生まれの児童に加えて、旧制度による次年度入学予定者のうち4月から8月生まれの児童を一緒に入学させ、移行年の9月に、当該年の9月から次年8月生まれの児童を入学させる。
〈問題点〉
 前述の〔1〕1.5倍入学(半年繰り下げ入学)方式と同じ問題がある。


〔3〕新入生漸次受入方式
〈概要〉
 小学校の新入生を漸次受け入れていく方式である。たとえば、移行年の9月に、4月から3月生まれの児童に加えて、旧制度による次年度入学予定者のうち5月1日までに生まれたもの(計13ヶ月分の児童)を一緒に入学させ、2年目から、入学該当児童の生まれ月を1月ずつ遅らせて実施し、小学校では6年目から通常の9月入学とする方式。
〈問題点〉
 新入生の急増から生ずる財政上の負担等の問題は前述の〔1〕あるいは〔2〕の方式に較べて若干は軽減されるが、なお相当の負担増となる。その他の問題は前述の〔1〕の方式と同様。


〔4〕半年入学待機方式
〈概要〉
新入生を半年遅らせ、9月に入学させる。
〈問題点〉
 財政負担の問題は大きくはないが、一部7歳就学になるため、イギリスの5歳就学、ソ連の7歳就学から6歳就学への切り替えなど、世界の義務教育開始年限の引き下げの傾向からみて、問題がある。その他の問題は前述の〔1〕の方式と同様。


2 一斉移行による移行方式
〔1〕教育期間短縮方式(西ドイツ・ヘッセン州など)
〈概要〉
1966年から1967年にかけて、4月始期を8月始期に移行した西ドイツ(ヘッセン州など)の方法を参考として、9月入学への移行方式を考えたものである。すなわち、移行期間中にそれぞれ9ヶ月と8ヶ月の短縮制度を設ける方法である。
〈問題点〉
短期間に新学年制に移行でき、新入生の急増による財政負担増の問題は生じない。しかし、義務教育年限や教育課程を短縮するという法令上および教育指導上の問題が生じる。また、7月、8月の夏季休業にも授業を行わないと授業日数が確保できないという問題も生じる。

〔2〕半年入学待機、卒業・修了延期方式
〈概要〉
すべての学年を一斉移行させるため、在校生の卒業・修了を現行制度の3月末に行わないで8月末まで延期させる方式である。
〈問題点〉
一部7歳児就学になるという問題や、すべての学校において5ヶ月間卒業・修了を延期することに伴う財政負担増がある。さらに、学年の延長によって、義務教育年限が9ヵ年を超過し、修了時に満16歳を超える者もいるなど、教育法制上の問題がある。


第11章 移行経費
・「児童・生徒・学生数の推移等可変的要素が極めて多く、かつ学校の運営経費等試算の難しい経費等があるため、正確な数値を示すことは極めて困難である。したがって、本資産に当たっては、秋季入学へ移行した場合、児童・生徒・学生数の増減が教員数、教室数、授業料等といった基本的要素にどの程度の増減をもたらすかを概数的に把握し、トータルとして秋季入学への移行に要する経費についておよその目処をつけることを目標として作業を行うこととした。」(116)

・「試算の方法には、大別すると二つの方式が考えられる。」(117)
①児童・生徒数の変動に伴う学級数の増を基礎として、教員人件費および施設費といった基幹的経費を積み上げて、移行経費として算出する方式
→公立の初等中等教育のように教員数や施設面積が学級数を基礎に算出されており、児童・生徒数の増減に伴うこれらの増減がほぼ正確に算出できる場合に有効な方式と考えられるため、初等中等教育における移行経費の算出はこの方式で。
②学生数の増を基礎として教員人件費、施設費を含む運営経費の総額を、原則として学生数の増分に比例させることによって移行経費を算出する方式
→高等教育のように教員数や施設面積が学部別の大枠的な入学(収容)定員を基礎に算出されており、学生数の部分的な増減にはそれらの増減が必ずしも一律に算出できない場合に有効な方式。したがって、高等教育や公立高校の方式によることが必ずしも適当でない私立高校における移行経費の算出にあたっては、この方式で。


[初等中等教育(公立関係)]
・試算の対象経費は、児童・生徒の増によりもっとも影響を受けると思われる教員の増に伴う人件費および教室の増に伴う施設整備費とし、事務職員等の人件費、学校管理費等については、対象外とする。従って、実際に秋季入学へ移行させた場合には、本試算額以上の経費がかかることになる。
・45人学級編制
・教室の増の算出に当たっては、予想される学級増の1/2についてのみ施設整備することとする。
・幼稚園、国立小・中・高校、私立小・中学校は本試算の対象外

[高等教育関係]
・試算の対象経費は、学生数の増減に伴って変化すると思われる教員人件費、施設整備費、教育研究費、教育研究用設備備品費、入学金、入学検定料、授業料、施設設備資金、実験実習料とし、事務職員等の人件費、学校管理費等については、対象外とする。従って、初等中等教育におけるのと同様秋季入学へ移行させた場合には、本試算額以上の経費がかかることになる。

〔1〕1.5倍入学(半年繰り下げ入学)方式〔2〕1.5倍入学(半年繰り上げ入学)方式
=移行年の9月に通常年の1.5倍の児童を繰り下げまたは繰り上げ入学させる。以後当該学年の学年進行。
→初等中等教育=1兆5151億円(国庫負担分6161億円)、高等教育2898億円(国庫負担分2629億円)、合計1兆8049億円(国庫負担分8790億円)
→完成まで小学校で6年間。

〔3〕新入生漸次受入方式
=移行年から5年間にわたり9月に13月分の児童を入学させ、5年後に小学校での移行を完了させる。
→初等中等教育=1兆3541億円(国庫負担分5451億円)、高等教育2898億円(国庫負担分2629億円)、合計1兆6439億円(国庫負担分8080億円)
→完成まで小学校で5年間。

〔4〕半年入学待機方式
=4月入学予定児童を半年待機させて9月に入学させる(一部分7歳児入学の恒久化)。
→初等中等教育=0円(国庫負担分667億円)、高等教育2819億円(国庫負担分2775億円)、合計3486億円(国庫負担分3442億円)


第12章 諸外国の学年始期の現状


第13章 諸外国の学年始期の設定理由
1 ヨーロッパにおける学年始期(秋季)の設定理由
(1)大学の慣習
(2)農家の収穫の手助け
(3)国内統一および国際交流上の理由

2 その他の諸国の学年式の設定理由
(1)気候
(2)旧宗主国との関係
(3)教育交流

第14章 諸外国の学年始期変更の実際
1 西ドイツにおける学年始期の変遷
2 韓国における学年始期の変遷
3 中華人民共和国における学年始期の変遷
4 スイスにおける学年始期変更の計画

 

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「9月入学」論議に関する情報提供②:臨時教育審議会「第四次答申」1987(昭和62)年8月7日

臨時教育審議会の「第四次答申」(1987年8月7日)の「入学時期」に関する記述

 

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臨時教育審議会 第四次答申

 

第4章 文教行政、入学時期に関する提言

第2節 入学時期

1 秋季入学制への移行
 現行の4月入学制は、長年にわたり、国民の間に定着してきた制度であるが、秋季入学制は、今後の我が国の教育にとって、以下のとおり、大きな意義が認められる。
 このため、今後の社会全体の変化を踏まえ、国民世論の動向に配慮しつつ、将来、我が国の学校教育を秋季入学制に移行すべく、関連する諸条件の整備に努めるべきである。

①より合理的な学年暦への移行と学校運営上の利点の視点
 秋季入学制として、一年を通じて最も暑い夏休みの時期を学年の終わりとすることは、学年の途中に夏休みが置かれている現行の4月入学制と比較して、学校教育のサイクルの観点からみて、より合理的である。
 学校運営上の観点からも、長期の夏休み期間を活用して人事異動、新年度の年間教育計画の作成等が行われることとなり、校長、教員が十分時間をかけて新年度の準備を行うことができる。

②国際的に開かれた教育システムの視点
 世界の学年の始期の現状を見れば、大勢は、学年を秋季に開始しており、また学年と学年の間に夏休みを置いている。我が国の国際的地位や責任が高まり、いまだかつて経験したことのない国際社会における相互依存関係の深まりのなかで、教育の面でも、制度や考え方で国際的に共通にできるものは、できるだけ国際社会に合わせていくことが重要である。
 世界の大勢に日本の学年の始期を合わせることにより、諸外国との教員・学生の交流の拡大や帰国子女の受入れの円滑化が図られるなど、教育面での国際化が促進される。

生涯学習体系への移行の視点
 秋季入学制に移行し、夏休みが学年と学年の間に置かれることとなれば、その意義と役割が改めて見直されることとなり、学校とは別に、家庭や地域社会における様々な人間的交流や自然との触れ合いが深まるなど、夏休み期間の活用の仕方が工夫されていくものと期待される。
 このことは、本審議会が提言しているように、今日肥大化している学校教育の役割を見直し、家庭や地域の教育力を高めつつ、生涯学習体系への移行を進めるという視点からみても大きな意義がある。

 なお、4月入学制は、国民の社会生活上の習慣としても定着しており、秋季入学制に移行する場合は、教育界をはじめ広く国民が、我が国の教育全般の在り方について、改めて身近なところから現状を見直し、積極的に考えることが必要となるが、このことは、ひとりひとりが自分自身の問題として教育改革に取り組むことにつながるものと期待される。


2 国民的合意の形成と条件整備
(1)秋季入学制への移行は、国民生活全般へ及ぼす影響が大きいので、その成否は、この問題に関する国民ひとりひとりの理解と協力が得られるかどうかにかかわっており、最終的には、国民の選択と合意に委ねる必要があるが、現時点では必ずしも秋季入学の意義と必要性が国民一般に受け入れられているとはいえない。このため、移行に当たっては、適当な準備期間を置き、この間、世論の動向を把握しながら国民の理解と協力を得るための活動を積極的に展開するとともに、各行政機関、学校における検討と諸準備を推進し、適宜その状況を明らかにする必要がある。
(2)家庭、学校、地域がそれぞれの役割を踏まえつつ連携し、三者一体となって子どもを育てるための環境をつくることは、今後の生涯学習体系への移行における大きな課題であり、家庭の教育力の向上を図るとともに、社会教育等の充実を推進する方策を強力に展開することが、秋季入学制への円滑な移行にとって、とくに重要となることに留意する必要がある。
 また、将来の社会における労働時間の短縮と余暇時間の増大、とりわけ夏季長期休暇の普及の状況や学校に過度に依存する意識の変化など、秋季入学制を円滑に実施するための社会状況の変化も見極める必要がある。


3 移行の方式等の検討
 移行に当たっては、国民や学校等の教育関係機関にとって移行に伴う教育上、財政上の負担が過度にならないよう、今後移行方式等について十分検討することが必要である。

(1)秋季入学制への移行の方式については、例えば、一つの方法として、
a.移行期間中の新旧両学年の混在を避けるため、移行は全学年一斉に2年間に分けて行い、初年度は経過措置として6月入学とし、次年度から9月入学とする、
b.移行期間中の終業と入学・始業のずれは待機期間とするが、この期間は官民の協力により児童・生徒等のための各種教育プログラムを用意する、
という方式が考えられるが、できる限り各種の負担を生じさせないよう、他の移行方式も含め、幅広く適切な方式を検討する必要がある。
(2)上記のように全学年一斉に2年間に分けて移行する方式の場合は、通常時に比べて児童・生徒の増加分に対応した教職員等の増が必要となるが、今後児童・生徒数が減少することを考慮し、また、第二次答申で提言した教職員定数の改善などの施策との関連に留意しつつ、適切な移行の時期を検討する必要がある。
(3)秋季入学制への移行に伴う経費の問題については、できる限り負担の軽減を図るため具体的な移行の方式・時期等に関し、種々の工夫を行うとともに、国・地方の財政状況、家計の教育費負担の状況等を勘案し、また私学経営に与える影響に十分配慮しながら、適切な在り方を検討する必要がある。
(4)大学においては、学期ごとに授業を集中し完結させる2学期制を積極的に推進し、春でも秋でも入学できる道を拡大するとともに、高等学校でも外国との交流、帰国子女の受入れを円滑にする視点から、秋季入学の制度を許容するなどの方策を進め、その成果を見守りながら全般的な秋季入学制への移行の条件を整えていくことも十分検討する必要がある。このためには、企業等の採用に当たっても弾力的な対応を行うことが求められる。
 なお、大学について秋季入学を先行させるということも考えられるが、高等学校卒業時から大学入学時までに相当の空白期間が生じることや、大学卒業までの期間が制度的に延長されることなど問題があるので、慎重な検討が必要である。

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「9月入学」論議に関する情報提供①:臨時教育審議会「第三次答申」1987(昭和62)年4月1日

臨時教育審議会の「第三次答申」(1987年4月1日)の「入学時期」に関する記述

 

 

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臨時教育審議会 第三次答申

第5章 時代の変化に対応するための改革

第3節 入学時期
「秋季入学の問題については、本審議会発足以来、検討すべき課題として、その意義や必要性、指摘されている問題点、考えられる対応策等の諸点について慎重な審議を行ってきた。これまでの審議は、いまだすべての問題点を検討し尽くしたものとは考えていないが、現時点における本審議会としての一応の考え方を次のとおり取りまとめた。

 
 現行の4月入学制度は、明治以来長年にわたり、国民の間に定着してきた制度であるが、今後21世紀に向けて社会全体の変化を踏まえ、生涯学習体系への移行、国際化の進展、より合理的な学年暦への移行と学校運営上の利点等を勘案すれば、将来、学校教育が秋季入学制に移行することには、大きな意義が認められる。
 秋季入学については、他方において、夏休み中の子どもの教育指導の問題をはじめとして種々の問題点が指摘されているが、いずれも決定的な支障となるものではなく、移行に伴う教育上、財政上の負担が過大にならないよう、移行の方式について十分配慮するならば、秋季入学への移行は実現可能であると判断される。
 しかし、秋季入学への移行は、国家・社会全体に及ぼす影響が極めて大きく、最終的には、国民の理解と教育が得られなければ成功しない。本審議会は、各種の世論調査等でも現行の4月入学制を好む意見が強く、秋季入学の意義と必要性がまだ国民によく受け入れられていないことを十分認識しており、また今後検討すべき諸問題も残されている。
 本審議会としては、さらに審議を継続する。」

 


①秋季入学の意義と必要性

(ア)生涯学習体系への移行の視点
 本審議会は、第二次答申において、生涯学習体系への移行を主軸として、学校偏重の考え方を改め、21世紀のための教育体系の総合的な再編成を提案したが、このことは、今日肥大化した学校教育の役割を見直し、生涯学習の原点である家庭や地域社会の教育力の回復と活性化を図るとともに、生涯学習を可能にし、促進し得るような社会の制度と慣行を生みだす学習社会の建設を目指すものである。
 この場合、我が国学校教育における夏休みの位置づけをどうするかは、21世紀の教育に向けて、とりわけ義務教育においては非常に重要な事柄である。長い夏休み期間に、学校から解放されて地域社会において多くの人と接したり、自然と触れ合うなど様々な経験をすることは、子どもにとって大きな意味をもつ。とくに、現在の学校には、夏休みの過ごし方を含めて子どもの生活の全面にわたり、面倒をみなければならないというような意識があるが、家庭の教育力を高め子どもの自立心を育むためにも、夏休み期間には、子どもを学校から完全に解放することが必要である。学校も児童・生徒・学生のためだけということではなく、とくに夏休みなどはサマースクールとして社会に開放するというように考え方を変えていく必要がある。
 このため、秋季入学を重要な契機として、現在のような夏休みの位置づけを自明の理と考えることに慣れすぎている意識を変えていく必要がある。

 

(イ)国際化の視点
 国際化については、ただ単に外国のまねをするのではなく、日本古来の伝統で守るべきものは守るが、いろいろな制度や考え方で国際的に共通にできるものは、できるだけ国際社会のルールに合わせていこうという姿勢が必要である。これから世界とつき合っていく際に、受け身になるのではなく、我が国自らの意思として変えられるものは変えていくという積極的気構えが必要である。
 日本人は日本の同質社会の中で、閉鎖的になることが多いが、国際化ということは、異質文化との接触や摩擦を伴うものであることを十分認識し、日常の活動のなかで異質なものをなかなか受け入れたがらないという現在の弱点を積極的に克服していかなければならない。
 この点で、世界各国の学年の始期の現状を見れば、9月、10月開始の国が6割をこえており、また世界の約8割が学年と学年の間に夏季休業を置いている。この大勢に日本の学年の始期を合わせることにより、国際化を積極的に推進し、諸外国の教員や学生同士の交流、帰国子女の受け入れの円滑化を図ることには、大きな意義がある。

 

(ウ)より合理的な学年暦への移行と学校運営上の利点の視点
 秋季入学制にすれば、1年間を通じて、最も暑い時期に長い夏休みが置かれ、それが学年の終わりとなる。これは、学年の途中に長い夏休みが置かれている現行の4月入学制と比較して、子どもの学習・成長のリズムや学校教育のサイクルの観点からみて自然で、より合理的な学年暦である。
 学校運営上の観点から見ても、現在は3月末から4月始めの短期間に、教職員の人事異動があり、新年度の年間教育計画が作成されるというあわただしい状態となっているが、夏休み期間に人事異動が行われるようになれば、校長・教員も十分時間をかけて地域や学校の事情を理解した上で自らの考え方を反映しながら、新年度の準備を行うことができる。
 また、入学試験も現在よりゆとりをもって実施することが可能になり、高等学校や中学校の最終学年において、より充実した授業が行われることが期待される。
 21世紀に向かう日本は、子どもや教員ももっとゆとりのある生活が送れるような学年暦を採用すべきである。
 なお、高等教育については、第二次答申において「原則として2学期制を採用し、学期ごとに授業を集中し完結させる」ほうが、学習効果を上げる点からも望ましいことを提言したが、秋季入学制の中でこの2学期制をとれば、学生のサマースクールによる国際交流の推進を図ることも期待される。

 

(エ)教育改革へのインセンティブとしての期待
 教育改革の成否は、ひとりひとりの教師、ひとりひとりの親、学ぶ者自身を含む教育関係者と全国民の改革への意思にまつこところが大きい。秋季入学への移行は、単に学校だけでなく社会すべての方面に大きな影響を与えることとなるが、このことは、上記の生涯学習体系への移行等を含め、我が国の教育全般の在り方について、身近なところから現状を見直し、教育界をはじめ広く国民が積極的に考えることにつながることが期待される。

 

②指摘される問題点とその対応策
 秋季入学への移行の意義や必要性は、①に述べたところであるが、これについては、他方で、実施した場合の影響、方法・手順等の諸点に関し、種々の問題点が指摘されている。そこで、これらの諸点とそれについての本審議会の考え方を以下に述べる。

 

(ア)家庭、地域社会の受け皿の問題
a.実際問題として多くの婦人が社会に進出する傾向が高まるなかで、現在の週休二日制や夏季長期休暇の普及状況、社会教育の体制の整備状況等を考えた場合、家庭や地域社会が夏休み期間の子どもの受皿に十分なれるかどうかという問題がある、
b.さらに、日本の教師は、子どもたちについて学校生活に限らず広く学校外の生活指導にも関与する傾向があるが、このような教師の意識はむしろ美風であり、学校外のことについては一切関知しないというようにしてしまうことには大きな不安を感じる、
等の指摘があるが、家庭、学校、地域がそれぞれの役割を踏まえつつ連携し、三者一体となって子どもを育てるための環境をつくることは、今後の生涯学習体系への移行における大きな課題であり、現状を固定して考えるのではなく、家庭教育、社会教育等の充実を積極的に推進する方策を強力に展開するなかで、問題の解決を図ることが必要である。
 また、大人の夏季長期休暇の普及や学校に過度に依存する意識の変化など、秋季入学に適合した社会状況が形成されていくものと考えられる。

 

(イ)国際化
 諸外国の入学時期とのずれについては、
a.留学生については、秋季入学以外の国からも相当数が来ており、また、留学生の日本語教育、補習教育の便宜上むしろ半年程度のずれがあったほうがよく、留学生からも4月入学に関する不満は出ていない、
b.海外子女については、全体の中ではその数は少なく、義務教育ではいつでも相当年齢に編入できる。問題は現地の教育内容との差、言葉の点で日本の学校になじめないことであり、このことは入学時期の問題と直接には結び付かない。また、義務教育後の帰国子女については、高等学校、大学段階での秋季入学の許容、推進を図るようにすれば、目的は達せられる、
等の指摘があるが、今後の帰国子女の増加や我が国の留学生10万人の受入れなど、国際交流等の一層の進展を考える場合、我が国の基本姿勢として、入学時期を国際的に見て多い方の時期に合わせていくべきであり、また留学生の日本語教育の問題については、内外の日本語教育の一層の充実を図るなかで解決すべきものと考えられる。

 

(ウ)学校運営
a.仮に人事異動に余裕をもって実施したとしても、いずれにしても新任の校長、教員は前年の状況を知らないので年間教育計画の作成には効果的に関与しにくい、
b.現在、長い夏休み期間中を利用して行われている教員の採用試験が冬季になり、これまでに比して実施上の困難が生じる。また、現在夏休み期間中に行われている教員の各種現職研修が、人事異動や入試と重なることになり実施に支障がある、
等の指摘があるが、これらについては、秋季入学に移行しても、これに即した現職研修や学校運営等を実施することは可能であり、また人事異動には、夏休み期間中の余裕のある時期に行ったほうが準備の都合上も、授業への影響上も望ましいのは当然であると考えられる。

 

(エ)スポーツ活動との関係
a.秋季入学を実施し、夏休みを学年の外に位置付ける場合、各学校段階について夏休みが1回減ることになるが、夏休みにおけるスポーツ活動の機会の減少は大きな問題である。とくに、高等学校の場合には、長期の夏休みを活用して開催される総合体育大会等は、教育活動としての体育の成果が競われるという点で大切であるが、これを夏の時期以外に行うことは、寒冷地の気候等を考えると困難である、
b.一般的には、制度を諸外国に合わせていくことは重要であるが、高齢化社会を支え、21世紀の時代を生き抜くことができるような若者の活力を培っていくためにも、学校外の身体活動の機会が減少している時代のなかで、現在のように夏休みを活用して体力づくりをしていくことが一層大切になる、
等の指摘があるが、これらについては、これまでの学校体育中心の発想から社会体育中心の発想への移行を考えることこそ重要であり、指摘されているようなスポーツ行事遂行上の問題点も、個別に解決することは可能であると考えられる。

 

(オ)会計年度との関係
 秋季入学を実施すれば、新しい教育年度と4月から翌年3月までの現行会計年度とのずれが生じる。このことについては、財政制度上は対応が可能と考えられるが、実態面では、国、地方公共団体、学校での予算・会計関係の事務量が増大し、煩雑になることが予想される。しかし、この多くは移行期間中の問題であり、その期間が過ぎれば新しい方式に習熟していくものと考えられる。なお、現に、大多数の国では、国の会計年度と教育年度はずれているがとくに支障があるとは聞いていないことに留意すべきである。

 

(カ)就職等の問題
 秋季入学を実施すれば、全国の企業・官公庁における採用、昇進、退職等に至る人事管理全般をこれに合わせて修正する必要があり、これへの対応は困難ではないか、との指摘がある。これについては、現行でも年度途中の採用は少なくなく、秋季入学に移行するとすれば、企業、官公庁の採用システム全体に影響があるのは当然であるが、企業等を含め日本の社会全体は、十分これに対応し得る柔軟性をもっていると考えられる。


③秋季入学への移行の方式


(ア)秋季入学への移行の基本的は方式としては、小学校第一学年から順次新学年に切り替えていく「学年進行」方式と、小学校から大学まですべての学校・学年を一斉に新学年に移行させる「一斉移行」方式に大別することができる。本審議会としては、仮に秋季入学に移行する場合には、これまでの検討の結果、現時点では、次のような方式が比較的問題点が少ない方式ではないかと考えるが、なお検討の必要がある。
a.移行期間中の新旧両学年の混在を避けるため、移行は全学年一斉に2年間に分けて行うこととする。
b.最終的には、9月から翌年8月の学年制をとることとし、初年度は経過措置として6月入学とし、次年度からは9月入学とする。この場合、移行期間中の終業と入学・始業のずれは待機期間とする。

 

(イ)財政上の問題点と移行時期
 上記の方式は、移行期間初年度の小学校第一学年に14ヶ月分、次年度の第一学年に15ヶ月分の児童が入学することなどにより、通常時に比して児童の増加分に対応した教職員等の増が必要となり、これをまかなうため相当の経費の負担増が見込まれる。しかし、他方では、これについては、今後児童・生徒数が減少していくので所要教員数の大幅な減少が見込まれ、現在、この自然減等を考慮しながら、教職員の定数の改善による40人学級の実現等の施策が推進されている。その施策以外の自然減分については、教職員定数の改善等他の需要との問題もあるが、これを秋季入学への移行に使うものとして移行期間を設定するならば、移行期間中の児童・生徒数の増があっても、大局的には、現在より施設や教員の増はほとんど必要ないものと思われる。ただし、私立学校については、秋季入学に移行する際、3月、4月には入学金、授業料が入らなくなり、また待機期間中も教職員の人件費を負担しなければならず、これは経営上大きな問題となるので、その財政負担の方法等については、例えば学費徴収の前倒し等の方法が考えられるが、なお今後の検討課題である。しかし、秋季入学へ移行することは、財政負担の面から実行不可能な課題であるとは考えられない。

 

(ウ)上記のような移行のほかに、当面、まず大学において、学期ごとに授業を集中し完結させる2学期制を積極的に推進し、春でも秋でも入学ができるようにするとともに、高等学校等でも外国との高校生交流、帰国子女の受入れを円滑にする視点から秋季入学の制度を許容するなどの方策を進め、その成果を見守りながら全般的な学校体系の秋季入学への移行の条件を整えていく方式も現実的な方策として十分検討する必要がある。また、大学の秋季入学を先行させる方式もあり、これには大学入学までに空白期間が生ずるなどの問題があるが、なお今後検討する必要がある。


④国民世論への配慮と今後の進め方
 秋季入学への移行は、以上の通り実現不可能な課題ではないとしても、このことは国民生活全般へ及ぼす影響が大きいので、その成否は、結局のところこの問題に関する国民ひとりひとりの理解と協力が得られるかどうかにかかわっている。この点については、長年の慣習として我が国に4月入学が定着していることもあり、各種の世論調査や本審議会に寄せられた教育関係団体の意見等においても、春(桜の咲く頃)の入学を好む国民感情をはじめとして、現行制度を維持する方向の意見は極めて強く、必ずしも秋季入学の意義と必要性が国民一般に受け入れられているとはいえない。
 本審議会としては、最前の提言をまとめるべく、さらに審議を継続する。

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【編集】伊藤良高・大津尚志・橋本一雄・荒井英治郎編『新版 教育と法のフロンティア』晃洋書房,2020年4月。

【編集】伊藤良高・大津尚志・橋本一雄・荒井英治郎編『新版 教育と法のフロンティア』晃洋書房,2020年4月。
 
このたび、編者としてお声掛けいただいた『教育と法のフロンティア』の新版が刊行されました。
 
本書は、多様な教育分野の制度と法との関係を問うものとなっております。
(私は、第4章の「学校制度と法」を執筆させていただいております)
 
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はじめに
第1章 教育と法―憲法学の視点から―
第2章 家庭教育と法
第3章 保育・幼児教育と法
コラム1 保育・幼児教育の無償化を考える
第4章 学校制度と法
第5章 学校経営と法
コラム2 学校安全への対応を考える
コラム3 「学校と地域との連携」のめざすもの
第6章 教育課程と法
コラム4 「道徳の教科化」の意味するもの
第7章 障害児(者)教育と法
第8章 教員制度と法
コラム5 「チーム学校」の在り方を考える
第9章 社会教育・生涯学習と法
第10章 教育行財政と法
第11章 教育と社会福祉と法
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以下は、出版社のホームページです。
ご関心のある方は、ぜひ手にとっていただけたら幸いです。
 
 
 

 

【ご報告】2019年度 講演・研修実績

【ご報告】2019年度講演・研修実績
 
2019年度も、以下の通り、様々なテーマで、様々な場所で、そして、様々なスタイルでお話をさせていただきました。
 
ご依頼いただいた皆様、貴重な経験をどうもありがとうございました。
 
2020年度もどうぞよろしくお願いいたします。
 
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・「学校の働き方改革のこれまでとこれから」(2019年4月22日、長野市教育委員会
・「探究的な学び」を通じてこれからのキャリアを考える(蟻ヶ崎高等学校宿泊合宿講演)」(2019年4月23日、松本市勤労者福祉センター)
・「これからの放課後子ども教室のあり方を考える(放課後子ども教室スタッフ研修会)」(2019年5月7日、安曇野市役所)
・「なぜ、いま、スクール・コンプライアンスか(2019年度飯綱町学校職員会)」(2019年5月10日、飯綱町立飯綱中学校)
・「学校の働き方改革のこれまでとこれから(第207回北安曇教育会総集会)」(2019年5月18日、長野県大町市立西小学校)
・「ネット・スマホ・ゲームと自分にどう向き合うか(メディアリテラシー講演会)」(2019年5月24日、松本市立高綱中学校)
・「これからの学校と家庭・地域の連携のあり方を考える(南木曽町保小中高連携教育研修会)」(2019年5月28日、南木曽小学校)
・「Educational Issue & Reform in Japan(留学生向け講演)」(2019年6月4日、信州大学松本キャンパス)
・「学校危機管理入門(令和元年度危機管理講座)」(2019年6月7日、新潟県立教育センター)
・「放課後子ども総合プランの発想と社会のニーズ―何から、どう取り組むか―(館長・施設長・コーディネーター合同研修)」(2019年6月10日、長野市役所)
・「学校運営と教育法規(義務新任教頭研修Ⅱ)」(2019年6月13日、長野県総合教育センター)
・「現代日本の教育課題(富山県管理職研修)(2019年6月25日、富山県総合教育センター)
・「現代日本の教育政策の動向(富山県管理職研修)(2019年6月26日、富山県総合教育センター)
・「スクール・コンプライアンスの理解(富山県管理職研修)(2019年6月26日、富山県総合教育センター)
・「学校の働き方改革の推進(富山県管理職研修)(2019年6月26日、富山県総合教育センター)
・「ケース・メソッドの実践(富山県管理職研修)(2019年6月26日、富山県総合教育センター)
・「学校ビジョンと学校改善(富山県管理職研修)(2019年6月26日、富山県総合教育センター)
・「学校組織マネジメント研修(2019年度看護人材現任者研修)」(2019年7月26日、公益社団法人岐阜県看護協会)
・「これからの学校危機管理のあり方を考える(東筑摩郡塩尻市小中学校事務研究会 夏期研修会)」(2019年8月2日、塩尻市立西小学校)
・「2030年の長野上水内の教育を考える(長野上水内教育会教育懇談会)」(2019年8月3日、ホテルメトロポリタン長野
・「学校組織マネジメントとリーダーシップ(高校新任教頭研修Ⅱ)」(2019年8月9日、長野県総合教育センター)
・「学校の働き方改革と教育行政に求められる役割(新任教育委員研修会)」(2019年8月21日、長野県総合教育センター)
・「スクールコンプライアンス研修―虐待・いじめ・クレーム対応の基礎基本―」(2019年8月22日、上越市教育プラザ)
・「第35回大町市青少年育成市民大会 第1分科会「少子化社会を踏まえた教育環境の在り方」コメント」(2019年8月24日、サンアルプス大町)
・「メディアリテラシー入門ーネット・スマホ・ゲームのリスクとどう向き合うかー」(2019年9月7日、チャイルドラインながの)
・「第3部会:地域との連携 コメント(中部地区第47回長野県私学教育研修会」(2019年10月25日、飯田女子高等学校)
・「教職キャリアのリフレクションと展望(キャリアップ研修)」(2019年10月28日、長野市教育センター)
・「長野県の教育課題と学校マネジメント(キャリアアップ研修)」(2019年10月31日、長野市教育センター)
・「令和元年度はくばフォーラム 地域・探究を通じた「学び」から得られるものは何か」(2019年11月1日、長野県白馬高等学校)
・「カリキュラムマネジメントとどう向き合うか(佐久学校事務研究会)」(2019年11月15日、佐久市教育会館)
・「第38回学校事務研究会全国・関ブロ大会レポート作成委員会コメント」(2019年11月26日、長野県総合教育センター)
・「教育委員会制度の理念・運用と松本市教育行政に対する政策提言(令和元年度第2回松本市総合教育会議)」(2019年11月28日、松本市役所)
・「「探究的な学び」で得られるものは何か」(2019年12月5日、松本美須々ヶ丘高等学校)
・「これからの学校事務職員のあり方を考える(飯水学校事務研究会冬期研修会)」(2019年12月6日、文化交流館なちゅら)
・「これからの学校の働き方改革を考える(令和元年度第2回安曇野市校長教頭合同研修会)」(2019年12月13日、南安曇教育文化会館)
・「「課題研究」で問うもの/問われることは何か(令和元年度松本県ケ丘高等学校課題探究発表会)」(2019年12月14日、信州大学松本キャンパス)
「長野県高校生『私のプロジェクト』発表大会」の予選審査員」(2019年12月15日、長野県塩尻志学館高等学校)
・「現代日本の教育課題と教育委員会制度改革(長野市松本市教育懇談会資料)」(2019年12月20日長野市役所)
・「「探究学習」入門―始め方・進め方・つまずき方・向き合い方―」(2019年12月25日、篠ノ井高等学校)
・「現代日本の教育課題とは何か(長野県次世代教育サミットin松本2020)」(2020年1月3日、信毎メディアガーデン)
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