信州大学 教職支援センター 荒井英治郎研究室

信州大学教職支援センター 荒井英治郎研究室に関するブログです。https://araieijiro.sakura.ne.jp/もご覧下さい。

【連載「コンパス」第48回】「職員室の空気 清浄化必要ー上司との関係に悩む教職員」  

【連載「コンパス」第48回】「職員室の空気 清浄化必要ー上司との関係に悩む教職員」

 

 
「心も体も傷つけられた教職員が働く学校で、子どもたちは深呼吸などできるはずがない。」 

 


------------------------------
 2025年11月17日付の『信濃毎日新聞』の「教育面」(コンパス)に、第48回目の連載原稿を寄稿しました。

 
 今回のテーマは「空気」です。


 ハラスメントは、単なる「嫌がらせ」ではなく、人間の尊厳を脅かす行為です。特に、優越的な立場を背景に相手を傷つけるパワハラは、法令の網をすり抜けても、社会通念・倫理上許されるものではありません。「自分なら平気」「昔は問題なかった」という思考法とは一刻も早く決別し、他者の感じ方を想像し、気づいた時点で誠実に対応する姿勢が求められます。とはいえ、当の本人が「気づかない」「気づけないこと」も多いというから悩ましいです。

 


対人援助職である教職員が、子どもと向き合う以前に上司との人間関係で悩み苦しむ──。この矛盾の重さは計り知れません。

 

職員室の空気そのものを清浄化していくことは、働き方改革の前提条件です。

 

心も体も傷つけられた教職員が働く学校で、子どもたちは深呼吸などできるはずがない。

 

 関心・興味のある方がいらっしゃいましたら、ご一読いただき、ご感想・ご意見をお寄せください。

 

----------------------------
【連載「コンパス」第48回】「職員室の空気 清浄化必要ー上司との関係に悩む教職員」

休みたいのに、休めない。伝えたいのに、伝わらない。それどころか、ハラスメントを受けている。


10月28日、厚生労働省は「過労死等防止対策白書」(2025年版)を公表した。過労死等防止対策推進法に基づき、毎年国会に報告を行う同白書によれば、24年度における民間雇用労働者の精神疾患を原因とする労災等認定件数は過去最多の1055件。1983年の統計開始以降、初めて1000件を超えた。


悲しいかな、こうした数字の推移には既視感があり、思考を素通りしてしまうかもしれない。だが、ここで解像度を少し上げてみよう。教育分野の状況は、どうか。


事例分析(12年から22年度)によれば、精神疾患の要因のうち「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」は全体で23.0%。これに対し教職員は33.3%と、重点分析対象業種(自動車運転従事者、教職員、IT産業、外食産業、医療、建設業、メディア、芸術・芸能)の中で最も高かった。また「上司とのトラブルがあった」も全体14.0%に対して、教職員は19.1%で業種別トップである。


ハラスメントは、単なる「嫌がらせ」ではなく、人間の尊厳を脅かす行為である。特に、優越的な立場を背景に相手を傷つけるパワハラは、法令の網をすり抜けても、社会通念・倫理上許されるものではない。「自分なら平気」「昔は問題なかった」という思考法とは一刻も早く決別し、他者の感じ方を想像し、気づいた時点で誠実に対応する姿勢が求められる。


とはいえ、当の本人が「気づかない」「気づけないこと」も多いというから悩ましい。事実、ハラスメントの境界線は、それほど明確ではなく、霧がかかっている。だが、精神疾患による労災請求件数は、長時間労働とともに依然として高水準にある。


対人援助職である教職員が、子どもと向き合う以前に上司との人間関係で悩み苦しむ──。この矛盾の重さは計り知れない。「過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会」の実現を掲げる厚生労働省は、業種の特徴を踏まえた対応を検討する方針を示した。しかし、そもそも職員室の空気は澄んでいるだろうか。


勤務時間の可視化、学校閉庁日の設定、年次有給休暇の取得、ストレスチェックの実施、勤務間インターバル制度の導入──。長時間労働の是正は、言うまでもなく喫緊かつ重要な課題である。しかし、職員室の空気そのものを清浄化していくことは、働き方改革の前提条件にほかならない。


心も体も傷つけられた教職員が働く学校で、子どもたちは深呼吸などできるはずがない。

(あらい・えいじろう 信州大教職支援センター准教授)
----------------------------