【連載「コンパス」第45回】「教師の学ぶ権利」保障なく─「余白」から生まれる「共感」と「創造」
「余白」は、他者への「共感」と、未来の「創造」という効果をもたらし得る。このことは、子どもも大人も同じである。この「可能性」に、私たちは何をどれだけ懸けられるだろうか。
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2025年6月23日付の『信濃毎日新聞』の「教育面」(コンパス)に、第45回目の連載原稿を寄稿しました。
今回のテーマは「余白」です。
関心・興味のある方がいらっしゃいましたら、ご一読ください。
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【連載「コンパス」第45回】「教師の学ぶ権利」保障なく─「余白」から生まれる「共感」と「創造」
気持ちはあっても、実現できない──。
昭和、平成、令和。時代は移り変わっても、社会の課題は減るどころか、課題解決の難易度は増すばかりである。他方、問題の所在や構造はさほど変わらず、繰り返される論点に、既視感とじれったさを覚えることも少なくない。
筆者が座長を務める「信州学び円卓会議」は、学校教員と管理職を対象にアンケート調査を実施し、その結果を昨年10月に公表した。アンケート実施の背景には、教員のチャレンジや働き方改革の推進のためには、当事者である現場教員のリアルな声を反映した政策づくりが必要不可欠であるという考えと、学校現場の実情を県民と共有し県全体で教員を支えていく機運の醸成を図る意味合いも込められていた。なお、調査項目は経済協力開発機構(OECD)の「国際教員指導環境調査」を参考に設計しており、今後は他県との比較も可能である。
調査結果からは、多くの教員が「仕事の満足感」や「楽しさ」を感じているが、「教職」が社会的に評価されていいないと捉えており、給与・福利厚生・諸手当に満足していないことが明らかとなった。また、「事務業務の多さ」と「保護者対応」が主なストレス要因であり、必要度の高い研修もスケジュールの都合で参加できないという。管理職調査からも「教員の時間的・精神的余白や余裕の不足」が質の高い指導の妨げになっているという認識が浮き彫りとなった。
チャレンジしたい気持ちがあっても、精神的に萎縮し、尻込みしてしまう。学びたい意欲があっても、物理的なハードルを前に、自己成長の機会を逸してしまう。「誰一人取り残さない教育」が掲げられる中で、それを実現するための前提条件である「教師の学ぶ権利」を誰一人取り残さず保障しようという声は、悲しいことに聞こえてこない。では、教師の存在は、子どもの育ちと学びにとって「ノイズ」でしかないのか。そうではないだろう。真摯に子どもと向き合う教師には「手応え」を、それを支える保護者には「安心」がきちんと届けられてしかるべきである。
信州学び円卓会議は、昨年7月、「学びの『新しい当たり前』を共に創る」というメッセージを発信した。ホームページでは、その思いを伝える動画を公開している。
「余白」は、他者への「共感」と、未来の「創造」という効果をもたらし得る。このことは、子どもも大人も同じである。この「可能性」に、私たちは何をどれだけ懸けられるだろうか。
(あらい・えいじろう 信州大教職支援センター准教授)
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