信州大学 教職支援センター 荒井英治郎研究室

信州大学教職支援センター 荒井英治郎研究室に関するブログです。https://araieijiro.sakura.ne.jp/もご覧下さい。

荒井英治郎「政策トレンド⑭(連載「働き方改革を『アンラーン』する 第27回)」『内外教育』第7248号,2025年6月3日,8-9頁

荒井英治郎「政策トレンド⑭(連載「働き方改革を『アンラーン』する 第27回)」『内外教育』第7248号,2025年6月3日,8-9頁


時事通信社の『内外教育』誌上で、「働き方改革を『アンラーン』する」と題した連載をさせていただいております。

 

https://edu-naigai.jiji.com/publication/latest


第27回のテーマは、前回に引き続いての「政策トレンド14」です。

 文部科学省は、中央教育審議会が2017年12月22日に公表した「中間まとめ」の内容を踏まえて、17年12月26日に「学校における働き方改革に関する緊急対策」(文部科学大臣決定)を発表しています。

「中間まとめ」では、16年度の教員勤務実態調査の速報値で小・中学校の教師の全職種の勤務時間が10年前と比べて増加した点を踏まえて、「勤務の長時間化の要因」を次のように指摘
していました。

----------------------------
 ①各教委や学校の業務改善による時間短縮はあるが、それ以上に授業や部活動等他の業務時間が増加し、時間短縮につながらなかったのではないか。
 ②中学校での土日の部活動時間が倍増している点は「中学校の運動部では、学期中は週当たり2日以上の休養日を設定する」(文部省調査研究会議報告書、1997年)等が浸透していなかったのではないか。
 ③文科省は学校宛て調査を精選してきたが、「調査への回答」時間よりも、「その他」(校長・教委等への報告書や学校運営や予算・費用処理に関わる書類作成等)の時間が長く、この部分の手だてが不十分だったのではないか。
 ④小学校の学校行事では地域や保護者との関係や準備に時間をかけ過ぎてしまうことで、中学校ほど重点化・精選が進められなかったのではないか。
 ⑤国や教委は学習指導、生徒指導、学校安全等の各分野の課題解決策を講じてきたが、学校の業務全体を俯瞰し優先順位を付ける視点が欠けていたのではないか。特に市町村教委での業務改善が遅れているのではないか。
 ⑥給特法の存在も相まって、各学校の管理職や市町村教委等で勤務時間を管理する意識が希薄だったのではないか。また、登下校時間を含む活動時間の設定は必ずしも教職員の勤務時間を意識したものになっていなかったのではないか。
 ⑦家庭や地域でなすべきことが学校に委ねられ、「日本型学校教育」の名の下に学校や教師が担うべき業務範囲が曖昧にされてきたのではないか。
 ⑧教材や指導案等について、教師がすべて自作してこそ一人前であるという認識により、共有化が進みにくかったのではないか。
 ⑨「子供たちのために」という強い使命感と責任感から、児童生徒に関わるあらゆる業務を自らの業務と見なすことで、業務の範囲を拡大し続ける状況に陥ったのではないか。
 ⑩学習指導要領の改訂で授業時数が増加したにもかかわらず、教師の持ち授業時数を減らす教職員定数の改善が十分ではなかったのではないか。
 ⑪スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカー等の1校当たりの勤務時間が限られており、「チームとしての学校」という理念に対して十分な機能を果たすことができていないのではないか。
----------------------------


 これらの問いは、政策動向に伴う物理的な問題から、制度の設計・運用問題、教育関係者の意識(メンタリティー)の問題、業務の推進体制の問題、国・地方・学校・家庭・地域が担うべき責任・権限問題に至るまで、「日本型学校教育」を何とか支えてきた構造的特徴の負の側面にスポットを当てたものであり、現時点でも本質的な問いと言えます。
 
「中間まとめ」では、①学校・教師が担う業務の明確化を通じた役割分担と業務の適正化②学校が作成する計画等の見直し③学校の組織運営体制の在り方④勤務時間に関する意識改革と制度的措置⑤「学校における働き方改革」の実現に向けた環境整備に関する方策─が示されました。

なお、「緊急対策」の内容は、①「業務の役割分担・適正化を着実に実行するための方策」、②「学校が作成する計画等・組織運営に関する見直し」、③「勤務時間に関する意識改革と時間外勤務の抑制のための必要な措置」から構成されており、今回はその内容を概括しました。

ご関心のある方は、ぜひご笑覧下さい。

引き続きよろしくお願いします。