信州大学 教職支援センター 荒井英治郎研究室

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【連載「コンパス」第42回】「学校管理下の事故に見えるパターン─『悲しみの集積』から学ぶ」

【連載「コンパス」第42回】「学校管理下の事故に見えるパターン─『悲しみの集積』から学ぶ」

 

過去から学べない組織は、未来を展望し得ない。「悲しみの集積」を無駄にしてはならない。


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 2025年2月8日付の『信濃毎日新聞』の「教育面」(コンパス)に、第42回目の連載原稿を寄稿しました。
 
 今回のテーマは「学校事故」です。

関心・興味のある方がいらっしゃいましたら、ご一読ください。

 

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体育、給食、遠足、休み時間、そして、登下校。学校は事故のリスクであふれている。

 

独立行政法人日本スポーツ振興センターが公表している「学校等の管理下の災害 令和6年版」には、負傷や疾病に関する基礎データの他、「死亡・障害事例」や「学校等の生活における事故防止の留意点」が掲載されている。

 

同センターは、「学校等の管理下」における児童生徒らの災害(負傷・疾病・障害・死亡)に対して、医療費、障害見舞金、死亡見舞金の支給など、災害共済給付を行う組織である。ここでの「学校等の管理下」とは、法令上、学校が編成した教育課程に基づく授業を受けている場合、学校の教育計画に基づく課外指導を受けている場合、通常の経路・方法で通学する場合などを指す。

 

同センターのデータによれば、令和5年度の負傷・疾病の発生件数は81万7170件、負傷・疾病に対する医療費給付は160万2968件、障害見舞金が308件、死亡見舞金が36件となっている。基礎データは「地味」ではあるが、私たちに未来に向けた重要なメッセージを発する。

 

例えば、第1に、小学校の全事故の約半数が「休憩時間」に最も多く発生しており、場所別では「運動場・校庭」が、体育用具・遊具別では「鉄棒」が最も多く「うんてい」「ぶらんこ」と続き、運動種目別では「跳箱」が他の種目より群を抜いて多い。そして、「13〜14時」、「10〜11時」の時間帯に事故が多く発生している。第2に、中学校の場合、「課外指導」中の事故(ほとんどが「体育的部活動」)が多く、場所別では「体育館・屋内運動場」や「運動場・校庭」で、運動種目別では「球技」中のけがが全体の7割以上を占めている。高校も中学校の状況とおよそ同じである。そして、経年的にデータを見た場合、事故が生じている場面・種類・部位はほぼ毎年同じであることもわかる。どのような場面でどのような事故が発生することが多いのか、一定のパターンや傾向が見て取れるのである。

 

もちろん災害は予測困難である。しかし、危険予測が可能なものもある。基礎データは、事故発生のメカニズムの解明に資するだけでなく、事故防止のための具体的行動につなげていくきっかけを提供してくれる。私たちは、事故の予見可能性のアンテナの感度をチューニングし、研ぎ澄ましていくことができるのである。

 

痛ましい事案が発生するたびに、子ども・保護者・地域・教育関係者の心が動揺することは決してプラスではない。悲劇を繰り返さないためにも、目を背けたい事実にきちんと向き合う。過去から学べない組織は、未来を展望し得ない。「悲しみの集積」を無駄にしてはならない。

(あらい・えいじろう 信州大教職支援センター准教授)