信州大学教職支援センター 荒井英治郎研究室

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【連載「コンパス」第38回】「生活苦 未来展望できず 「『国民生活基礎調査』から」

【連載「コンパス」第38回】「生活苦 未来展望できず 「『国民生活基礎調査』から」
 
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 2024年8月31日付の『信濃毎日新聞』の「教育面」( コンパス)に、第38回目の連載原稿を寄稿しました。

 

 今回のテーマは「データからみる生活苦」です。

 

関心・興味のある方がいらっしゃいましたら、ご一読ください。

 

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【連載「コンパス」第38回】「生活苦 未来展望できず 「『国民生活基礎調査』から」

信州大学 荒井英治郎


 「国民生活基礎調査」。厚生労働省が、保健・医療・福祉・年金・ 所得など、国民生活の基礎的事項を調査することを通じて、 厚生労働行政の企画・ 立案に必要な資料を得ることを目的として実施しているものである 。1986(昭和61)年以降、3年ごとに大規模調査を実施しているが、 去る7月5日、同省は、「2023(令和5) 年国民生活基礎調査」の結果を公表した。以下、 全国約7千世帯対象の調査結果の一部を紹介したい。


今回の調査結果のポイントは、次の2点である。


第1は「世帯の状況」に関するもの。 世帯員が1人だけの単独世帯は1849 万5千世帯(全世帯の34.0%)で、世帯数・ 割合とも過去最高であった。これに対し、 児童のいる世帯は983 万5 千世帯で、全世帯の18.1%、世帯数・ 割合とも過去最少であった。また、 当該世帯の母親の仕事状況として「仕事あり」の割合は77.8% (正規雇用32.4%、非正規雇用35.5%、その他9.9%) と、過去最大である。データは令和の世帯の輪郭を描く。


第2は「所得等の状況」に関するもので、 1世帯あたりの平均所得金額は524 万2 千円と、前回調査と比較して21万5千円低かった。また、 生活意識として「苦しい」と回答した世帯は59.6%と、 約6割に上る。この「苦しい」を年代別にみると、 高齢者世帯で59.0%、子どもがいる世帯で65.0%と、 両者ともに前年比10ポイント以上の増加である。 データはどの世代が物価高騰の影響をより受けているかを考えさせ てくれる。


日本の人口が1億人を突破した高度成長期末期の70年代、 大多数の日本人が自分は中流階級に属していると考えていた。 この「一億総中流社会」の根拠は、旧総理府等が実施した「 国民生活に関する世論調査」において、「 中流に属すと意識している人」(「中の上」「中の中」「中の下」 の合計)が全体の9割を占めたことによる。


日本人の国民所得や生活水準には大きな格差がないと自らの位置を 認識した上で、「豊かさ」を追い求め続けた日本。 あれから50年。 90年代前半のバブル経済崩壊後に顕著となった格差社会の「 猛威」は手を休めない。


安心できない、ゆっくり立ち止まれない、 落ち着いて考えられないという令和型の「三重苦」。 生活の基盤が整わないと、 未来を展望する時間の確保さえままならない。 日々の生活の息遣いと私たち国民の意識は間違いなく連動している 。
(あらい・えいじろう 信州大教職支援センター准教授)

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