【連載「コンパス」第36回】「大人の『正解』子ども困惑─経験則による『べき論』の蔓延」
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2024年6月8日付の『信濃毎日新聞』の「教育面」(コンパス)に、第36回目の連載原稿を寄稿しました。
今回のテーマは「大人の役割」です。
今回は、とある当事者から伺った話を軸に、何を思い、何を感じるか投げかけさせていただきました。
関心・興味のある方がいらっしゃいましたら、ご一読ください。
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【連載「コンパス」第36回】「大人の『正解』子ども困惑─経験則による『べき論』の蔓延」
突然だが、ここでクイズである。
「個々の単位で見れば規則に従った秩序ある変化を見せるが、総体で見れば複雑で不規則であり、結果として、無秩序で混沌とした状態のこと。これを何と言う?」
とある当事者から伺った話。不登校傾向の生徒が大人の言動に困惑しているとのこと。あなたなら、何を思い、何を感じるだろうか。
●担任の若手教員「出席数は関係ないらしいから、今は休むべきだよ」
●学年主任のベテラン教員「高校は評定より出席数を見るから、一瞬でも学校に顔を見せに来るべきだよ」
●教務主任「市の教育支援センターやフリースクールに行くのはいいけど、評定がつかない場合、受験には不利だよ」
●進路指導主任「高校進学しても毎日通学するのは大変だから、通信制を選択すべきだよ」
●学校管理職「評定をつけたら、かえって受験に不利になるから、『*(アスタリスク)』(評価不能)で受験に臨むべきだよ」
●教育委員会担当者「評定はつかなくても、受験に不利になることはありません」
●教育委員会担当者「学校外の学びであっても、頑張りや活動を評価してあげたいですね」
●居場所運営者「ありのままの自分でいることが大切だから、エネルギーがたまるまで心と体を休ませるべきだよ」
●フリースクール運営者「学校の勉強だけが、学びではないよ」
●フリースクール運営者「ここでは学校の定期テストも受けられるよ」
コロナ禍で正当性が揺らいだ「出席」の概念と、迷走する「評価」のあり方(ちなみに、「評価」と「評定」はイコールではない)。そして、自身の経験則に裏付けられた揺るぎない「正解」や「べき論」の蔓延。それに生徒は、うろたえ、たじろぎ、自身のキャリアを展望するどころか、今を生きる気力さえ根こそぎ奪われてしまうことさえある。
「私は、誰の、何を、信じればいいのか」
冒頭のクイズの答えは、元々は有限を超越した無限を意味する「カオス」である。その対義語には、ピタゴラスが「宇宙」を意味するものとして命名した「コスモス」が位置付けられる。哲学者にとって、宇宙は秩序によって調和が取られたものであった。
絡まった糸を丁寧に解き、ほつれた糸を丁寧に紡ぎ直す。こどもまんなか社会の実現に向けた大人の役割は何か。
(あらい・えいじろう 信州大教職支援センター准教授)
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