信州大学教職支援センター 荒井英治郎研究室

信州大学教職支援センター 荒井英治郎研究室に関するブログです。

【図書紹介】荒井英治郎「清水睦美・妹尾渉・日下田岳史・堀健志・松田洋介・山本宏樹『震災と学校のエスノグラフィー』」『教育学研究』第87巻第4号,2020年12月号,日本教育学会,194-195頁

【図書紹介】荒井英治郎「清水睦美・妹尾渉・日下田岳史・堀健志・松田洋介・山本宏樹『震災と学校のエスノグラフィー』」『教育学研究』第87巻第4号,2020年12月号,日本教育学会,194-195頁

 

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近代教育システムからの要請(脱文脈指向ペタゴジー)とローカルな現実からの要請(文脈指向ペタゴジー)の間に生じる葛藤を内在化し、慣性と摩擦の狭間に位置する学校。
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このたび、日本教育学会『教育学研究』に『震災と学校のエスノグラフィー』の図書紹介を執筆させていただきました。

 

震災が教育システムに問いかけているものは何か。学校教育における「心理主義化」が強まる社会状況の中で起きた東日本大震災によって、日常性を剥奪された学校・教師・生徒たちは、災害経験とどのように向き合ってきたのか。

 

『「復興」と学校―被災地のエスノグラフィー』の「続編」にあたる本書は、岩手県陸前高田市内の3つの中学校が統合し、新たな統合中学校が開校した2013年4月以降の5年間を対象としながら、教師・生徒の震災経験の意味づけや学校文化の変容を明らかにしたものです。

 

詳しくは本書をお読みいただけたらと思っておりますが、「忘却する」力学による震災経験の後景化と「学校的メリトクラシー指向」の前景化というフレーズが物語るように、子どもたちの学校生活を既存のシステム化された学校教育に押し戻そうとする近代教育システムの慣性の頑強度は目を瞠るものがあります。

 

他方で、災害に伴う脆弱性への学校の対応は、学校的メリトクラシー指向に晒される脆弱性を帯びた子どもという存在に対する応答と通底するものでした。

 

「回復」への道筋に葛藤は不可避です。他方で、葛藤を経てでしか望むべき未来も展望できません。

 

記憶の記録化から、物語の創出を経て、システムの再帰性の再検討へ。


(被災)学校の日常を問い直し、教育空間を編み直す過程の息遣いを本書から読み取っていただけたらと思っております。

 

以下は、出版社のHPです。ぜひご一読ください。

https://www.keisoshobo.co.jp/book/b498138.html