信州大学教職支援センター 荒井英治郎研究室

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「9月入学」論議に関する情報提供②:臨時教育審議会「第四次答申」1987(昭和62)年8月7日

臨時教育審議会の「第四次答申」(1987年8月7日)の「入学時期」に関する記述

 

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臨時教育審議会 第四次答申

 

第4章 文教行政、入学時期に関する提言

第2節 入学時期

1 秋季入学制への移行
 現行の4月入学制は、長年にわたり、国民の間に定着してきた制度であるが、秋季入学制は、今後の我が国の教育にとって、以下のとおり、大きな意義が認められる。
 このため、今後の社会全体の変化を踏まえ、国民世論の動向に配慮しつつ、将来、我が国の学校教育を秋季入学制に移行すべく、関連する諸条件の整備に努めるべきである。

①より合理的な学年暦への移行と学校運営上の利点の視点
 秋季入学制として、一年を通じて最も暑い夏休みの時期を学年の終わりとすることは、学年の途中に夏休みが置かれている現行の4月入学制と比較して、学校教育のサイクルの観点からみて、より合理的である。
 学校運営上の観点からも、長期の夏休み期間を活用して人事異動、新年度の年間教育計画の作成等が行われることとなり、校長、教員が十分時間をかけて新年度の準備を行うことができる。

②国際的に開かれた教育システムの視点
 世界の学年の始期の現状を見れば、大勢は、学年を秋季に開始しており、また学年と学年の間に夏休みを置いている。我が国の国際的地位や責任が高まり、いまだかつて経験したことのない国際社会における相互依存関係の深まりのなかで、教育の面でも、制度や考え方で国際的に共通にできるものは、できるだけ国際社会に合わせていくことが重要である。
 世界の大勢に日本の学年の始期を合わせることにより、諸外国との教員・学生の交流の拡大や帰国子女の受入れの円滑化が図られるなど、教育面での国際化が促進される。

生涯学習体系への移行の視点
 秋季入学制に移行し、夏休みが学年と学年の間に置かれることとなれば、その意義と役割が改めて見直されることとなり、学校とは別に、家庭や地域社会における様々な人間的交流や自然との触れ合いが深まるなど、夏休み期間の活用の仕方が工夫されていくものと期待される。
 このことは、本審議会が提言しているように、今日肥大化している学校教育の役割を見直し、家庭や地域の教育力を高めつつ、生涯学習体系への移行を進めるという視点からみても大きな意義がある。

 なお、4月入学制は、国民の社会生活上の習慣としても定着しており、秋季入学制に移行する場合は、教育界をはじめ広く国民が、我が国の教育全般の在り方について、改めて身近なところから現状を見直し、積極的に考えることが必要となるが、このことは、ひとりひとりが自分自身の問題として教育改革に取り組むことにつながるものと期待される。


2 国民的合意の形成と条件整備
(1)秋季入学制への移行は、国民生活全般へ及ぼす影響が大きいので、その成否は、この問題に関する国民ひとりひとりの理解と協力が得られるかどうかにかかわっており、最終的には、国民の選択と合意に委ねる必要があるが、現時点では必ずしも秋季入学の意義と必要性が国民一般に受け入れられているとはいえない。このため、移行に当たっては、適当な準備期間を置き、この間、世論の動向を把握しながら国民の理解と協力を得るための活動を積極的に展開するとともに、各行政機関、学校における検討と諸準備を推進し、適宜その状況を明らかにする必要がある。
(2)家庭、学校、地域がそれぞれの役割を踏まえつつ連携し、三者一体となって子どもを育てるための環境をつくることは、今後の生涯学習体系への移行における大きな課題であり、家庭の教育力の向上を図るとともに、社会教育等の充実を推進する方策を強力に展開することが、秋季入学制への円滑な移行にとって、とくに重要となることに留意する必要がある。
 また、将来の社会における労働時間の短縮と余暇時間の増大、とりわけ夏季長期休暇の普及の状況や学校に過度に依存する意識の変化など、秋季入学制を円滑に実施するための社会状況の変化も見極める必要がある。


3 移行の方式等の検討
 移行に当たっては、国民や学校等の教育関係機関にとって移行に伴う教育上、財政上の負担が過度にならないよう、今後移行方式等について十分検討することが必要である。

(1)秋季入学制への移行の方式については、例えば、一つの方法として、
a.移行期間中の新旧両学年の混在を避けるため、移行は全学年一斉に2年間に分けて行い、初年度は経過措置として6月入学とし、次年度から9月入学とする、
b.移行期間中の終業と入学・始業のずれは待機期間とするが、この期間は官民の協力により児童・生徒等のための各種教育プログラムを用意する、
という方式が考えられるが、できる限り各種の負担を生じさせないよう、他の移行方式も含め、幅広く適切な方式を検討する必要がある。
(2)上記のように全学年一斉に2年間に分けて移行する方式の場合は、通常時に比べて児童・生徒の増加分に対応した教職員等の増が必要となるが、今後児童・生徒数が減少することを考慮し、また、第二次答申で提言した教職員定数の改善などの施策との関連に留意しつつ、適切な移行の時期を検討する必要がある。
(3)秋季入学制への移行に伴う経費の問題については、できる限り負担の軽減を図るため具体的な移行の方式・時期等に関し、種々の工夫を行うとともに、国・地方の財政状況、家計の教育費負担の状況等を勘案し、また私学経営に与える影響に十分配慮しながら、適切な在り方を検討する必要がある。
(4)大学においては、学期ごとに授業を集中し完結させる2学期制を積極的に推進し、春でも秋でも入学できる道を拡大するとともに、高等学校でも外国との交流、帰国子女の受入れを円滑にする視点から、秋季入学の制度を許容するなどの方策を進め、その成果を見守りながら全般的な秋季入学制への移行の条件を整えていくことも十分検討する必要がある。このためには、企業等の採用に当たっても弾力的な対応を行うことが求められる。
 なお、大学について秋季入学を先行させるということも考えられるが、高等学校卒業時から大学入学時までに相当の空白期間が生じることや、大学卒業までの期間が制度的に延長されることなど問題があるので、慎重な検討が必要である。

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