信州大学教職支援センター 荒井英治郎研究室

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【論文】荒井英治郎・丸山和昭・田中真秀「日教組と人材確保法の成立過程」『教職研究』第9号,2016年,87-121頁。

ご報告が遅れましたが、信州大学教職支援センター編『教職研究』第9号に、以下の論文を執筆致しました。

 


荒井英治郎・丸山和昭・田中真秀「日教組と人材確保法の成立過程」『教職研究』第9号,2016,87-121頁。

 


 私は名古屋大学高等教育研究センターの丸山和昭先生と、川崎医療福祉大学医療技術学部の田中真秀先生の後方支援をさせていただいただけですが、紹介させていただきます。

 

 当該論文は、1974 年に成立した学校教育の水準の維持向上のための義務教育諸学校の教育職員の人材確保に関する特別措置法(人材確保法)の制定過程を当時の日本教職員組合の観点から分析したものです。

 人材確保法は,一般公務員に対する教員給与の優遇措置を定めるものとして,教師=専門職化の一つの達成点として考えられてきました。しかし,同法による教員給与の優遇幅は,3-4%程度に縮減されています。他方,2013年の教育再生実行本部の第2次提言では「新人材確保法」の創設が打ち出されています。人材確保法の名を冠する同提言ではありますが,その重点が管理職や一部の優秀教員の処遇改善に置かれるなど,人材を教職に惹きつける施策となるか否かについては疑問が残る内容となっていて、教師=専門職待遇の再構築は,今日,改めて議論の俎上に載せるべき課題であるといえます。

以上のような問題関心のもと,特に本研究では,従来の研究が十分に資料を検討してこなかった,人材確保法成立当時の日教組の動きに注目しました。

 

 人材確保法については,処遇改善施策としての側面と同時に,教師を一般労働者から切断するための制度的・思想的な「専門職」攻撃としての面をもつものとして,日教組関係者からは従来から批判されるものでもありましたが、これら功罪相半ばする人材確保法について,当時の日教組はどのように受け止めていたのか、また,その後の教育・労働運動への影響を,どのように見積もっていたのかという問いが、基本的なモチーフとなっています。

 


目次は、下記の通りです。

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1.本研究の問題関心と目的

2.先行研究の検討

3.本研究の着眼点と資料

4.日教組と人材確保法の成立過程

4.1 日教組と四六答申の給与改革提言(1971年6月~1972年6月30日)

(1)四六答申以前の教師=専門職待遇に対する日教組の見解

(2)四六答申の給与改革提言に対する日教組の対応

(3)四六答申の給与改革提言に対する日教組内部の議論

日教組の課題認識-五段階給与は中教審路線導入のための布石(アメとムチ)である

日教組の対抗方針-新賃金要求を取りまとめ公務員共闘の独自要求に位置づける

日教組の内部事情-教員独自の給与改善要求を積み上げる経験が共有されていなかった

4.2 日教組と人材確保法案闘争(1972年7月1日~1973年12月4日)

(1)教員給与改善予算の計上に対する日教組の対応(1972年7月1日~1972年12月末)

(2)教員給与改善予算の確保に対する日教組の対応(1973年1月~1973年12月)

(3)日教組内での議論-五段階賃金阻止・法案阻止で一致/一方で,予算の使途は動揺

①五段階賃金阻止について

②10%予算問題

4.3 日教組と人材確保法闘争の総括(1973年12月5日~1974年8月27-30日) (1)「覚書」の内容的妥当性

(2)執行部の想定の妥当性

(3)方針転換の手続的妥当性

(4)今後の運動方針のあり方

4.4 教師聖職者論と教師労働者論

 

5.考察

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今日の教師=専門職待遇の再構築と,教育・労働運動の歴史の解明を進める上で,
検討を欠かすことのできない人材確保法の制度化過程の一端を明らかにしたものとして、ぜひご一読ください。


なお、本研究は,
JSPS(基盤研究(A))「戦後日本における教育労働運動と社会・教育システムの変容との相互作用に関する研究」及び
JSPS(基盤研究(A))「戦後日本における政治・経済変動が教育労働運動に与えた影響に関する研究」の助成を受けた成果のひとつです。

 

ご関心のある方は、下記からも全文ダウンロード可能ですので、ぜひご一読ください。

https://soar-ir.repo.nii.ac.jp/index.php?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_snippet&index_id=1797&pn=1&count=20&order=7&lang=japanese&page_id=13&block_id=45