信州大学教職支援センター 荒井英治郎研究室

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【いただきもの】葉養正明「東日本大震災後の生徒の生活・学習環境の変化と教育復興政策の効果―岩手県宮古市中学生対象の第2回,第3回調査を通して―」『教育学部紀要』第50集,文教大学教育学部,2016年

文教大学の葉養先生から御送付いただきました。どうもありがとうございます。

 

 

本稿は、「2007〈平成19〉年度,2013〈平成25〉年度に実施された岩手県宮古市立中学生対象の2回の調査の対比と,第3回目(2016〈平成28〉年7~8月)の素集計の結果の報告を目的とする.それを通じ,東日本大震災からの教育復興政策の効果について解明を進める」ものです。日本だけでなくニュージランドを含む世界各国の調査を経年的に行っている葉養先生だからこそなしうる研究といえます。

 

本稿では、研究関心を以下の3点に概括して述べられています。

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①震災直後の学習意欲や学力状況の維持や底上げは,なぜ可能になったのか?

 

②NZクライストチャーチの被災校で校長等から聞かれたのは,「震災直後は先生たちも生徒の保護や学習状況維持に強いコミットメントを進めてきたので,学力の維持や底上げに成功しているが,震災の記憶が薄れてきた時期にどうなっているかについては,不安も抱く」という声であった.では,震災後ほぼ6年になる現時点では,震災後数年の状況とのどのような差異が生じているか?また,我が国の場合はどうか.

 

③被災地における子どもの学習への動機づけや成績は,どのようなメカニズムに支えられているか.教育復興という視点からは,これまでの復興政策をどう評価できるか?等の諸点である.

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一読して、気になったのは、

学力維持の要因に関しては、「被災者」あるいは「被災コミュニティ」という自己レッテルの共有を前提として、教育関係者の熱心なコミットメントによるピグマリオン効果やローゼンタール効果、あるいは子ども同士のピアグループ効果ともいうべき状況が経年的に確認できることです。

 

こうした既存の教育学的・心理学的知見が被災地にも同様に確認できるのならば、なおさらアファーマティブな観点も考慮した平等な教育条件の整備を継続させていく必要があると感じました。では、その場合、どのような条件整備の選択肢があるといった論点に関しては、「子どもの貧困対策」等で検討されている諸政策が有効であるという指摘がなされていますが、国レベルあるいは各自治体レベルにおける政策立案に際しては、どのようにその「ロジック」を財政部局等、「教育業界」以外の関係者の方に理解してもらうかが課題となると感じました。

ぜひ皆さまご一読ください。