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【書評】荒井英治郎「ジェームズ・J・ヘックマン(大竹文雄解説・古草秀子訳)『幼児教育の経済学』」『月刊高校教育』2016年3月号,学事出版

ご紹介が遅れましたが、『月刊高校教育』(学事出版)の2016年3月号に、書評を執筆させていただきました。

 

子どもは自らの「生まれ」を選ぶことはできないため、生育環境の質は偶然の範疇であることから、「子どもの貧困」は政策的関与なしに完全には解決し得ない公共的な課題であるといえます。

 

これに対して、ノーベル経済学賞を受賞したシカゴ大学労働経済学者ジェームズ・J・ヘックマンが、「効率性」と「公平性」の2つを両立する稀有な公共政策として主張するのが、就学前教育(幼児教育)への教育投資の重要性です。

 

ミシガン州イプシランティで実施されたペリー就学前プロジェクトなどの知見を踏まえたヘックマンの主張の骨子は、次のようなものです。

 

①人生における社会的成功には、ハードな認知的スキル(IQテストや学力検査等から測定される3R'sや学歴など)と共に、社会的・情動的・行動的・性格的特性であるソフトな非認知的スキル(責任感、忍耐力、学習・労働意欲、自信、努力、協調性、計画力など)が必要であること

 

②非認知的スキルは、認知的スキルの向上にも大きな影響を与えること

 

③2つのスキルは、共に幼少期に発達するが、その発達の程度は家庭環境に左右されること

 

④幼児教育への政策的関与(幼少期の家庭環境を豊かにし、認知的スキルと非認知的スキルに影響を与えること)が、後の社会的問題(教育達成、賃金・就労状況、10代の妊娠、健康状況、犯罪率など)の状況改善に貢献すること

 

⑤従って、幼児教育への教育投資は経済的効率性を促進するだけでなく生涯にわたる不平等をも低減する意義があること

 

⑥思春期以降の非認知的スキルは20歳初めまで発展可能であることからメンター指導や職業訓練指導などの関与が効果的であること

 

 

遺伝子決定論の言うように、人間の全ては遺伝子で決まるのか。教育を受けた方が得になる人が教育を受け、得にならない人が教育を受けていない状況において、社会は、不遇の家庭に生まれた子どもに対して手をこまねいているしかないのか。

 

学力低下論争を経て、学習意欲の低下が指摘されて久しい日本。いかなる範囲の子どもに、何をどのような形で提供し、その費用は誰がいつまで負担していくべきか。

効率性だけでなく、公平で、公正な、これからの「公共政策」の話をしよう!

 

 

この種のテーマにご関心のある方は、ぜひご一読ください。