信州大学教職支援センター 荒井英治郎研究室

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「いじめ防止対策基本法案の背景と論点を探る」『教職研修』2013年5月号

教職研修からご依頼のありました原稿がパブリッシュされました。

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「いじめ防止対策基本法案の背景と論点を探る」『教職研修』2013年5月号,74-77頁。

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こちらは、同雑誌の「【政界激動】どうなる日本の教育行政!-そして学校現場への影響は!?」

と題したリレー式連載の一環として書かせていただいたものです。

 

「いじめは、身体・精神的被害のみならず社会・経済的被害をも与えるものとなる。まさに人間の尊厳を踏み躙る行為であり、到底正当化できない。

いじめが社会問題化して約四半世紀。発生要因や構造的把握、発生後の対応等、様々な対策が講じられてきたが、我が国でも公式的には初めて「反いじめ法」の立法化が検討されている。以下では、第一に、政権交代前後のいじめ対策をめぐる政策過程を概括する。第二に、いじめ対策をめぐる諸外国の動向を概観した上で、法案作成・審議の論点と法制定後の課題を論じる。」

 

ということで、今回は、現在与野党協議等が行われているとされる

「いじめ防止対策基本法案」について、

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①政権交代前後における「反いじめ法」をめぐる政策過程

②諸外国のいじめ対応の動向(ノルウェー、フィンランド、イギリス、アメリカ、韓国)

③「反いじめ法」の法案作成・法案審議の論点

④自治体行政の課題

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といった構成で、執筆させていただきました。

 

とりわけ、

①政権交代前後における「反いじめ法」をめぐる政策過程では、

行政アクターである文科省としては「通知」という政策手段を活用することで教育現場への指導を行っていたのに対し、政権交代後では、「立法」という政策手段の検討が政治アクター(各政党)による政策競争として展開されたこと

 

 

②諸外国のいじめ対応の動向(ノルウェー、フィンランド、イギリス、アメリカ、韓国)では、

各国では、いじめ対策プログラムの作成と共に、指針・計画策定や通報・報告の義務化を内容とする立法化が目指されていること

 

 

③「反いじめ法」の法案作成・法案審議の論点としては、

・法的義務の範囲と罰則の有無

・隣接関連法(刑法、少年法児童虐待防止法など)との法的関係・国の支援のあり方

・国の支援のあり方

が論点となりうること

 

 

④自治体行政の課題としては、

・出席停止制度の運用見直し

・教育行政と一般行政(警察行政)との連携

について触れ、ナイーブな「法規万能主義」に陥らないためには、①いじめの予防と初期対応における学校内及び学校外の手続の明確化、②教育的配慮を加味した治癒と処罰の厳罰化のバランスのとり方が課題となることを指摘しました。

 

そして、最後に、

「法制化の政策効果は測りがたく、即自的効果を期待すること自体無意味である。他方で、子どもを加害者・被害者・観衆・傍観者のいずれにもさせず、毅然とした態度でいじめに向き合う姿勢を国が発信すること自体は無意味ではない。

いじめ現象の特質と対応の困難性を真摯に受け止めた上で、熟慮された条例が制定されること、そして、法的裏付けをもった対応(未然防止・早期発見・早期対応)や支援(子どもや市民への啓発・広報活動の推進、教員研修の実施、人的配置・財政措置など)が積極的に展開されることになれば、「反いじめ法」は教育現場を積極的に支援する潤滑油となる。だが、改革姿勢や崇高な理念・目標(「いじめの根絶・撲滅」など)が先行し、法制化や条例制定が自己目的化すると、非現実的で実行力の乏しい空文化した条例が全国で乱発する可能性もある。

法制定の成否は、①各主体の当事者意識、②慎重かつ大胆な取り組み、③それらを支える継続的支援にある。

「法規万能主義や警察依存主義に陥らず、真に必要な教育活動の役割と機能は何か」。

基本的でありながらも本質的な問いに、教育関係者は改めて向き合うことが必要となる。」

 

とコメントさせていただきました。

 

今回は、簡単なものですが、いずれ何らかの形にしたいと思っています。

よろしければご一読ください。