表と裏

本日は、晴天なり。

北海道出張などを無事に終えて、
昨夜松本に帰ってきましたが、本日は久しぶりに晴天。
まさに夏といった感じでした。
近くにあるプールから聞こえる掛け声とセミの鳴き声をバックミュージック
に今日は書類作成とルーティンタスク。



【本日の一手】

益田文和「裏返された記憶」『UP』第441号,2009年


以下、そんなに長くないので全文を転載します。

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 子供のころお気に入りのぬいぐるみを持っていた人は意外に多い。くたくたになって表面が擦り切れ、色が褪せても手放せないほどかわいがったぬいぐるみ。しかし、子供は毎日多くの新しい刺激を受けて育ってゆく。興味の対象も次々を移り変わり、あれほど愛着を持ったぬいぐるみも、いつかどこかへ行ってしまい、やがて記憶の底にかすかに残るだけになる。
 オランダのデザイナー、ウィリアム・ウィルソンは、子供たちが手放したぬいぐるみを何百何千と集めては、裏返して再生する仕事で知られている。裏返されることによって、ウサギは自慢の長い耳を失い、子犬はかわいらしい尻尾を失う。体の表面を覆っていた軟らかい体毛の代わりにつぎはぎだらけの裏生地が露出し、つぶらな瞳の代わりに尖ったプラスティックの留め具が虚空を見つめる。それまでの愛らしい姿は内側に引っ込んで、代わりにカミングアウトした形はあまりにも異質で衝撃的である。
 しかし、よくよく見ると、どれもこれもなんとも言えない優しい雰囲気を持っている。その表情が明るく誇らしげなのは、子供たちに愛された記憶を内に秘めているからだろうか。裏返ることによって現れた本質は変わらず魅力的であるということにほっとする。美と醜とは表裏一体の関係であって、善し悪しではないということを生まれ変わったぬいぐるみは教えてくれる。
 ウィリアム・ウィルソンとは、エドガー・アラン・ボーの怪奇小説「影を殺した男」の邪悪な主人公とその分身である善人の名である。人の二重人格は自身を滅ぼそうとするが、愛されるために生まれたぬいぐるみはあくまでも善良なのである。

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益田氏はインダストリアルデザインを専門とする方ですが、
文体は非常に読みやすい。

以下もご参照下さい。

http://www.openhouse.co.jp/fumi_masuda/