信州大学教職支援センター 荒井英治郎研究室

信州大学教職支援センター 荒井英治郎研究室に関するブログです。

池ポチャ

研究室の窓からは中庭が見え、そこからは池が見えます。
ランチタイムなど、気分転換を兼ねて外に目をやると、小鳥などが水遊びをしていまして、非常に癒されます。

それとやはり信州は空気と水がいいですね。東京との違いを痛感する日々です。

本日は、授業準備に一区切りをつけつつ、研究室のリニューアルを若干行いました。まだまだ改良の余地大です。





【本日の一手】
『教育経営学研究紀要』第11号,九州大学大学院人間環境学研究院(教育学部門)教育経営学研究室/教育法制論研究室,2008年12月。



九州大学の雪丸武彦さんから送っていただきました。
どうもありがとうございます。



この紀要では、八尾坂修先生の「成立した教員免許更新制度の意義と基本的構造」と題した巻頭言に始まり、研究論文2本、研究ノート2本などが掲載されていました。以下、時間の許す限り、概括を。




まず、研究論文1本目。

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雪丸武彦「市町村教育委員会による学校選択制の制度構想の分析」

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本稿は、「学校選択制を導入している市町村の規則の分析を通じて、市町村が学校選択制をどのように構想したのか、その特徴を明らかにする」(7頁)ことを目的としたもの。


学校選択制を「市町村自治体の自律性が表現された政策」と位置づけた上で、「この自律性がどのように規則となって立ち現れているのか」、自治体の制度構想のメカニズムを分析すると書かれています。


具体的には、上記目的のために、本稿では、①学校選択制を形作る自治体の規則の「立法形式」と、②具体的な学校選択の仕組みを定める「規定内容」に着目した分析がなされていました。このように一つの事柄や事象(学校選択)に対して、いくつかの補助線(立法方式、規定内容)を交えて検討することは非常に興味深いです。


また、本稿の「(学校選択制が)なぜ導入したのか、導入の必要があったのか、という議論から、どのような条件が必要となるのか、という議論をする必要がある」(8頁)という問題意識には共感を覚えました。

ただ、私もよく使ってしまうワードではありますが、「メカニズムを分析する」というのはやはり難しいと思いました。


メカニズムとは何か、definitionですね。


おそらく「メカニズム」を明らかにするためには、①個別事例を緻密に分析しただけでは不十分で、②それを蓄積した上で、総体としての動態や輪郭を描く必要があるように思いました。といってもこれが本当に難しいのですが。ただこうした作業が、ひいては政策的論議に一定程度寄与するのではないかと思います。


さらには、政策研究として色合いを濃くするためには、①②をした上で、やはり「なぜ、いつ、このタイミングで導入したのか」といった政策意図や政策目的などまで立ち戻って検討する必要が出てきてしまうのではないかと思いました。結局はぐるぐる行ったり来たりです。

つまり、前決定やアジェンダセッティングの議論、
さらには、politics make policy、policy makes politicsといったテーゼと関わる部分。


それと、「自律性」の定義はやはり難しいですね。「自主性」「自立性」「先進自治体」「先駆的事例」なども同じ類で、これは何を意味しているだろうと、読み手の思考が一度ストップしてしまうおそれがあります。自戒を込めて。もちろん執筆者も自覚しており、このことは今後の課題にも書かれていました。




次に、研究論文2本目。

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楊川「公立小学校における女性教員のキャリア形成に関する事例分析」

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本稿は、女性教員がどのようにして管理職になり得たのかという問いに迫るキャリア形成に関するものです。

女性教員の管理職へのキャリア形成の実態はこれまで明らかにされてこなかったという問題意識から、本稿は、「公立小学校の女性校長に限定し、事例調査」(25頁)を行っています。

とても興味深かったことは、「女性教員研修団体」に着目している点です。


教育領域には、研修センターをはじめ、(事務職も含む)「教職員」がキャリア形成のみならず力量形成の一環として活用する機会・組織などが多数存在しております。

免許更新講習の導入とも相まって、今後はこうした各種団体が果たしてきた役割やこれから果たすべき機能が再吟味されることは必至だと思われます。このことは免許更新講習を開設する大学側にも全く同じように当てはまることですね。またしても自戒を込めて。


時間がないため、最後の1本。

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濱田恭平「『学校評価ガイドライン』における教育委員会の役割に関する一考察」

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本稿は、「学校評価」に関する素材の検討を通じて、教育委員会が各学校の学校評価に対していかなる役割を担うべきかを考察したものです。



まずは、①文部省『中学校・高等学校 学校評価の基準と手引(試案)』(1951年)、②木岡一明「学校評価をめぐる教育委員会の位置と役割―戦後期学校評価構想の再検討―」『学校経営研究』第14巻(1989年)、③文部科学省「義務教育諸学校における学校評価ガイドライン」(2006年)、④文部科学省学校評価に係る学校教育法施行規則等の一部を改正する省令について(通知)」(2007年)を概括することで、これまで学校評価という文脈において教育委員会の役割がいかなるものとして措定されてきたのかをレビューしています。



その上で、「学校評価ガイドライン」に着目し、問題点として、①市町村教育委員会はガイドラインで提示された業務を担うことができるのかという教育委員会の業務の問題、②学校評価の結果を基礎に、予算や教職員定数の変更といった措置を講ずることに問題はないのかという制度設計上の問題を挙げています(41-43頁)。これらコスト・リソースにかかわる課題・問題点の指摘は首肯し得るものです。



おわりに」(43頁)部分で自身も挙げておられましたが(「研究ノート」という性格からして仕方がないのだと思いますが・・・)、最後に、上記①②の問題の解決が必要であることが指摘されています。ただ、具体的にどのような解決策があり得るのかその道筋をぜひ知りたかったです。

「先駆的な」(また使ってしまった)取り組みを行っている事例を対象とした研究を行っていくのか、法制度等に関わる理論的研究へと発展させていくのか、次なる研究戦略がとても気になりました。


その他、一緒に下記のものも送っていただきました。
後日読ませていただきます。どうもありがとうございました。


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『学校管理職のためのクライシス・マネジメント・スキル開発プログラム』
独立行政法人教員研修センター委嘱事業 教育研修モデルカリキュラム開発プログラム(平成20年度教育課題研修)資料集)九州大学・福岡県教育センター,2009年3月。

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教育の政治経済学 (日日教育文庫)

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教育改革―共生時代の学校づくり (岩波新書)

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学校評価のしくみをどう創るか―先進5カ国に学ぶ自律性の育て方

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