【編集】伊藤良高他編『ポケット教育小六法〈2017年版〉』晃洋書房,2017年
編集委員の仕事をさせていただいている『ポケット教育小六法』の2017年版がこのたび刊行されました。
私は微力ながらのお手伝いしかしておりませんが、少なくとも日本で販売されている教育関係の六法では最もコンパクトでお手に取りやすい価格になっているかと思っています。
ご関心のある方は、是非お手に取ってみてください。
平成28年度におきまして、座長を拝命しておりました「中学校夜間学級設置における課題検討会」の答申がとりまとめられました。
中学校夜間学級は、戦後の混乱期において義務教育を修了できなかった者の就学機会を保障する場として、これまで大きな役割を果たしてきましたが、就学率の上昇に伴い在籍生徒数は大きく減少していました。
しかし、教育をめぐる環境が複雑化・多様化する中で、近年では、様々な事情から本国で義務教育を修了しないまま日本で生活を始めることになった外国籍の者など、多様な背景を持った者たちが中学校夜間学級において将来設計等のために日々懸命に学んでいる状況にあります。
そして、最近では、夜間学級に対して、形式的に中学校を卒業していても不登校などの理由で十分に教育を受けることができなかった者たちの“学び直しの場”としての役割も期待されているところです。これに対して、長野県では中学校夜間学級は設置されていませんでしたが、文部科学省の委託を受け、中学校夜間学級設置における課題検討事業を立ち上げ、検討会、先進地区の県外視察等を実施し、多様な学習機会の確保についての協議を行いました。
以下は、当該検討会の「まとめ」部分の引用です。
—————————————————————————————
これまでの調査結果の分析や本県における課題の整理を踏まえ、入学希望既卒者、学齢超過の外国籍の者の受け皿として中学校夜間学級を設置することについては、現時点でのニーズは確認されなかった。
本県では、当面既存の支援策のさらなる充実をどのように図っていくことができるのかという観点から、今後の検討を進めていくことが望ましいと考える。例えば、外国籍児童生徒に対する支援策としては、県内の一部の自治体で取り組まれている「特別の教育課程」による日本語指導の充実を図ること、地域における関係機関との連携の下で市町村教育委員会やNPO団体等が放課後等に実施している学校外での日本語指導の充実を図ることなど、多様な方法が想定される。ここでは、既存のネットワークを活用し情報共有を図るとともに、さらなる啓発活動や研修支援などを行っていくことが求められる。この他、不登校児童生徒への対応に関しては、子どもたちの相談や学習の場としての役割を果たしている「中間教室」等の取り組みを充実させていくことなど、現在、県内において様々な支援策が検討されていることから、その検討結果を踏まえた上で、さらなる体制強化を図る必要がある。その上で、中学校夜間学級については、国から「各都道府県に少なくとも1校ずつの中学校夜間学級の導入を検討する」との方針が示されていることを踏まえ、今後の動向を注視しつつ、他の都道府県の取組や県内の潜在的なニーズの把握に継続的に努めることが必要である。 —————————————————————————————
他方で、「国への要望」として以下の内容も記載いたしました。
—————————————————————————————
他県の先行している中学校夜間学級では、在籍生徒の8割は学齢超過の外国籍の者であり、日本の社会に円滑に適用できるよう日本語指導や、中学校程度の学習が行われている。今後、グローバル化の進展により、外国籍や外国由来の者が増加することが見込まれ、これらの者が必要な知識や技能を習得し、日本において社会的・経済的に自立することが、社会の安定や発展に重要と考えられる。
現在、公立学校において学齢期の外国籍児童生徒に対しては、「特別の教育課程」による日本語指導などの支援が行われているが、学齢超過の外国籍の者に対しては、このような支援は行われていない。
今後、本県の市町村が中学校夜間学級の設置を検討するにあたっては、日本語の習得を含めた必要な知識・技能を習得できる「特別の教育課程」を構築するとともに、本県では中学校夜間学級での教職経験者が皆無であることと関わって、中学校夜間学級の円滑な導入を進めていくためには、専門性を持った教職員の確保・育成、必要となる教職員の配置や施設設備に対する財政措置などについて、国において検討がなされるよう要望していくことが必要である。 —————————————————————————————
「夜間学級」をはじめとした多様な教育機会の確保のあり方の検討は、これで終わりではなく、むしろ、上記のような現状認識を前提としながら、改めて本格的に検討すべきことと感じています。
引き続き、当該テーマに関しては自分なりの観点で国の動向も含めキャッチアップしていきたいと思っております。
ご報告が遅れましたが、信州大学教職支援センター編『教職研究』第9号に、以下の論文を執筆致しました。
荒井英治郎・丸山和昭・田中真秀「日教組と人材確保法の成立過程」『教職研究』第9号,2016,87-121頁。
私は名古屋大学高等教育研究センターの丸山和昭先生と、川崎医療福祉大学医療技術学部の田中真秀先生の後方支援をさせていただいただけですが、紹介させていただきます。
当該論文は、1974 年に成立した学校教育の水準の維持向上のための義務教育諸学校の教育職員の人材確保に関する特別措置法(人材確保法)の制定過程を当時の日本教職員組合の観点から分析したものです。
人材確保法は,一般公務員に対する教員給与の優遇措置を定めるものとして,教師=専門職化の一つの達成点として考えられてきました。しかし,同法による教員給与の優遇幅は,3-4%程度に縮減されています。他方,2013年の教育再生実行本部の第2次提言では「新人材確保法」の創設が打ち出されています。人材確保法の名を冠する同提言ではありますが,その重点が管理職や一部の優秀教員の処遇改善に置かれるなど,人材を教職に惹きつける施策となるか否かについては疑問が残る内容となっていて、教師=専門職待遇の再構築は,今日,改めて議論の俎上に載せるべき課題であるといえます。
以上のような問題関心のもと,特に本研究では,従来の研究が十分に資料を検討してこなかった,人材確保法成立当時の日教組の動きに注目しました。
人材確保法については,処遇改善施策としての側面と同時に,教師を一般労働者から切断するための制度的・思想的な「専門職」攻撃としての面をもつものとして,日教組関係者からは従来から批判されるものでもありましたが、これら功罪相半ばする人材確保法について,当時の日教組はどのように受け止めていたのか、また,その後の教育・労働運動への影響を,どのように見積もっていたのかという問いが、基本的なモチーフとなっています。
目次は、下記の通りです。
———————————————————————————————————————————————————
1.本研究の問題関心と目的
2.先行研究の検討
3.本研究の着眼点と資料
4.日教組と人材確保法の成立過程
4.1 日教組と四六答申の給与改革提言(1971年6月~1972年6月30日)
(1)四六答申以前の教師=専門職待遇に対する日教組の見解
(2)四六答申の給与改革提言に対する日教組の対応
(3)四六答申の給与改革提言に対する日教組内部の議論
①日教組の課題認識-五段階給与は中教審路線導入のための布石(アメとムチ)である
②日教組の対抗方針-新賃金要求を取りまとめ公務員共闘の独自要求に位置づける
③日教組の内部事情-教員独自の給与改善要求を積み上げる経験が共有されていなかった
4.2 日教組と人材確保法案闘争(1972年7月1日~1973年12月4日)
(1)教員給与改善予算の計上に対する日教組の対応(1972年7月1日~1972年12月末)
(2)教員給与改善予算の確保に対する日教組の対応(1973年1月~1973年12月)
(3)日教組内での議論-五段階賃金阻止・法案阻止で一致/一方で,予算の使途は動揺
①五段階賃金阻止について
②10%予算問題
4.3 日教組と人材確保法闘争の総括(1973年12月5日~1974年8月27-30日) (1)「覚書」の内容的妥当性
(2)執行部の想定の妥当性
(3)方針転換の手続的妥当性
(4)今後の運動方針のあり方
4.4 教師聖職者論と教師労働者論
5.考察
———————————————————————————————————————————————————
今日の教師=専門職待遇の再構築と,教育・労働運動の歴史の解明を進める上で,
検討を欠かすことのできない人材確保法の制度化過程の一端を明らかにしたものとして、ぜひご一読ください。
なお、本研究は,
JSPS(基盤研究(A))「戦後日本における教育労働運動と社会・教育システムの変容との相互作用に関する研究」及び
JSPS(基盤研究(A))「戦後日本における政治・経済変動が教育労働運動に与えた影響に関する研究」の助成を受けた成果のひとつです。
ご関心のある方は、下記からも全文ダウンロード可能ですので、ぜひご一読ください。
文教大学の葉養先生から御送付いただきました。どうもありがとうございます。
本稿は、「2007〈平成19〉年度,2013〈平成25〉年度に実施された岩手県宮古市立中学生対象の2回の調査の対比と,第3回目(2016〈平成28〉年7~8月)の素集計の結果の報告を目的とする.それを通じ,東日本大震災からの教育復興政策の効果について解明を進める」ものです。日本だけでなくニュージランドを含む世界各国の調査を経年的に行っている葉養先生だからこそなしうる研究といえます。
本稿では、研究関心を以下の3点に概括して述べられています。
————————————————————
①震災直後の学習意欲や学力状況の維持や底上げは,なぜ可能になったのか?
②NZクライストチャーチの被災校で校長等から聞かれたのは,「震災直後は先生たちも生徒の保護や学習状況維持に強いコミットメントを進めてきたので,学力の維持や底上げに成功しているが,震災の記憶が薄れてきた時期にどうなっているかについては,不安も抱く」という声であった.では,震災後ほぼ6年になる現時点では,震災後数年の状況とのどのような差異が生じているか?また,我が国の場合はどうか.
③被災地における子どもの学習への動機づけや成績は,どのようなメカニズムに支えられているか.教育復興という視点からは,これまでの復興政策をどう評価できるか?等の諸点である.
————————————————————
一読して、気になったのは、
学力維持の要因に関しては、「被災者」あるいは「被災コミュニティ」という自己レッテルの共有を前提として、教育関係者の熱心なコミットメントによるピグマリオン効果やローゼンタール効果、あるいは子ども同士のピアグループ効果ともいうべき状況が経年的に確認できることです。
こうした既存の教育学的・心理学的知見が被災地にも同様に確認できるのならば、なおさらアファーマティブな観点も考慮した平等な教育条件の整備を継続させていく必要があると感じました。では、その場合、どのような条件整備の選択肢があるといった論点に関しては、「子どもの貧困対策」等で検討されている諸政策が有効であるという指摘がなされていますが、国レベルあるいは各自治体レベルにおける政策立案に際しては、どのようにその「ロジック」を財政部局等、「教育業界」以外の関係者の方に理解してもらうかが課題となると感じました。
ぜひ皆さまご一読ください。
工学院大学の安部芳絵先生から、お送りいただきました。
どうもありがとうございます。
本書は、「reflective practioner」の概念で著名なドナルド・ショーンの著書の訳書となっております。『省察的実践とは何か』に関しては、多くの皆さんも読まれていることと存じます。本書では、行為の中の省察に基づく「実践の認識論」に適合的な専門職教育の在り方を豊富なケースを素材に論じています。
目次は、下記の通りです(出版社のHPより)。
--------------------------------------------
第1部 芸術的なわざを育てる専門職教育の必要性を理解する
第1章 実践の多様な要請に対処する力を専門職として培うために
第2章〈行為の中の省察〉を通して専門職の芸術的なわざを育てる
第2部 〈行為の中の省察〉の教育モデルとしての建築スタジオ
第3章〈行為の中の省察〉としてのデザイン・プロセス
第4章 デザイン学習における逆説と苦境
第5章 コーチと学生との間で交わされる対話
第6章 教示と学習のプロセスはどのように悪い方向に進んでいくのか
第7章 専門職の力量形成のために<省察的実習>を用いる
第3部 〈省察的実習〉の進め方 -いくつかの事例と実験
第8章 音楽演奏のマスタークラス
第9章 精神分析の実践における芸術的なわざを学ぶ
第10章 カウンセリングとコンサルティング・スキルの〈省察的実習〉
第4部 〈省察的実習〉は専門職教育の改革にどのような意味を持つのか
第11章 〈省察的実習〉は大学の世界と実践の世界をどう架橋するのか
第12章 カリキュラム改革の実験
解説(柳沢昌一)
--------------------------------------------
年度末の間に読み進めていきたいと思っています。どうもありがとうございます。
【分担執筆】若井彌一監修(河野和清・高見茂・結城忠編)『必携教職六法(2017年度版)』協同出版,2017年2月。
昨年度に引き続き、「私立学校編 事項別解説」に「私学行政」、「学校法人」、「私学振興」に関するキーワードを執筆させていただきました。
当該六法は、教員採用試験に臨む方に好評のようです。ご関心のある方は、ぜひ手に取ってみてください。