信州大学教職支援センター 荒井英治郎研究室

信州大学教職支援センター 荒井英治郎研究室に関するブログです。

【講演】市民教育講座 第2回「『若者』の現在~18歳選挙権時代 若者は何を考えているのか~」

全3回にわたる「市民講座」の第2回(2月23日)が、松本市中央公民館(Mウイング)にて行われました。


全体を貫くテーマは、『現代の子ども・若者事情〜未来を託す彼らに、大人は、社会はどうあるべきか〜 』です。

第2回では、「『若者』の現在~18選挙権時代 若者は何を考えているのか~」と題して、
①日本における選挙制度のイロハを改めて確認し、②「18歳選挙権」時代における教育実践のあり方と課題を論じた上で、③若者の意識ということで、「信大荒井英治郎×信濃毎日新聞共同調査」、「信州大学松本キャンパス大学生活アンケート2017」の2つの調査データをご紹介いたしました。

「無意識」(当たり前)の感覚は、人間が「終わりなき日常」を生きていく過程で忘れてしまいがちであること、「無意識に」とは、ことばを通して伝達され、刷り込まれ、蓄積され、習慣化され、生活化された知識や情報の記憶の上に成立することから、「無意識」の「意識」化からアプローチさせていただきました。
第1回よりも参加者の方からの質問も増え、私自身貴重な時間となりました。


次回は2週間後。
最終回の第3回では、改めて、「学校・家庭・地域の連携」のあり方をテーマとします。

【ご報告】「信大生×松本市議会プロジェクト」(信州大学学生・松本市議会 意見交換会)

昨年10月に松本市議会から依頼を受け、「信大生×松本市議会プロジェクト」と称して学生と取り組んできた「信大生と松本市議会議員との意見交換会」が、2月17日松本市議会議員協議会にて行われました。

 

信大生側は、2017年1月16日~18日の3日間にかけて506名に実施した「信州大学松本キャンパス大学生活アンケート2017」(実施主体:信州大学教職支援センター 荒井英治郎研究室)のアンケート結果を軸に、「信大生の実態からみえる松本市に対する想い─「信州大学松本キャンパス大学生活アンケート2017」の結果を踏まえて─」と題したプレゼンテーションを行い、その後松本市議会議員と活発な意見交換をさせていただきました。

 

また、私からは「『18歳選挙権時代』の若者と地域連携」と題した総括をさせていただき、①「日本の若者は政治に関心がない」という俗説に踊らされ、短絡的に若者の投票率の「低さ」を嘆き、「子ども」と「大人」の境界線や距離感を明確化していく議論にはあまり意義がないこと、②「政治参加」と声高に叫ぶのではなく、「大人」の方から若者の「地域参加」や「社会参加」の多種多様な方法に向き合い、等身大の若者の「現在」に寄り添い、その声を公共的な場に再設定していくことが、「緊急」で、かつ「重要」な公共政策上の課題となること、等の内容をお話させていただきました。

 

当該アンケートの内容に関しては、いずれ何らかの形で公表したいと思っておりますが、関心のある方は資料等を提供させていただきますので個別にご連絡ください。

 (2月23日の「市民教育講座』第2回でも関連する話題を提供させていただきます)

 

なお、アンケート調査に関しては、2017年2月11日の『信濃毎日新聞』(29面)、当日の様子は、2月18日の『信濃毎日新聞』(29面)で取り上げて頂いておりますので、関心のある方はご確認ください。

 

【講演】市民教育講座 第1回「『子ども』の現在~何が社会で起こっているのか~ 」

全3回にわたる「市民講座」の第1回(2月9日)が、松本市中央公民館(Mウイング)にて行われました。

 

全体を貫くテーマは、『現代の子ども・若者事情〜未来を託す彼らに、大人は、社会はどうあるべきか〜 』です。

 

雪の影響で足元が悪い中、現役高校生から80歳代の方まで幅広い世代の方に参加いただき、本当にありがとうございました。

 

第1回では、「『子ども』の現在~何が社会で起こっているのか~ 」と題して、不登校、引きこもり、子ども貧困、児童虐待、外国由来の子ども支援等について、子どもを取り巻く現在を浮き彫りにし、今後の対応方法のあり方を議論しました。

 

次回、第2回(2月23日)では、
「『若者』の現在~18歳選挙権時代 若者は何を考えているか~」
と題して、大学生を対象とした信濃毎日新聞との共同調査や「信州大学松本キャンパス大学生活アンケート2017」の結果を踏まえて、主権者教育や若者の社会参画について考えます。

 

現時点でも第2回及び第3回の参加受付をしているようですので、ご関心のある方は、ご連絡ください。引き続きよろしくお願いします。

 

【講演】「これからの学校と家庭・地域の連携のあり方を考える」@松本市小中学校事務研究会冬期研修会

本日は、今年1本目の講演の仕事。

 

松本市小中学校事務研究会の冬季研修会@あずさ会館にお招きいただき、

「これからの学校と家庭・地域連携のあり方」に関する講演をさせていただきました。

 

「学校事務職員」を対象者とした講演は初めてでしたが、

講演準備のプロセスだけでも改めてこれまでの学校事務職員を対象とした先行研究や職務をめぐる議論を参照させていただいたこともあり、大変勉強になりました。

 

「学校事務職員」を対象とした研究は、教育行政学の主要な研究対象の一つでもありますので、引き続きその動向をキャッチアップしていくともに、職務のあり方をめぐる規範論も構想していきたいと思っています。

 

改めて貴重な機会を与えていただきどうもありがとうございました。

 

【書評】荒井英治郎「鈴木大裕『崩壊するアメリカの公教育』」『月刊高校教育』2016年12月号,学事出版,94頁。

【書評】荒井英治郎「鈴木大裕『崩壊するアメリカの公教育』」『月刊高校教育』2016年12月号,学事出版,94頁。

 

『月刊高校教育』の2016年12月号に、『崩壊するアメリカの公教育』の書評を書かせていただきました。

 

 公共政策学では、新たな政策課題に直面した時に、政策決定者は他国の政策決定者の意思決定の根拠や、その政策内容に関する情報を収集し、意思決定の判断材料を揃えることが、将来的な政策革新(policy innovation)の前提となるという考え方があります。他方で、他事例の経験は当該政策の効果に関する予測可能性を高めることになるため、政策決定者はその予測に基づいて政策案の修正や不採用を決定することもあり得えます。この意味で、他事例の経験は、先行して採用されているという意味で「先進」的な事例ではあるが、そこから学ぶべきことは「失敗教訓」であることも少なくありません。

 

 では、諸外国の教育政策、とりわけ今次の大統領選の話題で持ちきりの「自由と平等」の国、アメリカの状況はどうでしょうか。多くの方の関心事かと思います。

 

 本書では、80年代以降、アメリカが意図的に採用した新自由主義に基づく市場型教育改革の代表例として、テストの点数に基づく画一的評価の下で行われる学校選択制、バウチャー制度、チャータースクール制度、ゼロ・トレランス政策、アカウンタビリティ政策等が挙げられています。

 

そして、公教育の民営化を軸に小さな政府が主導した「社会実験」は、本来、出自や身分の別なく教育の機会均等を保障することを重視する公教育の場を、全ての学校が生存競争への参加を迫られ排他的に生徒を奪い合う一兆円規模の教育ビジネス市場へと変貌させ、人間の教育を簡素化・抽象化・数値化・標準化・商品化し、経済格差を再生産する社会装置としての側面が顕著であると指摘されています。

 また、発展途上国からの「教員輸入」(ティーチャー・トラッフィキング)が行われる状況下の教師像は「使い捨て労働者」と化し、教職の超合理化と非・脱専門職化へ邁進しているようです。

 さらに、「データ主導型教育改革」は、一部の「納税者」や「教育消費者」にはある程度のチョイス(選択肢)を与えたものの(とはいえ、それは単なる「チャンス」(運)であり、現実にはそれも平等に保障されていないという)、学校は教員の「温もり」が感じられない空間となり、「公教育」や「民主主義」という社会の鍵概念それ自体が危機に瀕しているとの警鐘が鳴らされています。

 

そして、筆者は、断言しています。

 

そこにあるのは、

民主主義(デモクラシー)ではなく、

企業の企業による企業のための国家統治(コーポラトクラシー)であると。

 

 教育政策においてもグローバル市場が形成されて久しいですが、グローバリゼーションの荒波を前に、共通する政策課題に対する解決策を唯一無二と考える認識枠組みこそ問われるべきであると言えます。

 他国の経験からの教訓を糧に、現在地の把握に努めるだけでなく、目的地それ自体を再考すること。

 このことはPISAのフロントランナーに位置づく日本だからこそなし得ることであり、そこで下される英断と新たな教育ビジョンの提言は、オルタナティブな「スタンダード」を構築し、将来的には世界的規模での政策波及(policy diffusion)に寄与することにもなる可能性もあるはずです。

 

「改革幻想」に浸る前に、まずもって本書の「警告」に耳を傾ける必要があると思います。ぜひご一読ください。

 

 

 

 

崩壊するアメリカの公教育――日本への警告

崩壊するアメリカの公教育――日本への警告

 

 

【解説】荒井英治郎「47都道府県 注目の教育課題(長野県)」『教職研修』2016年11月号,127頁

【解説】荒井英治郎「47都道府県 注目の教育課題(長野県)」『教職研修』2016年11月号,127頁

 

雑誌『教職研修』の2016年11月号におきまして、「47都道府県 注目の教育課題」の一環として、「長野県」の状況を解説しました。

 

とりわけ、「一人ひとりの学びが生きる教育立県“信州”の創造」を理念とし、20年後を見据えて策定された「第2次長野県教育振興基本計画」のうち、平成28年度の基本方針を中心に重点施策を概観し、(1)学力の向上、(2)全ての子どもの学びの保障、(3)体力向上とスポーツの振興、を軸に個別施策の解説をしました。

 

(1)学力の向上としては、

・30人規模学級編制等の維持

・学習習慣・生活習慣の確立と基礎学力の定着

・「21世紀型教育」の推進

・英語コミュニケーション能力の育成

・ICTを活用した教育の充実

・「信州学」の推進

・長野県キャリア教育支援センターを核としたキャリア教育の推進

・科学技術人材の育成

 

(2)全ての子どもの学びの保障としては、

 ①困難や悩みを抱える児童生徒の支援策として、家庭の経済状況等に左右されない学習機会の保障、SSWの配置拡充と福祉・医療機関との連携支援体制の充実、学校生活相談センターでの電話相談、原則無料の学習支援(地域未来塾)の推進

 

②いじめを許さない学校づくりとして、教職員研修や相談体制の充実、学校・保護者間の連携協力の促進、子どもの自己肯定感の育成

 

特別支援教育の充実として、自立活動担当教員の増員と支援の充実、特別支援教育コーディネーターを核とする専門機関との連携や校内体制の充実、就労コーディネーターの配置と就労支援体制の強化等が推進されている。

 

(3)体力向上とスポーツの振興としては、

・長野県版運動プログラム(幼児期〜中学生期対象)の活用促進

・「長野県中学生期のスポーツ活動指針」に基づくスポーツ活動の発展

食育・体験学習の推進、スポーツ振興

 

 この他、長野県が提案する「信州教育スタンダード」や、知事部局との連携施策「長野県人口定着・確かな暮らし実現総合戦略〜信州創生戦略〜」に基づく「学びの郷 信州の創造」も、「信州教育」の今後の展開を左右するものとなりますので、ご注目ください。

 

 

教職研修 2016年 11月号[雑誌]

教職研修 2016年 11月号[雑誌]

 

 

【共著論文】中島宏・荒井英治郎「『大学の危機』時代に考える学問の自由・大学の自治─東大ポポロ事件」山本龍彦・清水唯一朗・出口雄一編『憲法判例からみる日本─法×政治×歴史×文化』日本評論社,2016年,187-211頁。

【共著論文】中島宏・荒井英治郎「『大学の危機』時代に考える学問の自由・大学の自治─東大ポポロ事件」山本龍彦・清水唯一朗・出口雄一編『憲法判例からみる日本─法×政治×歴史×文化』日本評論社,2016年,187-211頁。

 


ご紹介が遅れましたが、山本龍彦・清水唯一朗・出口雄一編『憲法判例からみる日本─法×政治×歴史×文化』日本評論社,2016年に、山形大学の中島先生と共著で「東大ポポロ事件」に関する論考を執筆いたしました。

 

同書の「帯」に表記されてある

「【朗報】憲法判例が想像以上におもしろい件について」

がちょっとした話題(?)になっていますが、中島先生の憲法学的アプローチに対して、私の方は「教育学」のこれまでの蓄積から当該判例を再検討を行いました。

 

「学問の自由」は、広く国民一般に対して、「学問研究の自由」と「研究発表の自由」を保障しているのに対して、「教授の自由」については必ずしも保障するものではありません。「教授の自由」は、歴史的経緯とその本質(学術の中心として真理を追究すること)に鑑みて、大学に対して特権的に保障されていると理解されてきたわけです。これに対して、教育学分野(特に教育法学)においては、普通教育機関の「教授の自由」、換言すれば、学校教師、とりわけ初等中等教育段階の教員に「教育の自由」が憲法上保障され得るか、その根拠と範囲が長きにわたり理論的・実践的課題として提起・検討されきましたので、その研究的知見を紹介しました。

 

また、学問的活動の自由を意味する「学問の自由」は、3つの構成要素(学問研究の自由、研究発表の自由、教授の自由)から成り立ち、とりわけ学問研究の自由は「思想・良心の自由」(憲法第19条)から、研究発表の自由は「表現の自由」(憲法第21条)からも一部根拠づけられます。そして、こうした憲法原理は、「聖域」(サンクチュアリ)としての意義を有し、戦後以降の国家権力の対抗原理足りえたわけですが、現代教育改革の特徴は、戦後形成された教育制度のみならず、その制度を支える原理それ自体の再編を企図している点にあります。憲法原理でさえも、もはや例外ではありません。「他律的」に「自律的」な改革が促されていることは言わずもがなです。

 

「大学の自治」を揺るがす今日の状況下において、東大ポポロ事件判決は、「学問の自由」の制度的保障としての性格を有する「大学の自治」の原則の重要性を通時的に喚起させるという意味で現在もなおその重要さは失われていないと考えています。他方で、本判決は、結節点としての大学が高等教育・学術研究・社会貢献という要請に向き合いながら政府・(地域)社会・市場といかなる関係を取り結んでいくことができるのか、新たな政策環境に置かれた相互関係のあり方を問い直し、組み替え、改めて構想していく必要性も逆説的に喚起するものだと思います。

 

同書は目次からも明らかなように、憲法訴訟の解説と共にその背景から判例を眺めることができます。

 

ぜひご一読ください。

 

以下、目次を出版社のHPから転載しておきます(https://www.nippyo.co.jp/shop/book/7227.html


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第1章 小説はプライバシーを侵害するのか
「宴のあと」事件  …………山田哲史・日比嘉高

第2章 社会や家族の変化に民法は応えるべきか
非嫡出子相続分最高裁違憲決定  …………白水 隆・宇野文重

第3章 「投票価値の平等」を阻むものは何か
「一票の較差」判決  …………徳永貴志・砂原庸介

第4章 憲法「土着化」プロセスにみえる「公務員」秩序とは
猿払事件  …………水谷瑛嗣郎・清水唯一朗

第5章 思想・良心に反する行為を拒めるか?
君が代起立斉唱事件  …………堀口悟郎・奥中康人

第6章 「神社は宗教ではない?」が示唆すること
地鎮祭事件  ……石塚壮太郎・藤本頼生

第7章 「お行儀のよいデモ行進」を目指して?
東京都公安条例事件  …………岩切大地・中澤俊輔

第8章 自分の好きなところに店を開くことができない?
薬局開設距離制限事件(薬事法事件)  …………山本真敬・小石川裕介

第9章 「大学の危機」時代に考える学問の自由・大学の自治
東大ポポロ事件  …………中島 宏・荒井英治郎

第10章 「最低限度の生活」を求めて
朝日訴訟  …………武田芳樹・山下慎一

第11章 私のものは「私だけのもの」か?
森林法事件  …………山本龍彦・出口雄一

第12章 日本の解散権は自由すぎる!?
苫米地事件  …………植松健一・小堀眞裕

第13章 「統治行為論」とは何か?
砂川事件  …………奥村公輔・中島信吾・吉田真吾
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憲法判例からみる日本 法×政治×歴史×文化

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